2 / 94
第一章
第1話:父の戦死
しおりを挟む
皇紀2210年・王歴214年・秋・エレンバラ王国男爵領
「先代、先代、先代!」
ガシャ、ガシャと鎧を鳴らしながら、重臣のオリヴァーが城に戻ってきた。
祖父を呼ぶ口調に苦渋の色が混じっている。
俺を膝に乗せている母が震えているのが分かる。
戦乱の世の男爵夫人としては臆病すぎるのではないか。
まあ、長男がわずか二歳の時に夫が戦死してしまう苦難は想像できるけど。
だがまだ父が戦死したとは限らないのに、男爵夫人がこの状態では、家臣達まで怯えてしまうぞ。
祖父は泰然自若を装おうとしているが、完全にはできていない。
いつもの祖父よりも表情が引き締まっている。
オリヴァーの声から負け戦は覚悟したが、息子の生死が気になるのだろう。
父は祖父にとって期待の跡継ぎだからな、死んでいて欲しくないのだろう。
母や祖父だけではない、俺もまだ父に死なれては困る。
念願の異世界転生ができたのだ、もっと自分の魔力を高めてから跡を継ぎたい。
戦争には負けたようだが、父さえ生きていてくれればどうにでもなる。
ギイギイと軋む音をたてながらドアが開けられた。
オリヴァーがガシャ、ガシャと鎧を鳴らしながら俺たちの方に近づいてくる。
やはり負け戦なのだろう、後ろからついてきた家臣の多くが負傷している。
それだけならいいのだが、全員が俺達の方を見ないようにしている。
最悪だ、父は味方を逃がすために殿を守っている訳じゃない。
「オリヴァー、遠慮はいらん、はっきりと言うがいい」
祖父はオリヴァーが話しやすいように優しく話しかけている。
俺ていどの人間でも父の戦死を理解したのだ、歴戦の祖父に分からない訳がない。
「男爵閣下が討ち死になされました。
敵将、ロスリン伯爵が卑怯にも一騎打ちを受けず、全軍で襲ってきたため、男爵閣下は味方を護るために獅子奮迅の戦いをなされましたが、多勢に無勢はいかんともしがたく、力及ばず討ち死にされました」
「「「「「イヤアアアア」」」」」
最初は血を吐くような口調で話し始めたオリヴァーだったが、徐々に一騎打ちを受けなかったロスリン伯爵に対する怒りからか、怒りを叩きつけるような口調になった。
だがわずか二年の間に聞いた範囲の話しでは、今は一騎打ちなど受けないはずだ。
勝つためならどんな卑怯な方法も取る時代になっていると聞いている。
「うっうううう、アアアアア」
参ったな、俺を膝に乗せた母が、俺を強く抱きしめながら啜り泣きしている。
ロスリン伯爵が勢いに任さて領内に攻め込んでくる可能性があるのだ。
母がこんな状態では籠城もできなくなってしまう。
歴戦の祖父が母を苛立たし気に見ている。
当主の父が戦死した状況で、先代の祖父と当主夫人の母が言い争う。
そんな事になったら、狼狽した家臣が逃げ出してしまって確実に負けるぞ。
「うろたえるな、だんしゃくけはまけん」
母の手を振りほどいて、両足でしっかりと立って、力強く断言する。
まだ二歳なので上手く舌が回らないから、ゆっくりしっかり話す。
実力がつくまでは目立たないようにしている心算だったが、もうそんな事を言っていられる状況じゃない。
「オリヴァー、ちちうえはてきをどれくらいたおされた」
「あ、はっ、討ち取られた数はおよそ百ほどかと」
我が家が籠城に使える戦力は三百だと聞いている。
ロスリン伯爵の戦力は五百だったはずだ。
魔力が戦力の多くを占めるとはいえ、父が百の敵を討ち取ったのは大きい。
最悪八千人の領民すべてを城に入れて籠城すればいい。
それに、兵農分離が進んでいないこの世界では、農繁期になれば必ず兵を引く。
「だったらだんしゃくけはぜったいにまけない。
りょうみんをしろにあつめれば、かずではまけない。
いそいでりょうみんをあつめろ。
てきからまもるために、とくべつにしろにいれるといえ」
「はっ、急いで領民を城に集まます」
「それと、しょくりょうをかくほしろ。
りょうみんすべてをしろにいれたら、しょくりょうがたらなくなるぞ」
「承りました、直ぐに領民と食料を集めます」
さて、二歳児の身体に負担をかけるのはいかんな。
一気に疲れて眠くなった。
敵が攻め込んできた時に眠くなってしまったら最悪だ。
「ははうえ、ねむいです、おひざ、おひざにのせてください」
「先代、先代、先代!」
