32 / 94
第一章
第31話:閑話・母の実家・ノア視点
しおりを挟む
皇紀2218年・王歴222年・夏・首都セール宮中伯邸
「長年御無沙汰してしまって申し訳ありませんでした。
国王陛下が領地に来られていたので、とても連絡できない状況だったとはいえ、お詫びさせていただきます」
長年疎遠となっていた王国の権力者、セール宮中伯に詫びた。
母と祖母の義父はセール宮中伯だった。
建前上は母と祖母の実家当主となるのだが、養子になって遠国から戻ってきたこの男は、父と祖父が義父と呼んだ方からは五代も経ってしまっている。
養子の件を考えなくても、とても遠い縁なので、どこまで協力してくれるかは分からないが、ハリーが協力を求めろと言うならしかたがない。
ハリーが切り取った領地を守る協力ができるのなら、やれるだけやるしかない。
「いえ、いえ、私は国王陛下に従わずに首都に残った身ですから。
国王陛下や廷臣の方々から、酷く憎まれているのはよく理解しています。
私としては、王家の政治機構を残すためでしたが、国王陛下や廷臣の方々から見れば、権力を維持するためにカンリフ騎士家に尻尾を振ったように見られるでしょう。
国王配下の忠臣だったノア殿が、御母堂や祖母殿の義実家とは言え、連絡を取らないようにした事はしかたのない事です」
確かにこいつは国王の首都脱出に従わなかった。
国王に忠誠を誓っていた時は、儂もとても憎んでいた。
だが、国王の下劣な本性を理解してからは考えが変わった。
こいつは、いや、アダムは国王が首都に戻る事のできる組織を残したのだ。
王家が首都から逃げ出しても、王国は残っていたのだ。
まあ、アダムにも欲はあっただろうが、それだけでもないのだろう。
「あの頃の儂は愚かであったのです、セール宮中伯。
目に見える事、国王陛下に盲目的に従うのが忠義だと勘違いしていたのです。
国王陛下が戦に負けられても、首都に戻れる場所を作っておくと言う、セール宮中伯の忠誠心が分からなかったのです」
「ノア殿にそう言って頂けるのはとてもうれしい事ですが、そういう考えに至られたノア殿を敵に回してしまった国王陛下には、何も期待できないかもしれません。
ここまで状況が悪化してしまったら、国王陛下のお子様に期待するしかないのかもしれません。
ですが、それまで王国の組織を残すことができる、とは断言できません」
恐ろしくはっきりと言い切ってくれる。
「期待できない国王陛下をそのままにしておかれるのですか」
「私はあくまでも王家の家臣なのですよ、ノア殿。
私から代替わりを勧めるような事はしません。
今の国王陛下が下劣愚昧な方であろうと、忠誠を尽くしてお仕えするだけです。
ただその忠誠心は、国王陛下や廷臣の方々には理解していただけないでしょう」
「では、カンリフ騎士家のルーカス殿はどう考えておられるのですか。
ルーカス殿はジェームズ様を擁しておられるのですよね」
十一代国王テオ陛下の次男がジェームズ様だ。
兄弟や叔父甥間で王位を争っていた王族の御一人で王位継承権を持っておられる。
このカードまで確保しているから、カンリフ騎士家のルーカス殿は強い。
直ぐにステュアート王家を滅ぼしてカンリフ王家を立てる手も打てれば、ジェームズ様を傀儡にして王国を陰から支配する事もできる。
ハリーの話しでは、皇太子殿下の側にまで手を入れているという。
皇国を復活させて、古のように外戚政治を行う事も可能だ。
何の力もない皇国貴族を皆殺しにして、自分達が皇国貴族になる事もできる。
穏やかにやるのなら、自分達を皇族貴族に叙勲させる方法もある。
皇国貴族の血を継いでいるとはいえ、ハリーが名誉皇国貴族に叙勲されているのだから、絶対に不可能と言う事はないだろう。
何なら皇国貴族家の養子に入る方法もあるのだとハリーが言っていた。
首都とその周辺を武力制圧しているカンリフ騎士家は強いのだ。
後はルーカス殿の決断一つで全てか決まるだろう。
「さて、そのような事はルーカス殿の直接聞いてみなければ分からぬ事です」
「ではセール宮中伯、ルーカス殿に合わせてもらえないだろうか。
我が家の当主となったハリーの母はヴィンセント子爵家の出なのだ。
ハリーの叔母が、ルーカス殿の弟に嫁いでいる。
少し遠いが、我が家とカンリフ騎士家は親戚になる。
今後の事について色々と話したいことがあるのだよ」
「それは私も知っていましたよ、回り回れば私もルーカス殿の親戚ですから。
ですが、こんな親兄弟でも殺し合う時代では、親戚だと言ってもあまり意味はないです。
ああ、余計な事を言いましたね、そんな事よりも確認しておきたい事があります。
ルーカス殿に会うのはハリー殿ですか、ノア殿ですか」
「私だ、ハリーはまだ幼く、何かあれば我が家が崩壊してしまう。
将来のある可愛い孫を、修羅場に送るわけにはいかん」
「分かりました、受けてくれるかどうかは分かりませんが、確認だけはしましょう」
