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第1章

第43話:チャレンジャー

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 予想はしていましたが、自衛隊の小銃射撃は全く効果がありませんでした。
 遠距離からの連続射撃なので、全弾命中とはいきませんでしたが、それでもかなりの弾数が命中していました。

 僕が遠めに見ただけではなく、レンジャー部隊の指揮官がスコープで確認して、人間なら確実に即死している場所に着弾しているのに、平気で立っています。

 これだけ分かっただけでも十分な成果なのですが、それ以上に価値ある情報は、モンスターがダンジョンの出入口から100メートル以内を動かない事です。

 僕たちが射撃を続ける方向に近づいて、いかくするように手足を大きく動かしましたが、決して100メートルのラインを超えようとしませんでした。
 
 少なくとも今時点では、モンスターはダンジョンの出入口100メートルから出られないと分かった事で、地域の住民が安心して暮らせます。

 モンスターの行動範囲が広がるのを警戒するのなら、ドローンを常に100メートル付近に置いておけばいいのです。

 ダンジョンの出入口から110メートルにホバリングさせていたドローンが破壊されたら、ダンジョンの出入口が広がったか動いたか、あるいはダンジョンから漏れだす力が増えたかです。

「もう撤退されても良いのではありませんか?」

 自分たちの装備、武器では戦えない、僕を守れないと分かったレンジャー部隊の隊長が提案してきた。

「そうですね、もう1つだけ確認したら撤退します」

「何を確認されるのですか?
 あまりにも危険な事でしたら、力づくで止めさせていただきます」

 さすが歴戦の自衛官だけある、僕の決意を見抜いている。

「全く危険がないとは言いませんが、隊長たちが協力してくださるなら、それほど危険はありません」

「どのような事をされるのか、具体的に教えてくださらない限り、簡単に賛成はできません」

「あのモンスターと直接戦おうというのではありません。
 ダンジョンの出入口から100メートル以内に入って、僕が魔術を使えるかどうか確かめるのです」

「なんですって?!」

「僕の魔術が使えれば、僕以外の人間でも魔術が使える可能性があります。
 ダンジョンの中と同じように、レベルアップした状態で戦えるかもしれません」

「確かに、その点を確かめられたらすごい成果にはなります。
 ですが、呪文には詠唱が必要になります。
 詠唱している間にモンスターが攻撃してきたら、どうするのですか?」

「モンスターを僕が近づく反対側に引き付けてもらいます。
 最初は大量のドローンをギリギリの位置でホバリングさせます。
 僕が境界線を超える前に、先にドローンを境界線の中に入れてもらいます」

「多少の時間は稼げるでしょうが、これまでのモンスターの攻撃を考えると、直ぐにドローンを破壊して竜也殿の所に行きますよ」

「ドローンが破壊されたら、小銃でモンスターを撃ってください」

「危険です、流れ弾が竜也君に当たります!」

「だいじょうぶです、僕のスーツは特別製で、自衛隊の小銃弾が貫通しないように作られていますので、狙撃されても傷1つつきません」

「そう言われても『はい、やります』とは言えませんよ」

「では実際に僕が小銃を借りて撃ってみます。
 至近距離で撃ってもだいじょうぶなのが確認できたら、やってもらえますね?!」

「小銃を民間人に貸すというのは……」

「自衛官の方にお願いして良い事ではなかったですね、ごめんなさい。
 では、支援者の方が持って来てくださった小銃でやって見せましょう」

 深雪お姉さんのファンが売りに来てくれたのはドローンだけじゃなかった。
 ロシア軍が正式採用している自動小銃、AK12も結構な数持って来てくれた。

 AK19だと自衛隊の小銃と同じ弾丸で良かったのだが、そこまで僕たちに都合良くは行かなかった。

 ダダダダダダ。

 隊長が止める前に、自分の左前腕を連続射撃で撃ち抜いた。
 離れた場所にいたレンジャー隊員が射撃体勢でこちらに小銃を向けている。
 さすが、即応能力にとんだレンジャー隊員だ。

「申し訳ない、僕のスーツが小銃弾を弾くのを証明していました」

「脅かさないでください!」

 警戒してくれていたレンジャー隊員に怒られてしまったが、これで隊長も納得してくれるだろう。

「目の前でここまでやられたら、現実を無視した反対もできません。
 ですが、もうこのような事はやらないでください。
 スーツの性能を証明する時は、隊員全員に事前説明したうえでやってください」

「そうですね、少し隊員の方々を軽く見てしまっていました。
 隊長が民間人を犠牲にするような作戦をやろうとしたら、命がけで反対する隊員がおられるのですね。
 分かりました、もう1度全隊員の前でスーツの性能を確認してもらいます」

「スーツの性能を証明するだけでは実行させられませんよ。
 ドローンとの連携がちゃんとできるか確認させていただきます。
 これまでのモンスターの動きが罠だと仮定して、それでも竜也殿を逃がせるように、隊員と車両の配置を考えます」

 ☆竜也のライブ動画

ゆうご:おい、おい、おい、本気か、本気で100メートル以内に入るのか?!

ノンバア:竜也君が反対側に移動したわよ!

Rafael:日本の自衛隊も動きだしたぞ!

藤河太郎:二方面から挟み撃ちにするのか?

雷伝五郎:どうなると思う?

Benno:竜也君の検証が正しいとしたら、奇襲攻撃が成功するかもしれない。

ノンバア:竜也君がこれまで秘密にしてきた魔術を見せると思う?

ゆうご:タカラブネファミリーがやらせないのではないか?

藤河太郎:そうだな、俺たちが全く知らなかった魔術情報だからな。

雷伝五郎:だが、これまでも結構な秘密を表に出していたぞ!

Rafael:それはタカラブネファミリーの許可があったからだろう?

Benno:俺たちのような素人や並の冒険者が知らなかっただけだろう。

ノンバア:トップ層の冒険者の間では知られていた事なのでしょうね。

ゆうご:そうだったとしても、攻撃魔術までは表に出さないだろう?

Rafael:トップ層では知られている攻撃魔術なら表に出すのではないか?

藤河太郎:黎明期から混乱期に出回った攻撃魔術だな。

雷伝五郎:ああ、あの当時から現役でやっている冒険者が使っている魔術だ。

ノンバア:それが竜也君も使えるとなると、大騒動になるわよ!

Rafael:そうだな、若い冒険者でもレベルさえ上げたら魔術が使えるのだからな。

Benno:それと呪文だな、呪文を知る者は限られている。

ゆうご:それが一般的に広まったら、既得権益を得ている連中が腹を立てるな。

藤河太郎:竜也君が逆恨みされて狙われるという事だな。

雷伝五郎:そこまで分かっていて、本当に攻撃魔術を使うのか?

Rafael:動いた、ドローンが動いたぞ!

Benno:モンスターの迎撃だ!

ノンバア:次々と破壊されているぞ!

藤河太郎:竜也君が動いた!

雷伝五郎:動くな、そのままでいろ、モンスター!

Rafael:自衛隊が射撃を始めたぞ!

Benno:流れ弾はだいじょうぶなのか?!

ノンバア:今よ、モンスターが残りのドローンを破壊している間よ!

Rafael:燃えた、モンスターが炎に包まれたぞ!

ノンバア:なんてこと、こんな破壊力のある火炎系攻撃魔術は聞いた事がないわ!


★★★★★★

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