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第一章

第30話:新犯罪者奴隷

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「昨晩は色々あったから、今朝は特別にご馳走を振るまってやる」

「やったぁー!」
「ショウ様のごちそう!」
「とんでもなく美味しいに違いないわ!」
「ごちそう、とくべつなごちそう、はやくたべたい!」

「ありがとうございます!」
「これからも一生懸命働かせていただきます」
「今度襲撃があったら、俺達も戦わせていただきます」
「特別なごちそう、妻と子供にも食べさせてやりたい」

 女子供と犯罪者奴隷達が口々に感謝してくれる。
 俺から見ればそんな大したものではないが、彼らなら喜んでくれる。
 俺も違う組み合わせなら、ご馳走だと思える料理だ。

 彼らが朝食用に携帯しているのは、昨日炊いた麦飯だ。
 当然冷めているので、熱々よりは美味しくない。

 普段の朝食は、冷めた麦飯と干肉を水筒の水で流し込む。
 現地で水が確保できる場合は、腹を壊さないように煮沸して飲む。
 或いは干肉を入れたスープにして少しでも朝食を豊かにする。

 だが今日は、俺が保管してあった熱々のホワイトシチューがある。
 冷めた麦飯に熱々のホワイトシチューをかけると、とんでもなく美味しくなる!

「ホワイトシチューの甘さがたまらないわ!」
「ホワイトシチューの熱々と、麦と混ぜた丁度いい温かさが美味しいわ!」
「少し塩を振ったら甘みが増したわ!」
「おいしい、すーぷもおいしい、ほしにくとやそうがおいしい!」

「うめぇー、うめぇー、うめぇー」
「最高だ、こんな料理が一日三回も食べられるなんて、まるで天国だ」
「羨ましいだろう?」
「はん、あんな領主に従い続けるなんて、お前らは馬鹿だ!」
「なんとか女房子供にこれを食べさせてやる方法は無いか!」

 犯罪者奴隷達が羨ましいだろうとか、馬鹿だとか言っている相手は、昨日盗賊団を装って襲ってきた、ナミュール侯爵の手先だ。

 とは言っても、実際に手配したのは砦の責任者だ。
 前回の失敗に懲りて、強制徴募の農民などではなく、砦の騎士や徒士、冒険者といった戦闘力の高い者ばかり三百人弱で襲ってきた。

 だが、サクラと俺を相手にするには弱すぎた。
 多重魔術の練習台にさせてもらったが、三百人を一瞬で麻痺させることができた。

 早速尋問したのだが、家族が侯爵領にいる者は、人質を取られているも同然なので、騎士も徒士も冒険者も口をつぐんだ。

 だが大切なモノがいない、天涯孤独の冒険者が幾人かいて、全て砦の責任者が手配して行ったと証言した。

 前回捕らえた偽装盗賊団三百人は、ほぼ全員が本当の事を自供してくれる。
 王の判断次第だが、少なくともネウストリア辺境伯家とエノー伯爵家が不利な裁定を受ける事だけはない。

「朝飯を食い終わったら移動するぞ」

「「「「「はい!」」」」」

 俺の命令を受けて、総勢七百人弱になった、ネウストリア辺境伯家正使一行が王都を目指すのだが、そうすんなりと進めるはずもない。
 ナミュール侯爵が必ず刺客を放ってくる。

 本領であるナミュール侯爵領から刺客を選ぶのか、支配下にあるゼーラント伯爵領やホラント伯爵領から選ぶのかは分からないが、必ず襲ってくる。

 正使が王に訴えたら、厳罰は避けられても、何らかの処分は受ける事になる。
 そうなれば、ナミュール侯爵の負けが国内外に喧伝される。
 ナミュール侯爵が王家を凌ぐことを考えているのなら、武名も名声も落とせない。

 ただ、ナミュール侯爵も俺達だけに集中するわけにもいかない。
 何故なら、ゼーラント伯爵領関所砦が無防備になっているからだ。
 本来なら関所砦を守備している騎士と徒士が俺の捕虜になっている。

 それだけでなく、関所砦を拠点としていた腕利き冒険者も全員捕虜になっている。
 税金も素材も全く手に入らない。
 それどころか、関所砦が猛獣や魔獣に襲われ壊滅する可能性すらある。

 そして何より、これまでやって来た悪行のツケが回ってくる。
 何度も卑怯な手を使って領地を奪おうとしていたエノー伯爵家が、ゼーラント伯爵領地を護っていた関所砦の弱体化を見逃すはずがないのだ。

 ゼーラント伯爵領関所砦がエノー伯爵家に奪われたら、次はゼーラント伯爵領の領都であり唯一の街でもあるゼーラントが襲われる。

 エノー伯爵家軍の兵数にもよるが、領都ゼーラントとダンジョンを奪われるほどの兵数だったら、各地から援軍を送らなければいけない。

 そんな追い込まれた状況を、領地を接する他の貴族達が見逃してくれるだろうか?
 まず間違いなく絶好の機会だととらえて襲い掛かってくる。
 よほど懇意な関係でもない限り、弱肉強食の現実に従って襲ってくる。

