幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全

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大納言対外政策

武芸大会

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「大納言様の麗しき御尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じ奉りまする」
「うむ。主殿頭も変わりないか」
「はい」
「それで御前武芸大会の方だが、随分と町方で評判になっているようだな」
「既に大納言様の御耳に入っておりましたか」
「江戸蘭学社中の献策を受けて、余が主殿頭にやらせたのじゃ、気になって当然であろう」
「はい。大納言様の英断を持って始めた武芸大会でございますが、町方に限らず、大名旗本御家人にも喜ばれております」
「そうか、武芸を励むことで、役に就ける可能性が出たのだな」
「はい。それが一番ではございますが、勝手向きがよくなり、御役に励めるのも一つでございます」
「勝手向きが悪いと、御役に励めぬと申すのか」
「腹が減っては戦が出来ぬと申します。満足に食事も出来にとあれば、原城のキリシタンや三木城の餓え殺しと同じになります」
「源内からも聞いていたが、御家人の生活はそれほど苦しいのか」
「恐れながら、大納言様の側仕えの者達は、幕臣の中でも飛び抜けて恵まれた者達ばかりでございます。その者達だけを見て御政道を決められたら、道を誤られてしまいます」
「うむ。心しよう。これからは御庭番を使って、色々と町方の話を集めるとしよう」
「恐れながら申し上げます」
「まだ何かあるのか」
「八代様が御城に入られた頃は、御供してきた者達も世情に通じておりましたが、臣をはじめ皆歳をとり、代替わりしてしまっております」
「御庭番では役に立たぬと申すのか」
「役に立たないわけではありません。十分役立ってくれていますが、町方の世情には疎くなっております」
「ではどうせよと申すのか」
「せっかく武芸大会を開くのでございますから、優秀な成績を上げた浪人や微禄の者を取り立て、直接話を聞かれるほうが宜しいかと思います」
「そうであったな。主殿頭の提案で、浪人や大名の陪臣も武芸大会に参加しているのであったな」
「はい。御陰様を持ちまして、毛利家と黒田家の試合や、上杉家と伊達家の試合などは、芝居小屋が満員札止めとなりました」
「ほう、それは関ケ原の遺恨か」
「はい。上杉家と伊達家は、関ケ原に参陣したわけではありませんが、奥州で熾烈な戦いをしたことを、講釈や瓦版が広めてくれたので、町方でも評判でございます」
「主殿頭が広めさせたのであろう」
「考えたのは源内でございます」
「源内は多芸であるな」
「はい」
「それで肝心の軍資金はどうなっておる」
「試合の組み合わせによって増減はございますが、日に千両を下る事はありません」
「興行をはじめて百日も経つが、未だに盛況なのか」
「はい。町方で恐れられている火付け盗賊改め方と浪人の試合は、それはそれは人気を博しましたし、御三家の紀州家と尾張家の試合も、異様な盛り上がりでございました」
「やれやれ、それで火付け盗賊改め方を増やしたのだな」
「御先手組を火付け盗賊改め方に任じても、役料が四十人扶持増えるだけでございます。それで毎日幕府に五百両入るのなら安いモノでございます」
「そうか。そうだな。御陰でオロシャに備える軍資金が五万両溜まり、勝手向きに苦しんでいた微禄の者共が飢えずにすんだのだな」
「はい」
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