前世聖女な公爵令嬢は王太子から婚約破棄されたい。

克全

文字の大きさ
10 / 11

9話リッカルド視点

しおりを挟む
「頼めるか?」

「任せな。
 俺とお前の中だ、遠慮はいらん」

「すまんな、こんな事はお前にしか頼めんのだ」

 背中を預けて戦った斥候のビリオンに暗殺など頼みたくなかった。
 頼みたくはなかったが、ビリオン以外に頼める人間がいなかった。
 失敗して捕まった時の事を考えれば、アマル公爵家の人間も流れの暗殺者も使う事ができない。
 まして暗殺者組合に弱みを握られる訳にはいかない。

 心配だった。
 失敗するのはかまわない。
 死なないでくれ!
 相手は一国の王太子だ。
 多くの令嬢や夫人の名誉を傷つけ汚名を着せた来たのだから、山ほど恨みを買っていて、多くの刺客が向けられていたはずだ。
 それを撃退し続けてきたのだから、厳重な警備がなされているはずだ。

 直接暗殺できなくてもいい。
 髪でも爪でもいいから、呪殺に使える身体の一部を手に入れてくれ。
 長年かけて蓄えてきた魔血晶を全て使えば、王家の厳重な結界を破って王太子を呪殺ができるはずだ。

 ジリジリとした一カ月、不安を振り払うように働いた。
 王太子が御嬢様に放った刺客を撃退すべく、アマル公爵家の家臣と冒険者を総動員して戦ったが、彼らは獅子奮迅の活躍をしてくれた。
 家臣も冒険者も死傷する者が多かったが、お陰で領内に侵入した刺客のほとんどを討ち取る事ができた。

 問題は我々が存在を掴めないほど潜入が巧妙な刺客だ。
 私の知る最も巧妙な斥候はビリオンだから、ビリオンが安全だと言ってくれれば安心できるが、他の者の言葉では心底安心できない。
 まだ刺客が潜んでいて、御嬢様を狙っているのではないかと不安になる。

「大変でございます!
 一大事でございます!」

 まさか?!
 御嬢様に何かあったのか?!
 やはり我々が把握できていない刺客が残っていたのか?

「何事だ?!」

「王太子殿下が弑逆されたそうでございます!」

 やってくれたのか?
 ビリオンが王太子を殺してくれたのか?
 ありがとう、ビリオン!
 ビリオンは逃げ切れたのか?

「なんたることだ!
 王太子殿下を襲った者は捕まったのか?!」

「分かりません。
 王太子殿下を襲った者の話は全く伝わっておりません」

「至急人をやって調べよ。
 それと、本当に王太子殿下が亡くなられたのかの確認もとれ。
 本当に亡くなっておられたら、弔問の使者を送らねばならないが、刺客と黒幕をあぶり出すために偽装しておられるのなら、弔問の使者は不敬になってしまうからな」

「承りました。
 本領と連絡をとりまして、遺漏なく調べます」

「任せたぞ」

 早く逃げてこいビリオン。
 御礼を用意して待っているからな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

処理中です...