 それを防ごうと思ったら、領内から広く薄く兵力を抽出して関所砦に送るか、これまで領地に関係なかった傭兵や冒険者を雇うしかない。

 だがそれも、ゼーラント伯爵領関所砦の責任者が、自分の失態を素直に報告していなければだ。
 処罰を恐れて報告を怠っていたら、手の打ちようがない。

 正直物凄く愉しみな状況になって来た。
 巻き込まれただけとはいえ、俺を殺そうとした奴が苦しむのはいい気味だ。
 功徳を積むという意味でも、悪徳領主を成敗するのは間違っていない。
 
「ミャアアアア」

「ここでは無理に狩りをしなくてもいいぞ」

 サクラが以前のように猛獣や魔獣を追い込んで狩りをするかと聞いてきた。
 前は犯罪者奴隷達を支配下に入れるために俺の力を見せつける必要があったし、狩りをして資金と素材を手に入れたかった。

 だが今回捕らえた連中は、別に支配下に置きたい訳ではない。
 強制徴募された平民とは違い、素直に従い続ける連中ではない。

 家族と人質に取られているも同然の、騎士や徒士、冒険者を一時的に支配下に置いても、機会があれば即座に裏切るか逃げるかする。

 もし家族を見捨てて俺の手下になりたいと言う奴がいたとしても、そんな奴は絶対に手下にしない!

「ミャアアアア」

「分かった、分かった、狩りがしたいのを禁止している訳じゃない。
 やりたければこれまで通り狩ればいい」

 サクラはとても賢い子だが、野生の本能が強いのも確かだ。
 目の前に獲物がいると、どうしても狩りたくなってしまうようだ。

 それに、俺に狩った獲物をプレゼントしたいと思ってくれている。
 その心を無碍にできるはずがないだろう!

「うわぁああああ、獅子だ、灰魔獅子の群れが襲ってきたぞ!」
「ぎゃあああああ、たすけてくれ、死にたくない、死にたくないんだ!」
「手錠をはずいてくれ、せめて戦って死にたい!」
「にげろよ、諦めてないで逃げろよ!」

 先頭を歩いていた新捕虜達が騒ぎ出した。
 捕らわれて初めて魔獣の群れに襲われて気が動転しているのだろう。
 五人単位で縄をかけられているので、機敏に逃げられない事も影響している。
 
 それに比べて、女子供と犯罪者奴隷達は落ち着いたものだ。
 それぞれが武器を持って何時でも戦えるようにしている。

 強力な猛獣や魔獣と戦わせる訳ではない。
 常に戦えるように準備しろと命じてやらせているだけだ。
 俺とサクラが狩ってしまう事をよく知っている。

 だが、必ず全ての猛獣と魔獣を俺とサクラが狩る訳ではない。
 女子供と犯罪者奴隷達でも狩れると判断した弱い獣は、狩らずにスルーして襲わせるから、気が抜けないのだ。

 特に気をつけないといけないのは、サクラが遊び心を出した時だ。
 森から猛獣や魔獣を追い出す時に、自分が狩って遊びたい強力な魔獣と一緒に、女子供と犯罪者奴隷達に狩らせる弱い獣を追い込むのだ。

 俺とサクラが狩ると気を抜いていると、不意に側面や後方から灰牙栗鼠のような弱い獣が襲ってくるのだから、運が悪い奴は致命傷を受けてしまう。

「言っておくが、ナミュール侯爵に税を払う気はないからな。
 お前達が狩るような弱くて安い獲物は食用に捕らえて申告するが、利がでるような猛獣や魔獣は、気絶させだけで街道に残しておく」

「そんな、もったいないです」
「そうです、ショウ様の利益にされればいいのです」
「そこまでネウストリア辺境伯に義理立てされる事はないですよ」
「たべないの、おいしいおにくたべないの?」

「「「「「……」」」」」

 女子供は自分達の領主よりも俺を優先してくれる。
 犯罪者奴隷達は、領主や領主の弟であるオセール伯爵を気にしている。
 俺の奴隷ではあるが、領主の機嫌でどうされるか分からない立場だから。

「俺の事を思ってくれるのはうれしいが、今はオセール伯爵の護衛に雇われている。
 雇い主はネウストリア辺境伯だ。
 辺境伯に義理を欠くような事はできない。
 お前達もその心算で行動してくれ」

 大嘘である。
 俺は誰よりももったいない精神に満ちていて、小狡い性格なのだ。
 せっかく狩った獲物を捨てて行く訳がない。

 不利になるような証拠や言葉を残さないようにしているだけだ。
 大義名分を口にして皆を信用させておいて、こっそりとパントリーに収納する。
 これで税を払わずにすむ。
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