ガシャ、ガシャと鎧を鳴らしながら、重臣のオリヴァーが城に戻ってきた。
祖父を呼ぶ口調に苦渋の色が混じっている。
俺を膝に乗せている母が震えているのが分かる。
戦乱の世の男爵夫人としては臆病すぎるのではないか。
まあ、長男がわずか二歳の時に夫が戦死してしまう苦難は想像できるけど。
だがまだ父が戦死したとは限らないのに、男爵夫人がこの状態では、家臣達まで怯えてしまうぞ。
祖父は泰然自若を装おうとしているが、完全にはできていない。
いつもの祖父よりも表情が引き締まっている。
オリヴァーの声から負け戦は覚悟したが、息子の生死が気になるのだろう。
父は祖父にとって期待の跡継ぎだからな、死んでいて欲しくないのだろう。
母や祖父だけではない、俺もまだ父に死なれては困る。
念願の異世界転生ができたのだ、もっと自分の魔力を高めてから跡を継ぎたい。
戦争には負けたようだが、父さえ生きていてくれればどうにでもなる。
ギイギイと軋む音をたてながらドアが開けられた。
オリヴァーがガシャ、ガシャと鎧を鳴らしながら俺たちの方に近づいてくる。
やはり負け戦なのだろう、後ろからついてきた家臣の多くが負傷している。
それだけならいいのだが、全員が俺達の方を見ないようにしている。
最悪だ、父は味方を逃がすために殿を守っている訳じゃない。
「オリヴァー、遠慮はいらん、はっきりと言うがいい」
祖父はオリヴァーが話しやすいように優しく話しかけている。
俺ていどの人間でも父の戦死を理解したのだ、歴戦の祖父に分からない訳がない。
「男爵閣下が討ち死になされました。
敵将、ロスリン伯爵が卑怯にも一騎打ちを受けず、全軍で襲ってきたため、男爵閣下は味方を護るために獅子奮迅の戦いをなされましたが、多勢に無勢はいかんともしがたく、力及ばず討ち死にされました」
「「「「「イヤアアアア」」」」」
最初は血を吐くような口調で話し始めたオリヴァーだったが、徐々に一騎打ちを受けなかったロスリン伯爵に対する怒りからか、怒りを叩きつけるような口調になった。
だがわずか二年の間に聞いた範囲の話しでは、今は一騎打ちなど受けないはずだ。
勝つためならどんな卑怯な方法も取る時代になっていると聞いている。
「うっうううう、アアアアア」
参ったな、俺を膝に乗せた母が、俺を強く抱きしめながら啜り泣きしている。
ロスリン伯爵が勢いに任さて領内に攻め込んでくる可能性があるのだ。
母がこんな状態では籠城もできなくなってしまう。
歴戦の祖父が母を苛立たし気に見ている。
当主の父が戦死した状況で、先代の祖父と当主夫人の母が言い争う。
そんな事になったら、狼狽した家臣が逃げ出してしまって確実に負けるぞ。
「うろたえるな、だんしゃくけはまけん」
母の手を振りほどいて、両足でしっかりと立って、力強く断言する。
まだ二歳なので上手く舌が回らないから、ゆっくりしっかり話す。
実力がつくまでは目立たないようにしている心算だったが、もうそんな事を言っていられる状況じゃない。
「オリヴァー、ちちうえはてきをどれくらいたおされた」
「あ、はっ、討ち取られた数はおよそ百ほどかと」
我が家が籠城に使える戦力は三百だと聞いている。
ロスリン伯爵の戦力は五百だったはずだ。
魔力が戦力の多くを占めるとはいえ、父が百の敵を討ち取ったのは大きい。
最悪八千人の領民すべてを城に入れて籠城すればいい。
それに、兵農分離が進んでいないこの世界では、農繁期になれば必ず兵を引く。
「だったらだんしゃくけはぜったいにまけない。
りょうみんをしろにあつめれば、かずではまけない。
いそいでりょうみんをあつめろ。
てきからまもるために、とくべつにしろにいれるといえ」
「はっ、急いで領民を城に集まます」
「それと、しょくりょうをかくほしろ。
りょうみんすべてをしろにいれたら、しょくりょうがたらなくなるぞ」
「承りました、直ぐに領民と食料を集めます」
さて、二歳児の身体に負担をかけるのはいかんな。
一気に疲れて眠くなった。
敵が攻め込んできた時に眠くなってしまったら最悪だ。
「ははうえ、ねむいです、おひざ、おひざにのせてください」
412
あなたにおすすめの小説
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる