奴隷魔法使い

克全

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王都編

困窮貴族支援

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 『飯豊男爵領・囮場・尊子爵と彩男爵と囮隊』

 「セイゾウ、始めなさい。」

 「はい男爵閣下。」

 「ボスが現れるまで射続けなさい。」

 「はい男爵閣下。」

 国王陛下の勅命を受けて、領地もまだ確定していな飯豊男爵領を囮場として、飯豊魔境を囲む多くの領地で狩りが開始された。王国直轄領・会津公爵家・米沢伯爵家・飯豊男爵家・新発田子爵家・黒川準男爵家・三日市準男爵家の7カ所で、我が家のベテラン冒険者士族が指南役として狩りを指図している、もちろん飯豊男爵家とは彩の事であり俺の事でもある、俺と彩は子供達に分地を認められ、複数の爵位を持つことを許されているのでややこしい。

 当然の結果と言えばそうなるのだろうが、7カ所に既存の魔法組合は参入しなかった。理由は汎用魔法袋の絶対的な不足で、俺と彩の狩る獲物を競売に掛ける量を保管するのも、俺達が貸し与えた魔法袋が無ければ出来ない状態だから、新規狩場の獲物を買い取り・保管するなど絶対無理だったのだ。

 そこで俺と彩は自分達の膨大な魔力は狩りに使わず、当面は汎用魔法袋創りを優先することにした。王都での競売は、当面既存の冒険者組合と唐津尊・飯豊彩が創設した冒険者組合の共催と言う形を取る事にした。もちろん既存冒険者組合が競売に掛ける魔獣・魔竜も、俺と彩が狩ったものが目玉商品である。

 だが今回の大規模狩り訓練には大問題があった。それは昨日俺が属性魔竜ボスを嬲りものにしたことだ、これによって俺の気配を恐れたボスが、どれほど魔境で人間が暴れても迎撃に出てこない恐れがある。そんな事に成ったら全然訓練にならず、俺がいないと狩りが出来ない状態になりかねない。

 (殿様、ボスが来る気配がありませんね。)

 (本当に全然現れる気配が無いね。)

 (昨日殿様が虐め過ぎたのではありませんか?)

 (そうかもしれないね、後は意外と爪が大切なのかも知れないね。)

 (爪がボスのやる気に関係するのでしょうか?)

 (まあ、あくまでも想像でしかないけど、魔力が溜まっているとしたら、切られた事で使える魔力量が極端に低下する事も有り得るしね。)

 (そのような事が有り得るのでしょうか?)

 (あくまでも可能性の1つだから、あまり真剣に考えないで。)

 案の定1時間・2時間と傍若無人に狩りを続けても一向にボスが現れない。仕方ないので2時間で狩りを一旦中止し、次の狩場での囮を開始する事にした。皆に今日の収穫から天引きで用意した、おやつの堅パンを支給したのだが、これは俺と彩が無駄になる魔力を汎用魔法袋創作に使う為の時間稼ぎだ。

 莫大な容量の汎用魔法袋を創作して魔力を半分使い、朝日魔境の狩り訓練を開始した。ここには王国直轄領・村上子爵家・山形子爵家・飯豊男爵家の4カ所の狩場があり、ここにも我が家のベテラン冒険者士族が指南役として派遣され指図をしている。

 「ツチキチ、始めなさい。」

 「はい男爵閣下。」

 「ボスが現れるまで射続けなさい。」

 「はい男爵閣下。」

 (殿様、朝日のボスは現れるでしょうか?)

 (難しいかもしれないね、虐め過ぎは気を付けないといけないけど、この現象が何所でも現れるのなら、俺達が属性魔竜ボスを虐めた後なら、囮役が楽に仕事が出来るかもしれない。)

 (そうなれば皆がもっと楽に狩りが出来るかも知っれませんね。)

 (ここも暫く試してみよう。)

 困った事のここでも2時間狩りをしても属性魔竜ボスが現れなかった。属性魔竜ボスと言えども恐怖心やトラウマがあるのか、昨日の事で魔力・体力が枯渇しているのか、全然魔境を護ろうとしない。これでは全く囮役の訓練にならない。

 一旦昼食休憩に入る事にしたが、この昼食も今日の収穫から天引きで用意した。なぜ天引きで食事やおやつを用意したかと言うと、困窮する貴族家の陪臣では満足な食事を用意できないと判断したからだ。それでは大切な狩りの最中に不覚を取る者が出るかもしれない。もちろん俺と彩は今回も汎用魔法袋創りをした。

 仕方が無いので俺と彩で2か所の魔境を挟んで南北に分かれる事にした。俺と彩は飯豊男爵領の囮場を離れ、俺は朝日魔境の最北端で囮役と共に陣取り、彩は飯豊魔境の最南端に囮役と陣取る事にした。そしていよいよ飯豊魔境での狩りを再開した。

 (始めなさい。)

 「セイゾウ、飯豊男爵閣下から合図の念話が来ました、狩りの再開です。」

 「よっしゃ! 待ってました。」

 (始めろ。)

 「ツチキチ、飯豊男爵閣下から合図の念話が来ました、狩りの再開です。」

 「わかった!」

 俺と彩は念話で13カ所の囮場・狩場に再開の連絡を入れた。一斉に再開された狩場では皆が喜々として狩りに勤しんでいた。今まで食べたことの無い甘くて美味しい堅パンや、滅多に食べる事の出来ない米の握り飯にやる気がみなぎっていた。

