前世聖女な公爵令嬢は王太子から婚約破棄されたい。

克全

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10話

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 王太子があまりにもあっさりと殺されてしまいました。
 あれだけ悪行重ね憎まれていたにもかかわらず、平気で過ごしていた方なのに、リッカルドの手にかかれば僅か一カ月で殺されてしまうのです。
 正直少々リッカルドの事が怖くなります。
 ですがそれは身勝手な考えです。
 リッカルドはアマル公爵家と私のために全力で働いてくれたのですから。

「私も弔問のために王都に行かなければいけませんか?」

「それはそうでございますが……」

「なにか心配な事でもあるのですか?」

「罠の可能性もございます」

 リッカルドの心配に私も少し不安になりました。
 確かに王太子は陰険で酷薄です。
 暗殺に失敗していれば、報復を考えている事でしょう。
 私に刺客を放った直後に襲われたとなれば、私を疑うのが普通です。
 殺せていればいいですが……

「どれだけの護衛を連れて行けばいいですか?
 王都に行くのに、あまりに多くの家臣を連れて行くわけにはいかないでしょ?」

「その通りではありますが、抜け道がございます。
 表の護衛は、この領地で腕の立つ者を選んで連れて行きます。
 影の護衛は、今開墾にいそしんでいる冒険者だった者を連れて行きます」

 リッカルドの献策通りにすれば、まず大丈夫でしょう。
 問題は私が留守の間の未開地の開墾です。
 私が聖女の力を全力で使えば開拓は容易なのですが、それを表に現すわけにはいかないのです。

 それにリッカルドが私の護衛についてくるというのです。
 他にも優秀な内臣は多いのですが、どちらかといえば文官で気が弱いのです。
 リッカルドのように、名門譜代家臣に厳しく対応するのは苦手なのです。
 だからといってリッカルドを残すわけにはいきません。
 私の身の安全が一番最優先ですから。

 王太子は本当に死んでいました。
 信じられないことですが、あの王太子が簡単に死んでしまっています。
 弔問の会場では、多くの令嬢と夫人が泣き崩れています。
 みな王太子と関係していたのでしょう
 妹のマリアも身も世もなく泣き崩れています。
 信じたくないことですが、王太子と一線を越えてしまっているのでしょう。

「御無事の帰還、お慶び申し上げます」

「ありがとう、リッカルド」

 リッカルドは王太子が生きていると、疑っていたのでしょう。
 王太子の反撃を心から心配してくれていたのでしょう。
 私もそうです。
 あの弔問の場で襲撃されなかったことで、リッカルドは安心したのでしょう。
 ですが私はまだ安心できないのです。
 王太子を殺せたと信じきれないのです。
 何とも言えない粘りのある視線を感じてしまうのです。
 私の勘違いならいいのですが……
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