35 / 94
第一章
第34話:和平
しおりを挟む
皇紀2218年・王歴222年・冬・ロスリン城
俺が着々と軍を整えている間に、王家とカンリフ騎士家が和平を成し遂げた。
影衆が情報収集をしてくれていたから、事前に分かっていた事ではある。
だが実際に和平がなってみると、よくやったものだと感心する。
王家に忠誠を尽くすセール宮中伯家のアダムが、必死で成し遂げた和平だった。
王家よりも王国を大切にする男だとは聞いていたが、十分王家にも尽くしている。
身勝手な人間が大嫌いな俺では、絶対にできない事だ。
ただ本当にアダム一人で成し遂げられたかと言えば、そうではない。
アダムが努力した事に間違いはないが、周辺の事情が大きく変わった事も大きい。
俺が裏切者の国王を領地から追い出して、カンリフ騎士家と秘密交渉をした。
エクセター侯爵が俺の事を警戒して、カンリフ騎士家と争うよりも、俺を討伐する事を優先した、などという事情があったのだ。
そういう状況になって、ようやく国王やその廷臣が危機感を覚えた。
もう俺の領地に逃げ込む事はできないし、エクセター侯爵もあてにできない。
安全な自由都市に逃げ込んでいるはずだったが、味方してくれる貴族がいなくなると、自由都市を支配している教会が不気味に見えてくる。
この時代の教会は、恐ろしいくらい現世利益に貪欲なのだ。
国王達が逃げ込んでいる自由都市は、二つの教団による歪んだ支配になっている。
領地を支配しているのは、この国で一番権威と兵力を持った教団だが、この教団は思いっきり腐敗していて、酒は飲む女は抱く御神体を神輿に乗せて首都で暴れる。
自分たちの欲望を満たすためなら、何でもやるのだ。
特にあくどいのが、自分達が奉じている主神ではなく、別の古い神を報じる教団を傀儡にして、年利五割という暴利で民に金を貸し付け、返せないと土地を奪うのだ。
そして自由都市に住む多くの民が信じている教団も、現世利益に貪欲だ。
こちらの教団はもっと露骨で、信徒を兵士にして、別の教団が奉じている神を信じる民を殺して土地を奪うのだ。
最近では平民の土地だけではなく、士族貴族を殺して領地まで奪っている。
恐ろしい事に、地方を任された伯爵家や侯爵家まで滅ぼしている。
そんな恐ろしい二つの教団が、貴族の支援を失った王家をどう扱うだろう。
皇家の子弟を傀儡教主にしている、この国で一番権威を持つベリアル教団。
王家を滅ぼして古の外戚政治を手本に、皇帝を皇族教主に操らせ、皇族教主を教団幹部が操る政治にしようとするかもしれない。
実際に今も皇族教主を操る事で、教団の権威を高めて貴族家を圧迫しているのだ。
それが可能なだけの宗教権威と教団騎士団と言う兵力を持っている。
そして貴族まで滅ぼすような武闘派のアザエル教団ならば、王家を滅ぼして自分達が新たな王家になろうとする可能性が高いだろう。
実際に今も伯爵家や侯爵家を滅ぼして、三つの地方を教団の支配下に置いている。
王家を首都から追い払う位の実力があるカンリフ騎士家だが、その先代当主はアザエル教団に襲撃されて自害しているのだ。
あまりの悔しさに、腹を斬って内臓を天井に投げつけたというほどだ。
そんな二つの教団が、陰で権力闘争を行っている自由都市に、貴族の支援を失くした状態でいる事は、何時殺されるか分からないという事だ。
安全を確保するためには、自由都市から逃げ出さなければいけない。
だがこれ以上首都から遠い場所に逃げてしまったら、もう王家の威信を取り戻す事は不可能だろう。
最悪の場合はカンリフ騎士家が新たな王家を建てるだろうし、王家が残るとしても、自分ではなくジェームズが傀儡王に立てられるだろう。
卑怯下劣な国王だが、馬鹿ではないので、それくらいの事は分かる。
エクセター侯爵と完全に敵対せずに、勧めてくれた和平を受ける事で恩を売る。
カンリフ騎士家とセール宮中伯家に対しても、和平を受ける事で恩を売る。
セール宮中伯家が維持していた王家組織を利用して、遠方の貴族家を味方にする。
今はエクセター侯爵とカンリフ騎士家の勢力均衡の間で生き残る。
その程度の事は考えて、今回の和平を受け入れて首都に戻ったのだろう。
「皆の者、今度の和平を好機としてエクセター侯爵が攻め込んでくるぞ。
クレイヴェン伯爵家への侵攻は後回しだ、まずはエクセター侯爵を撃退する。
攻め込んできたエクセター侯爵とクレイヴェン伯爵を叩いて、エクセター侯爵家をしばらく動けない状態にして、その間にクレイヴェン伯爵領を奪うぞ」
「「「「「おう」」」」」
俺が着々と軍を整えている間に、王家とカンリフ騎士家が和平を成し遂げた。
影衆が情報収集をしてくれていたから、事前に分かっていた事ではある。
だが実際に和平がなってみると、よくやったものだと感心する。
王家に忠誠を尽くすセール宮中伯家のアダムが、必死で成し遂げた和平だった。
王家よりも王国を大切にする男だとは聞いていたが、十分王家にも尽くしている。
身勝手な人間が大嫌いな俺では、絶対にできない事だ。
ただ本当にアダム一人で成し遂げられたかと言えば、そうではない。
アダムが努力した事に間違いはないが、周辺の事情が大きく変わった事も大きい。
俺が裏切者の国王を領地から追い出して、カンリフ騎士家と秘密交渉をした。
エクセター侯爵が俺の事を警戒して、カンリフ騎士家と争うよりも、俺を討伐する事を優先した、などという事情があったのだ。
そういう状況になって、ようやく国王やその廷臣が危機感を覚えた。
もう俺の領地に逃げ込む事はできないし、エクセター侯爵もあてにできない。
安全な自由都市に逃げ込んでいるはずだったが、味方してくれる貴族がいなくなると、自由都市を支配している教会が不気味に見えてくる。
この時代の教会は、恐ろしいくらい現世利益に貪欲なのだ。
国王達が逃げ込んでいる自由都市は、二つの教団による歪んだ支配になっている。
領地を支配しているのは、この国で一番権威と兵力を持った教団だが、この教団は思いっきり腐敗していて、酒は飲む女は抱く御神体を神輿に乗せて首都で暴れる。
自分たちの欲望を満たすためなら、何でもやるのだ。
特にあくどいのが、自分達が奉じている主神ではなく、別の古い神を報じる教団を傀儡にして、年利五割という暴利で民に金を貸し付け、返せないと土地を奪うのだ。
そして自由都市に住む多くの民が信じている教団も、現世利益に貪欲だ。
こちらの教団はもっと露骨で、信徒を兵士にして、別の教団が奉じている神を信じる民を殺して土地を奪うのだ。
最近では平民の土地だけではなく、士族貴族を殺して領地まで奪っている。
恐ろしい事に、地方を任された伯爵家や侯爵家まで滅ぼしている。
そんな恐ろしい二つの教団が、貴族の支援を失った王家をどう扱うだろう。
皇家の子弟を傀儡教主にしている、この国で一番権威を持つベリアル教団。
王家を滅ぼして古の外戚政治を手本に、皇帝を皇族教主に操らせ、皇族教主を教団幹部が操る政治にしようとするかもしれない。
実際に今も皇族教主を操る事で、教団の権威を高めて貴族家を圧迫しているのだ。
それが可能なだけの宗教権威と教団騎士団と言う兵力を持っている。
そして貴族まで滅ぼすような武闘派のアザエル教団ならば、王家を滅ぼして自分達が新たな王家になろうとする可能性が高いだろう。
実際に今も伯爵家や侯爵家を滅ぼして、三つの地方を教団の支配下に置いている。
王家を首都から追い払う位の実力があるカンリフ騎士家だが、その先代当主はアザエル教団に襲撃されて自害しているのだ。
あまりの悔しさに、腹を斬って内臓を天井に投げつけたというほどだ。
そんな二つの教団が、陰で権力闘争を行っている自由都市に、貴族の支援を失くした状態でいる事は、何時殺されるか分からないという事だ。
安全を確保するためには、自由都市から逃げ出さなければいけない。
だがこれ以上首都から遠い場所に逃げてしまったら、もう王家の威信を取り戻す事は不可能だろう。
最悪の場合はカンリフ騎士家が新たな王家を建てるだろうし、王家が残るとしても、自分ではなくジェームズが傀儡王に立てられるだろう。
卑怯下劣な国王だが、馬鹿ではないので、それくらいの事は分かる。
エクセター侯爵と完全に敵対せずに、勧めてくれた和平を受ける事で恩を売る。
カンリフ騎士家とセール宮中伯家に対しても、和平を受ける事で恩を売る。
セール宮中伯家が維持していた王家組織を利用して、遠方の貴族家を味方にする。
今はエクセター侯爵とカンリフ騎士家の勢力均衡の間で生き残る。
その程度の事は考えて、今回の和平を受け入れて首都に戻ったのだろう。
「皆の者、今度の和平を好機としてエクセター侯爵が攻め込んでくるぞ。
クレイヴェン伯爵家への侵攻は後回しだ、まずはエクセター侯爵を撃退する。
攻め込んできたエクセター侯爵とクレイヴェン伯爵を叩いて、エクセター侯爵家をしばらく動けない状態にして、その間にクレイヴェン伯爵領を奪うぞ」
「「「「「おう」」」」」
150
あなたにおすすめの小説
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。
いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。
そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。
【第二章】
原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。
原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる