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57話

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「ノドン子爵閣下、ミルド子爵閣下、わざわざご足労していただき、申し訳ございません」

「いや、大切な領地の事だ、気にしないでくれ。
 それで、ここがダンジョンの入り口なのか?」

「いえ、まだ地上に続く入り口は発見されていません。
 ミスリルを採掘するために深く掘っていた時に、偶然ダンジョンに繋がってしまったのです。
 塞いでしまうか、冒険者に探索を依頼するか、ご判断願います」

 陞爵式が終わって僅か十日、このような重大な発見があるなんて、誰が想像したでしょう。
 魔境やダンジョンは、たいてい昔から場所が分かっているモノです。
 莫大な富を生み出す魔境とダンジョンは、人の欲を掻き立て、常に戦争の原因となってきました。
 このように、偶然発見される事など滅多にありません。

「まだどこにも話していないのだな?」

「はい、緘口令を敷いています。
 ですが、人の口には戸が立てられないと申します。
 絶対に秘密にできるとは申し上げられません」

 まあ、その通りですね。
 人間の口はとても軽いのです。
 特に酒を飲んだ後は軽くなるモノです。
 それに過酷な現場で働く鉱山労働者は、酒を飲んで歌って踊って大騒ぎして、うっぷんを発散すると聞きます。
 ここは直ぐに噂が広まる前提で話すべきですね。
 
「そう、だな。
 では自由戦士ギルド本部に相談しよう。
 それまでは厳重に封印していてくれ。
 君達が魔獣に襲われるようになっていけないからね」

「ありがとうございます、ミルド子爵閣下」

 私達は鉱山技術者一族の長に、坑道の入り口で報告を受けた後で、そのまま自由戦士ギルド本部に向かいました。
 荒地ではありますが、そこそこ広い土地が自由戦士ギルド領となっています。
 地下用水路のお陰で、それなりの収穫が期待できる耕作地もあります。
 他の国や貴族領では考えられない、築城権まで与えています。
 陪臣士族の士爵に許された城なので、色々な制限があり、貴族の城のようにはいきませんが、防御力だけを考えれば、貴族の城と大差ありません。

「ノドン子爵閣下、ミルド子爵閣下、わざわざこのような場所に足を運ばれるなど、いったい何事でございますか?」

 自由戦士ギルドのマスターが凄く驚いています。
 自分の領地ではありますが、社交を優先する貴族は王都に常駐して、領地の事は家臣に任せます。
 それに、ノドン子爵領とミルド子爵領に関しては、荒地ではなく豊かな農地に領都が定められ、領城が築城されています。
 普通なら荒地に来る事などありません。

「ギルドマスター。
 大切な相談があるのだが、構わんか?」
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