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第一章

第2話:母娘

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「え、母上様、どうなされたのですか」

 私は急いで母上様の台所領に行こうと思いました。
 母上様にはなにも伝えない心算でした。
 一応私も従魔を授かっていますから、最低限の面目は立ちます。
 母上様には実家の力もあります。
 だから母上様の地位は揺るぎのないモノだと思っていたのです。

「どうもこうもありませんよ、ソフィア。
 貴女のいない王都で私が暮らせるわけがないでしょ。
 しょせんリバコーン公爵とは政略結婚でしかないのです。
 聖女を得るために、とっかえひっかえ女と交わるような公爵とこれ以上一緒に暮らす気はありません」

 母上様は私と一緒に辺境の領地に籠ってくださるというのです。
 結婚前はマウント公爵家の真珠と呼ばれた母上です。
 結婚してからは母国の名を冠してカーク王国の真珠と呼ばれていました。
 そんな母上様に大魔境に接する辺境についてきていただくなんて、申し訳なさ過ぎて涙が流れてしまいました。

「何を泣いているのですか、ソフィア。
 私の娘なら誇り高く前を向いて歩きなさい。
 それに私の台所領は泣かなければいけないほど酷い場所ではありませんよ。
 実家のマウント公爵家でもとても豊かな場所を割譲していただいたのです。
 産物や税を私に届けやすいように、カーク王国とハミルトン王国が領地を接している場所を選んで割譲してくれたのですよ」

 そんな話は初めて聞きました。
 母上様は全く贅沢をされない方でしたから、豊かだなんて初耳です。
 側室達や異母妹達からは、実家から見捨てられて形だけの領地しかもらえなかったのだと、散々悪口を聞かされていました。

「ソフィア、貴女が何を考えているかなんてわかっていますよ。
 私が贅沢をしないのは、民からの税は民に還元するモノだからです。
 税はまず悪人や魔獣から民を護るための軍備に使わなければいけません。
 次に敵や天災に備えて食糧を備蓄しなければいけません。
 もっと領地を豊かにするための投資に使わなければいけません。
 その全てをして残った税だけが領主の使えるモノなのです」

 何時も母上様から聞かされたことです。
 理想的な貴族像だと前世の記憶と知識のある私には分かります。
 でも本当に実践されているとは思っていませんでした。
 貧乏な生活の言い訳かと思っていました。
 これもこの世界の風習の所為でしょう。

 この世界では母親が子供を育てたりはしません。
 子育てに慣れた乳母をつけて育てるのです。
 しかもこの国では強い従魔を持つ聖女を得る事に必死です。
 私も幼い頃から乳母と侍女を付けられて聖女学園で育てられました。
 まあ、魔獣被害の多い国だから仕方がないともいえます。

「分かりました。
 母上様の教えに従った生活をします」
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