婚約者に裏切られました。

克全

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第一章

第5話:誘い手

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 何も知らないアーサーが、セラン皇太子殿下を殺せとわめき続けています。
 セラン皇太子殿下の正体を知っている王侯貴族は、いえ、近衛騎士も警備兵も、誰一人アーサーの命令に従おうとしません。
 セラン皇太子殿下の激怒が理解できるので、誰もアーサーに真実を教えようとはしませんが、命を捨てる覚悟の有る忠臣が諫言するかもしれませんね。

「私を殺す、それは本気かな、本気なら家の存亡を賭けた戦いになるぞ」

 やはり、セラン皇太子殿下はアーサーを罠に嵌めて開戦の口実をつくり、プラット王国を併合するためにここに来られたのですね。
 私を祝うために来てくださったわけではないのですね。
 分かっていたこととはいえ、明らかになると哀しくなってしまいますね。
 もう少し、優しい嘘に包まれていたかったです。

「やまかしい、田舎公爵が偉そうに、望み通りプラット王国軍で攻め滅ぼしてやる」

 馬鹿が、取り返しのつかない言葉を吐きました。
 もうこれで我が国の滅亡は避けられません。
 最低でも王家は皆殺しにされ、皇族の誰かが属国の諸侯王としてやってきます。
 その時には、この国の貴族もただでは済まないでしょう。
 妹が開戦のきっかけになった我がエンドラ公爵家も、攻め滅ぼされるでしょうね。

「その言葉、宣戦布告と受け取った。
 もう取り返しはつかんからな、覚悟してその首を洗っておけ」

 セラン皇太子殿下は、アーサーではなく満場の国内外王侯貴族に宣言されました。
 ですがそれは、狂犬のようなアーサーから視線を外すことになります。
 それはあまりに危険な行為で、身勝手で卑怯なアーサーがこの機会を見逃すはずはなく、視線を外されたセラン皇太子殿下に斬りかかっていきました。
 一瞬心臓が止まるかと思うほど恐怖を感じました。
 セラン皇太子殿下が助かりますようにと、神々に願い奉りました。

 プッシャアアアアアア!

 実際に音が聞こえるほどの勢いで、アーサーの両腕から血が噴き出しています。
 アーサーの両腕が、肘の少し上からなくなっています。
 セラン皇太子殿下は全く微動だにされていませんが、その前に一人の巨大な騎士が立ち、巌のように護っています。
 間違いなくセラン皇太子殿下の守護騎士だと思いますが、あれほどの偉丈夫がこの会場にいたら、誰でも気が付くはずなのに、私は全く気が付いていませんでした。

「下劣外道な塵が、セラン皇太子殿下に指一本触れさせん!
 セラン皇太子殿下の守護騎士であり、ルセド皇国大将軍格のザウェル辺境伯モントが、セラン皇太子殿下に成り代わりここに宣言する。
 ルセド皇国は、プラット王国の卑怯極まりない騙し討ちに怒り、宣戦を布告する」
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