 「作之助殿、競りが終わって我らの手元に分配金が手に入るのは何時になるのかな?」

 「さあな、指南役殿の話では来月末では無いか?」

 「せめて今月末に頂けないものかの~、三井屋に借金を返さねばならんのだ。」

 「美野吉殿も三井屋に借金があるのか?」

 「我が家の者で三井屋に借金の無い者などおらんだろう?」

 「それもそうだな、我が米沢伯爵家で三井屋に借金の無い家臣はおらんな。」

 「筆墨料や踊りで借金が年で倍に膨らむ、せめて今月に一部でも返せれば、3ヶ月に1度の筆墨料2割を負担しなくていいのだが。」

 「家中の者は禄や扶持の5年分は借金しているからな。」

 「中には妻や娘を妾に紹介すると迫られている者もいるそうだ。」

 「それは酷いな! この狩りが成功してもらいたいな。」

 最初の1時間は両魔境とも全く反応が無かったが、遂に飯豊魔境で動きがあった、属性魔竜ボスが迎撃に現れたのだ。
 
 「シズナ、付いてきなさい。」

 「はい! 男爵閣下。」

 「弩を射て。」

 「はい!」

 彩は、飛行魔法の防御魔法同時稼働が出来る、中級下魔法使いのシズナに囮を教えていた。攻撃方法が無いから魔竜素材で作った弩と矢を貸し与えている。この弩でボスの気を引き囮役を全うするのだが、魔力総量に限りが有るため、魔晶石も貸し与えなければ囮役を全うできない。

 ボスも俺の気配が無くなったから迎撃に出て来たのだろうが、彩が指南役をしているシズナに翻弄される事に成る。だがボスも昨日の今日で魔力・体力共に限りがあったのだろうし、攻撃力が小さいシズナより、5000人規模で狩りをする米沢伯爵家の狩場を襲おうとした。

 (撤退! シズナもっと早く撤退の指示を出しなさい!)

 「はい! 申し訳ありません。」

 今までの狩場では経験豊富な冒険者の指導の下で狩りが行われていた為、危険になっても撤退が素早く行われていた。未経験者ばかりの常陸大公家・家臣狩猟隊が狩場とする八講魔境でも、多摩出身の冒険者が重点指導したうえ、ボスが今までで1番小型で弱いため、ブレス射程が短く移動速度も遅いため、ぎりぎりやってこれた。

 だが飯豊魔境ではボスの強さが標準なのに、1つの狩場に素人の陪臣が5000人も投入され動きが鈍い。借金で首の回らない家臣を助けたい米沢伯爵の親心では有るが、1つ間違いがあれば全滅しかねない。彩はこのままでは5000人がボスに皆殺しにされると判断し、仕方なく介入する事にした。

 (殿様、この狩りは問題があります。)

 (どうしたんだい?)

 (狩場の陪臣達の動きが悪すぎます、囮役の実力ではボスを引き付けられません。)

 (攻撃能力に問題があるのか?)

 (それもですが、狩場に集まる陪臣の数が多すぎて、そちらにボスが引き付けられてしまいます。)

 (米沢伯爵家の事だね、だとしたら陪臣達が借金返済出来るまで、特別待遇してあげないといけないね。)

 (ですが囮役に無理させると死につながります。)

 (そうだね、攻撃力の有る魔法使いに、飛行魔道具と防御魔道具を創作して貸し与えようか?)

 (盥空船と盾でございますか?)

 (そう、盥空船と言っても1人用の両足に装着する円盤だよ。)

 (承りました、詳しい事は間食の時にお聞かせ頂きます。)

 (今は彩が囮してるんだよね。)

 (はい。)

 (どう? 爪や鱗は狩り取れそう?)

 (勝てるかどうかは分かりませんが、強化した盾を駆使すれば負ける事は無いですし、素材として使う位の身体を削り取る位は出来そうです。)

 (皆に念話で確認したら撤退は終了したそうだ、間食休憩にしよう。)

 (承りました。)

 彩は魔力・体力が尽きたのだろう、隠れ家に逃げ帰ろうと足掻くボスを逃がしてやることにした。自分の実力を確認したくて、少し意地悪して逃げる邪魔をしていたのだ。ブレスを全て避けられ、何度も魔法で打ち叩かれ、早々に逃げようとしていたのだ。

 「男爵閣下、不甲斐無くて申し訳ありません!」

 「気にする事はありません、他の狩場なら十分囮が務まる実力です。ただここは5000人以上の陪臣が狩りをしている特別な場所です。ボスを引き付けなければいけない時間も長く、撤退指示も素早く出さねばなりません。」

 「はい・・・・・」

 「殿様が特別な魔法道具を創り出して御貸しして下さるそうです、思い悩む事無くこれからの事を考えなさい。」

 「有難うございます! 次は御期待に添えるように頑張ります!」

 俺と彩は毎食事の決まり事をした。魔力の半分を消費する汎用魔道具創りと、その後の魔力回復の為の大量の食事と、身心と魔力を鍛錬する為の経絡経穴・内臓への魔力循環、そして何よりの楽しみな食事。

 「殿様、魔竜素材と魔晶石の組み合わせで創り出した魔竜道具の盾ですが、これ位の防御力なら貸し与えても大丈夫なのではないですか?」

 「大丈夫だとは思うけれど、慎重にしたいから、毎回狩りが終わったら回収した方が好いね。」

 「この新作の飛行用の下駄もですか?」

 「これは特に秘密にしないとね。」

 「何故でございますか?」

 「これは小さいとは言え盥空船と同じ仕組みだからね、今盥空船を持っているのは俺達と王家だけだよ、これ程の軍事機密を簡単に漏らす訳にはいかないからね。」

 「あ! 王家からも御叱りを受けると言う事ですね。」

 「そうだよ、下手すれば厳罰処分だよ。まあ今の力関係で王家が俺達を処分する事など出来ないけど、不信感を持たれるのは得策ではないからね。」

 「それは確かにそうですね。」

 「では行こうか!」

 「はい!」
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