異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全

文字の大きさ
46 / 94
第一章

第45話:決断

しおりを挟む
皇紀2220年・王歴224年・晩春・ロスリン城

「アイザック、キャメロン地方のキャヴェンディッシュ侯爵から、領民が我が領地に逃げたから送り返せと使者を送ってきたのだが、あの地はどのような状況なのだ」

 俺が皇国の名誉侯爵でしかないからだろう、とても居丈高な使者が来た。
 王国貴族の基準で言えば、俺は単なる男爵でしかない。
 領民がとても少ないバーリー地方とはいえ、一つの地方を武力で征服したのだから、領地の格から言えば王国伯爵に叙爵されるはずなのだが、認められていない。

 まあ、名門地方支配者を下克上して追い出した場合は、支配を認められても子爵位しか与えられない事も多い。
 トリムレストン子爵家もゴーマンストン子爵家も同じだからな。
 特にバーリー地方を支配していたクレイヴェン伯爵家には王の妹が嫁いでいたから、王に疎まれるのは仕方がない事だ。

「キャヴェンディッシュ侯爵の民に対する支配は過酷極まりなく、多くの領民が食うや食わずの生活をしており、弱い者が次々と餓死しております。
 特に子供と老人に犠牲が多く、民からは怨嗟の声が上がっております。
 そんな中で、侯爵閣下はバーリー地方の税を半分近くにされました。
 仕事がなく食べ物を手に入れられない者には、仕事と食糧を与えられました。
 税を治められない農民にも、同じように日雇い仕事を与えられました。
 そのような噂が隣のキャメロン地方にも流れたのでございます。
 民が生きるために逃げてくるのは当然でございます」

「本当にそれだけか、アイザック」

 俺がそう聞くと、アイザックがニヤリと笑った。

「民の中には、隠れた魔力持ちがいるかもしれません。
 特に幼い子供達の中には、まだ知られていない魔力持ちが多いものでございます。
 閣下の御言葉に従い、積極的に集めさせて頂きました」

「子供達だけを集めたのか、違うだろ」

「子供達の世話をする者が必要でございます。
 戦争で戦える者、農民や職人として働けるものは、キャヴェンディッシュ侯爵も領地から出さないように厳しく取り締まっております。
 ですが何の役にも立たないと思っている子供や老人ならば、比較的簡単に御領地まで連れてくることができます。
 特に閣下が増強された艦艇を使えば、安全に連れてこられました。
 海岸にさえ連れて行けば、誰にも邪魔されませんでしたから」

「ではこのキャヴェンディッシュ侯爵の苦情を聞くとなると、アイザックが集めてくれた子供達や老人達も、侯爵に返さなければいけなくなるのだな」

「はい、向こうは子供や老人など不要だと言うかもしれませんが、そうなります」

「まず間違いなく子供達は奴隷として売られるだろうな」

「はい、短い間ではありますが、読み書き計算を教えましたので、多少は価値が上がっておりますし、中には魔術が発現した子もおります。
 そういう魔力持ちを、契約魔術で縛って利用する可能性もございます」

「子供や老人を見殺しにするくらいなら、悪名を買った方がましだな」

「閣下のお考え次第でございます。
 キャメロン地方のキャヴェンディッシュ侯爵とフェアファクス地方の騎士達は、国王の勅命に従ってカンリフ公爵達と戦っております。
 カンリフ公爵達と戦い首都とその周辺を手に入れる御心算ならば、同盟の布石にために、めぼしい者達だけ残して、役に立たない子供と老人を返す方法もございます」

「俺を試す気か、アイザック」

「そのような気持ちはございません。
 多くの民を助けるために、誰かを犠牲にしなければいけない事もございます。
 現に閣下は民のために多くの犠牲を払っておられます」

「御世辞はいい、それよりも確認しておかなければいけない事がある」

「何でございましょうか」

「キャヴェンディッシュ侯爵もフェアファクス地方の騎士達も、自分達の利益にならない事のために戦うはずがない。
 国王はどのような条件を出して奴らを味方につけたのだ。
 まあ、どんな条件を出したのかはだいたい想像できているが、確認したい」

「御想像されている通りだと思います、閣下。
 国王は閣下が多大な犠牲を払って支配下に置かれた、バーリー地方を与えるという条件で、彼らを味方につけたのです」

「一つの地方を二重売りしたとう事か」

「はい、その通りでございます」

「馬鹿王は馬鹿なだけではなく屑だな」

「わたくしもそのように思います」

「では、やられる前にやってしまったほうがいいな、耳を貸せアイザック」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...