43 / 91
第一章
第43話:グレアムとルーパス
しおりを挟む
「オードリー」
ルーパスの絶叫が森中に響いた。
オードリーの危機を知り、大魔王から真実を伝えられ、勇者達や大魔王の足止めされたルーパスは、苛立ちと焦燥感で平常心を失っていた。
魔界から人界に戻り、探知魔法でオードリーの居場所を確かめ、転移魔法で現れたばかりだった。
眼の前には荷車に寝かされたオードリーであろう美しい娘がいる。
オードリーを護るように魔力で加護を受けた騎士と軍馬がいる。
彼らの足元には魔族と人間の混血が斃れている。
いや、二体の混血だけでなく十人の兵士も斃れている。
唖然とした表情で固まる少女もいる。
平常心を失っているルーパスでも大体の事情は分かる。
オードリーだと、いや、守護石が護っているから間違いなくオードリーだ。
オードリーを護るために騎士と軍馬が戦ったのだろう。
だが普通の人間や馬が上級魔族と人間の混血に勝てるはずがない。
オードリーを護るために守護石が人間と馬に加護を与えたのだ。
事情が分かれば普通の親なら娘を護ってくれた騎士や軍馬に感謝する。
だがルーパスは平常心を失っていた。
心の中で色々な気持ちが沸き起こり争っていた。
感謝の気持ちも強いのだが、オードリーを護れなかった罪悪感と劣等感がある。
全ての人間に対する敵愾心復讐心もある。
騎士も軍馬も、いや、全ての人間をぶち殺して滅ぼしてしまいたい激情がある。
何とも表現のしようがない葛藤が渦巻いていた。
「ごめんよ、ごめんよ、ごめんよオードリー」
だが一番の気持ちは「オードリーを抱きしめたい」だった。
哀しく苦しい想いをさせてしまったオードリーの謝りたいという気持ちだった。
人間を滅ぼしたいという気持ちも、オードリーを護っている騎士に対する嫉妬も、オードリーへの謝罪の想いに比べれば微々たるモノだったのだ。
「なっ!」
グレアムは全く気がつかづ動く事もできなかった。
グレアムは自分の事を過信するような愚か者ではない。
ついさっきも何かの加護がなければ吸血女にも巨躯男にも勝てなかった。
だが今は何かの加護を受けて途轍もない力を得ている実感がある。
その自分が敵かもしれないモノの動きに反応することができなかったのだ。
本当なら厳しく誰何したかった。
何者なのか厳しく問い詰めたかった。
まずは間に入ってオードリー嬢の安全を確保すべきだと思っていた。
だが、全く動くことも話す事もできなくなったいた。
謎の男から発せられる迫力に殺気に金縛りになってしまっていた。
過去最強の敵だと断言できる巨躯男など足元にも及ばない殺気だった。
それでも、全身全霊の精神力を駆使して誰何しようとした。
ルーパスの絶叫が森中に響いた。
オードリーの危機を知り、大魔王から真実を伝えられ、勇者達や大魔王の足止めされたルーパスは、苛立ちと焦燥感で平常心を失っていた。
魔界から人界に戻り、探知魔法でオードリーの居場所を確かめ、転移魔法で現れたばかりだった。
眼の前には荷車に寝かされたオードリーであろう美しい娘がいる。
オードリーを護るように魔力で加護を受けた騎士と軍馬がいる。
彼らの足元には魔族と人間の混血が斃れている。
いや、二体の混血だけでなく十人の兵士も斃れている。
唖然とした表情で固まる少女もいる。
平常心を失っているルーパスでも大体の事情は分かる。
オードリーだと、いや、守護石が護っているから間違いなくオードリーだ。
オードリーを護るために騎士と軍馬が戦ったのだろう。
だが普通の人間や馬が上級魔族と人間の混血に勝てるはずがない。
オードリーを護るために守護石が人間と馬に加護を与えたのだ。
事情が分かれば普通の親なら娘を護ってくれた騎士や軍馬に感謝する。
だがルーパスは平常心を失っていた。
心の中で色々な気持ちが沸き起こり争っていた。
感謝の気持ちも強いのだが、オードリーを護れなかった罪悪感と劣等感がある。
全ての人間に対する敵愾心復讐心もある。
騎士も軍馬も、いや、全ての人間をぶち殺して滅ぼしてしまいたい激情がある。
何とも表現のしようがない葛藤が渦巻いていた。
「ごめんよ、ごめんよ、ごめんよオードリー」
だが一番の気持ちは「オードリーを抱きしめたい」だった。
哀しく苦しい想いをさせてしまったオードリーの謝りたいという気持ちだった。
人間を滅ぼしたいという気持ちも、オードリーを護っている騎士に対する嫉妬も、オードリーへの謝罪の想いに比べれば微々たるモノだったのだ。
「なっ!」
グレアムは全く気がつかづ動く事もできなかった。
グレアムは自分の事を過信するような愚か者ではない。
ついさっきも何かの加護がなければ吸血女にも巨躯男にも勝てなかった。
だが今は何かの加護を受けて途轍もない力を得ている実感がある。
その自分が敵かもしれないモノの動きに反応することができなかったのだ。
本当なら厳しく誰何したかった。
何者なのか厳しく問い詰めたかった。
まずは間に入ってオードリー嬢の安全を確保すべきだと思っていた。
だが、全く動くことも話す事もできなくなったいた。
謎の男から発せられる迫力に殺気に金縛りになってしまっていた。
過去最強の敵だと断言できる巨躯男など足元にも及ばない殺気だった。
それでも、全身全霊の精神力を駆使して誰何しようとした。
355
あなたにおすすめの小説
孤独な公女~私は死んだことにしてください
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【私のことは、もう忘れて下さい】
メイドから生まれた公女、サフィニア・エストマン。
冷遇され続けた彼女に、突然婚約の命が下る。
相手は伯爵家の三男――それは、家から追い出すための婚約だった。
それでも彼に恋をした。
侍女であり幼馴染のヘスティアを連れて交流を重ねるうち、サフィニアは気づいてしまう。
婚約者の瞳が向いていたのは、自分では無かった。
自分さえ、いなくなれば2人は結ばれる。
だから彼女は、消えることを選んだ。
偽装死を遂げ、名も身分も捨てて旅に出た。
そしてサフィニアの新しい人生が幕を開ける――
※他サイトでも投稿中
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』
メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。
彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。
しかし妾の子である妹を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。
だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。
父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。
そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。
程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。
彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。
戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。
彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる