幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全

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蝦夷地開拓

火付け盗賊改め方与力家の家臣

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「父上、先程の御話、御受けしようと思います」
「源太郎、御前に誇りはないのか」
「いえ、私にも武士の誇りはございます」
「では我々を召し放ちにした、幕府の手先に仕えるとはどういう了見だ」
「では父上は、己の誇りを守るために、娘を売って飯を喰う御心算ですか」
「何だと、親に向かって何という口をきく」
「親なればこそ、人として間違った事をしようとしているから、諫言しているのです」
「親の為に身を売るのは、子供として当然の孝の道だ」
「仕官の口があるのに働きもせず、娘を売って酒食や遊興にふけるのは、外道の道としか言えません」
「おのれ、手討ちにしてくれる」
「貴方のような屑に、黙って斬られる私ではありません。母上様や妹達の為にも、返り討ちして見せます」
「おのれ、おのれ、おのれ。子供の分際で儂を馬鹿にしおって」
「僅かな銭欲しさに、不正をして主君を偽っていた同僚を見逃していたのです。召し放ちになるのは当然です。切腹を申し付けられなかったことを感謝すべきです」
「死ね」
「御免」
 流石に父親を殺せなかったのか、息子は父親に当て身を食らわせて気絶させた。
 だがこの時代の親子関係では、父親が娘を売るのは普通の事だった。
 ここで父親を打ち負かしても、殺さない限りはどこで借金を作るか分かったモノではない。
 そんな事になれば、妹が連れ攫われてしまう。
 思い余って若党に誘ってくれている与力家当主に相談したら、田沼松前福山城代に引き合わせてもらえた。
 話を聞いた田沼意知は、城代直々の布告として、幕臣に召し抱えられた陪臣当主は、父親であろうと絶縁する事が可能であり、親・親族などは連坐から外されると布告した。
 更に元娘や元妻を目当てに金を貸しても無効だとし、もし強制的に連れ去ろうとしたら、金貸しの親方も金主も極刑に処すと布告した。
 田沼親子の容赦ない処分は日本中に広まっていたので、絶縁処分になった者に金を貸す者はいなくなった。
 この頃の火付け盗賊改め方与力家は同心家と同じように、前年度に二町十二石の開拓地が認定され、今年度には四町二十四石の開拓地が認定されていた。
 併せて六町三十六石(九十俵)換算の取高となっていた。
 しかも親子で二百俵の与力として出仕しているので、石高としては恵まれているものの、与力自身も与力の家臣も家族扶持が支給されないので、家臣の成り手が少なかった。
 特に見習い与力となった惣領部屋住みは、新規家臣を探すのに苦労していたが、仙台藩が多くの家臣を召し放ちにしたので、彼らを抱え席として召し抱えて軍役人数を満たした。
 それと今年は凶作で米価が高騰していたので、米を売った銭で東国から流れてきた農民を使用人として雇い、開拓地で採れた雑穀を共に食べ農作業に従事した。
 食うや食わずの生活で東国から蝦夷に流れてきた農民は、日当を頂けるうえに、雑穀とは言え腹一杯食べることが出来るのを心から喜んだ。
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