「長年御無沙汰してしまって申し訳ありませんでした。
国王陛下が領地に来られていたので、とても連絡できない状況だったとはいえ、お詫びさせていただきます」
長年疎遠となっていた王国の権力者、セール宮中伯に詫びた。
母と祖母の義父はセール宮中伯だった。
建前上は母と祖母の実家当主となるのだが、養子になって遠国から戻ってきたこの男は、父と祖父が義父と呼んだ方からは五代も経ってしまっている。
養子の件を考えなくても、とても遠い縁なので、どこまで協力してくれるかは分からないが、ハリーが協力を求めろと言うならしかたがない。
ハリーが切り取った領地を守る協力ができるのなら、やれるだけやるしかない。
「いえ、いえ、私は国王陛下に従わずに首都に残った身ですから。
国王陛下や廷臣の方々から、酷く憎まれているのはよく理解しています。
私としては、王家の政治機構を残すためでしたが、国王陛下や廷臣の方々から見れば、権力を維持するためにカンリフ騎士家に尻尾を振ったように見られるでしょう。
国王配下の忠臣だったノア殿が、御母堂や祖母殿の義実家とは言え、連絡を取らないようにした事はしかたのない事です」
確かにこいつは国王の首都脱出に従わなかった。
国王に忠誠を誓っていた時は、儂もとても憎んでいた。
だが、国王の下劣な本性を理解してからは考えが変わった。
こいつは、いや、アダムは国王が首都に戻る事のできる組織を残したのだ。
王家が首都から逃げ出しても、王国は残っていたのだ。
まあ、アダムにも欲はあっただろうが、それだけでもないのだろう。
「あの頃の儂は愚かであったのです、セール宮中伯。
目に見える事、国王陛下に盲目的に従うのが忠義だと勘違いしていたのです。
国王陛下が戦に負けられても、首都に戻れる場所を作っておくと言う、セール宮中伯の忠誠心が分からなかったのです」
「ノア殿にそう言って頂けるのはとてもうれしい事ですが、そういう考えに至られたノア殿を敵に回してしまった国王陛下には、何も期待できないかもしれません。
ここまで状況が悪化してしまったら、国王陛下のお子様に期待するしかないのかもしれません。
ですが、それまで王国の組織を残すことができる、とは断言できません」
恐ろしくはっきりと言い切ってくれる。
「期待できない国王陛下をそのままにしておかれるのですか」
「私はあくまでも王家の家臣なのですよ、ノア殿。
私から代替わりを勧めるような事はしません。
今の国王陛下が下劣愚昧な方であろうと、忠誠を尽くしてお仕えするだけです。
ただその忠誠心は、国王陛下や廷臣の方々には理解していただけないでしょう」
「では、カンリフ騎士家のルーカス殿はどう考えておられるのですか。
ルーカス殿はジェームズ様を擁しておられるのですよね」
十一代国王テオ陛下の次男がジェームズ様だ。
兄弟や叔父甥間で王位を争っていた王族の御一人で王位継承権を持っておられる。
このカードまで確保しているから、カンリフ騎士家のルーカス殿は強い。
直ぐにステュアート王家を滅ぼしてカンリフ王家を立てる手も打てれば、ジェームズ様を傀儡にして王国を陰から支配する事もできる。
ハリーの話しでは、皇太子殿下の側にまで手を入れているという。
皇国を復活させて、古のように外戚政治を行う事も可能だ。
何の力もない皇国貴族を皆殺しにして、自分達が皇国貴族になる事もできる。
穏やかにやるのなら、自分達を皇族貴族に叙勲させる方法もある。
皇国貴族の血を継いでいるとはいえ、ハリーが名誉皇国貴族に叙勲されているのだから、絶対に不可能と言う事はないだろう。
何なら皇国貴族家の養子に入る方法もあるのだとハリーが言っていた。
首都とその周辺を武力制圧しているカンリフ騎士家は強いのだ。
後はルーカス殿の決断一つで全てか決まるだろう。
「さて、そのような事はルーカス殿の直接聞いてみなければ分からぬ事です」
「ではセール宮中伯、ルーカス殿に合わせてもらえないだろうか。
我が家の当主となったハリーの母はヴィンセント子爵家の出なのだ。
ハリーの叔母が、ルーカス殿の弟に嫁いでいる。
少し遠いが、我が家とカンリフ騎士家は親戚になる。
今後の事について色々と話したいことがあるのだよ」
「それは私も知っていましたよ、回り回れば私もルーカス殿の親戚ですから。
ですが、こんな親兄弟でも殺し合う時代では、親戚だと言ってもあまり意味はないです。
ああ、余計な事を言いましたね、そんな事よりも確認しておきたい事があります。
ルーカス殿に会うのはハリー殿ですか、ノア殿ですか」
「私だ、ハリーはまだ幼く、何かあれば我が家が崩壊してしまう。
将来のある可愛い孫を、修羅場に送るわけにはいかん」
「分かりました、受けてくれるかどうかは分かりませんが、確認だけはしましょう」
189
あなたにおすすめの小説
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる