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初恋で結ばれる

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 第一王子は四人から全てを聞きだした。
 グレースは後宮から逃げ出そうとしたが、逃げ出せるはずもない。
 簡単に捕まり、全てを自供させられた。
 女しかいない後宮で、女だけが行う拷問だ。
 どれほど情け容赦がなく、残虐非道なのか、女性なら想像できるだろう。

 自供を引き出せば後は簡単だった。
 単なる部屋子への殺人未遂ではすまなくなったのだ。
 オリビアを殺そうとした事は、お手付きになったグレースが、訪れなくなった国王に対して意趣遺恨を持っていたことになるのだ。
 しかもオリビアは正妃の部屋子なのだ。
 正妃に喧嘩を売ったことになるのだ。

 しかも方法が悪すぎた。
 第一王子の部屋に不法潜入したのだ。
 これを第一王子ジェームスは、自分への殺人未遂だと断じたのだ。
 強引なこじつけではあるが、絶対にないとも言えなかった。
 一応グレースは国王のお手付きになっている。
 寵愛を取り戻して男児を生み、先に生まれた王子全てを殺せば、自分の孫を王位につける事も不可能ではないのだ。

 グレースとメクスバラ伯爵は必至で抗弁したが、許されなかった。
 二人とも処刑され、伯爵家は取り潰された。
 領地は第一王子ジェームスに与えられることになったが、ジェームスはそれを辞退し、その代わりオリビアが欲しいと言いだした。
 国王も正妃も最初は難色を示したが、あまりにジェームスが真剣に頼むので、しかたなく許すことにした。

 国王も正妃も軽く考えていた。
 ジェームスくらいの年頃なら、初恋に夢中になっても、直ぐに気持ちが離れる。
 そう考えていたのだが、ジェームスの心は生涯変わらなかった。
 死ぬまでオリビアただひとりを愛し続けた。
 
 後宮にいる事が許されない歳になったジェームスには、直ぐに宮が与えられたが、その宮には新たな役目が創られた。
 ジェームス宮の奥、後宮の庭全てを取り仕切る、上級女官の役目だ。
 当然それはオリビアに与えられた。
 親の身分的にありえない事だったが、表と奥では家格の評価は変わる。
 反対した者がいないわけではなかった、反対した者はジェームス宮から追放された。

 年頃となり、二人は自然と結ばれた。
 若い二人だ、日に何度も愛しあうことになる。
 当然だが、オリビアが身籠った。
 国王と正妃は苦悶した。
 身分の低いオリビアがジェームスの長男を生んだのだ。
 将来の王位継承がもめるのが目に見えていた。
 二人が厳しい処置を取ろうか逡巡している間に、ジェームスの正妃に自分の娘を送り込もうとしていた某侯爵が刺客を送った。

 だがそうなる事をジェームスは予測しており、簡単に捕まえて自白させた。
 それからのジェームスの行動は激烈であった。
 自分を殺そうとしたと断じで、このを騎士団を率いて某侯爵家を攻め滅ぼしたのだ。

 国王と正妃は恐怖した。
 その事を報告に来た時のジェームスの眼が、オリビアに手をだしたら親でも殺すと、雄弁に物語っていた。
 オリビア以外の事は、この国始まって以来の名君候補と呼ばれているジェームスを、殺す決断もできなかった。

 その後もジェームスとオリビアの仲を裂こうとする者は後を絶たなかったが、その全てをジェームスは跳ね除け、オリビアだけを愛し続けた。
 オリビアは生涯に政治向きの事には口出しせず、花を育てて暮らした。
 二人は六男五女をもうけて幸せな一生を送った。
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