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「私が不可触民に配ります。
おやじさん、金の心配はいらないよ。
あるだけ焼いてくれ。
それに、大ネズミの内臓じゃそれほど高くはないんだろ」
「まいったねぇ。
食べてもいないのに分かっちゃうんだ。
立派な戦士様も昔は下層民かい?」
気さくな男は嫌いじゃない。
まして長年の苦労が顔に刻み込まれているにもかかわらず、内面の人の好さがにじみでる笑顔を浮かべていれば、好意を持ってしまう。
昔下層民だったのかなんて、普通の奴が口したら、顔の形が変わるくらい殴ってやるところだが、今の私の姿を心から喜んでくれているのが分かるから、苦笑いを浮かべるしかない。
「ああ、さんざん食ったよ。
いや、大ネズミの内臓肉すら喰えなく、いつも腹を空かせていたよ」
「ここの不可触民も同じさ。
みんないつも腹を空かせている。
俺も家族を養っていかなきゃならんから、そうそう施しもしてやれん。
最近じゃ聖女様のお恵みもなくなって、厳しくなっているからなぁ」
「へぇ、聖女様のお恵みがなくなったのかい?」
「ああ、サザーランド公爵家のアジュナ様が領地におられた時は、公爵家の領内だけでなく、周辺の領地にいる貧民や不可触民にまで心を砕いてくださっていたんだが、王太子殿下の婚約者に選ばれ、王都に呼びだされてからわなぁ。
アジュナ様もお忙しくて、サザーランド公爵領内はともかく、他領の者にまでは支援して頂けなくなったよ」
「ほう。
私は他国から流れてきた傭兵なんだ。
この国の事は何も知らないんだよ。
だから私の言う事で気を悪くしないでくれ」
「わかってるよ。
ちょっと訛りあるからな。
それに口が悪いのは俺の方さ。
何でも言ってくれ」
噂話に興じているが、口と手は別だ。
おやじさんはあるだけの内臓肉を焼いていて、私とアジュナ様は子供たちに内臓肉をくばる。
いや、子供たちだけでなく、大人の貧民や不可触民にまでくばる。
御者は顔をしかめているが、おやじさんも私もアジュナ様も、なんのてらいもなく笑顔を浮かべている。
「だがアジュナ様は聖女様なんだろう。
すべてを見通し、惜しみなく恵んでくださる存在なんじゃないのか?」
「あっはははは!
他国じゃどうか知らんが、この国の聖女様は神様じゃない。
大きな声では言えんが、王家も大貴族も聖女様の言葉を必ず聞いて下さるわけじゃないんだよ。
聖女様が貧民や不可触民に慈悲を与えて欲しいと言って下さっても、それを守る貴族なんていやしないのさ。
聖女様だって金のなる木を持っておられる訳じゃない。
王太子殿下の妃候補になられて、王都で過ごすようになれれば、今までのように直轄領の収入を全てお恵みに回せるわけじゃないのさ。
まして一度も領地を見まわれなきゃ、聖女様が恵みに与えるように指示された作物や金を、家臣が着服していてもわからないさ」
アジュナ様が哀しそうな、でもどこかあきらめきったような顔をしている。
おやじさん、金の心配はいらないよ。
あるだけ焼いてくれ。
それに、大ネズミの内臓じゃそれほど高くはないんだろ」
「まいったねぇ。
食べてもいないのに分かっちゃうんだ。
立派な戦士様も昔は下層民かい?」
気さくな男は嫌いじゃない。
まして長年の苦労が顔に刻み込まれているにもかかわらず、内面の人の好さがにじみでる笑顔を浮かべていれば、好意を持ってしまう。
昔下層民だったのかなんて、普通の奴が口したら、顔の形が変わるくらい殴ってやるところだが、今の私の姿を心から喜んでくれているのが分かるから、苦笑いを浮かべるしかない。
「ああ、さんざん食ったよ。
いや、大ネズミの内臓肉すら喰えなく、いつも腹を空かせていたよ」
「ここの不可触民も同じさ。
みんないつも腹を空かせている。
俺も家族を養っていかなきゃならんから、そうそう施しもしてやれん。
最近じゃ聖女様のお恵みもなくなって、厳しくなっているからなぁ」
「へぇ、聖女様のお恵みがなくなったのかい?」
「ああ、サザーランド公爵家のアジュナ様が領地におられた時は、公爵家の領内だけでなく、周辺の領地にいる貧民や不可触民にまで心を砕いてくださっていたんだが、王太子殿下の婚約者に選ばれ、王都に呼びだされてからわなぁ。
アジュナ様もお忙しくて、サザーランド公爵領内はともかく、他領の者にまでは支援して頂けなくなったよ」
「ほう。
私は他国から流れてきた傭兵なんだ。
この国の事は何も知らないんだよ。
だから私の言う事で気を悪くしないでくれ」
「わかってるよ。
ちょっと訛りあるからな。
それに口が悪いのは俺の方さ。
何でも言ってくれ」
噂話に興じているが、口と手は別だ。
おやじさんはあるだけの内臓肉を焼いていて、私とアジュナ様は子供たちに内臓肉をくばる。
いや、子供たちだけでなく、大人の貧民や不可触民にまでくばる。
御者は顔をしかめているが、おやじさんも私もアジュナ様も、なんのてらいもなく笑顔を浮かべている。
「だがアジュナ様は聖女様なんだろう。
すべてを見通し、惜しみなく恵んでくださる存在なんじゃないのか?」
「あっはははは!
他国じゃどうか知らんが、この国の聖女様は神様じゃない。
大きな声では言えんが、王家も大貴族も聖女様の言葉を必ず聞いて下さるわけじゃないんだよ。
聖女様が貧民や不可触民に慈悲を与えて欲しいと言って下さっても、それを守る貴族なんていやしないのさ。
聖女様だって金のなる木を持っておられる訳じゃない。
王太子殿下の妃候補になられて、王都で過ごすようになれれば、今までのように直轄領の収入を全てお恵みに回せるわけじゃないのさ。
まして一度も領地を見まわれなきゃ、聖女様が恵みに与えるように指示された作物や金を、家臣が着服していてもわからないさ」
アジュナ様が哀しそうな、でもどこかあきらめきったような顔をしている。
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