幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全

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蝦夷地開拓

印旛沼洪水

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「殿、利根川の洪水で、印旛沼の開拓地に大きな損害がでたそうでございます」
「何じゃと、民に被害はあったのか」
「いえ、幸い民に被害はなかったそうでございます」
「ならば大丈夫だ。民が生きている限り、必ず成し遂げることが出来る。それで大きな損害と言うが、具体的にどうなっておるのだ」
「水門は強化されて大丈夫だったのですが、浅間山の噴火の灰で、利根川が浅くなっていたものと思われます」
「では今一度水を抜けば、田畑として仕えるのだな」
「利根川から流れ込んだ灰が、作物にどのような影響を与えるか分かりませんが、利根川の川底を攫い、攫った灰を使って利根川と開拓地の間に土手を造れば、今一度工作は可能と思われます」
「そうか。それはよかった」
「恐れながら申し上げます」
「何じゃ」
「今少し開拓工事の完成が遅ければ、取り返しのつかない大被害になったものと思われます」
「運がよかったと言うべきか、浅間山の噴火自体だ、運が悪い証拠と言うべきか」
「天運は人には避けられないモノでございますが、人の運と能力によって、被害が避けられるモノと、この度の事で思い至りました」
 御追従なのか、それとも真実の想いなのかは、意次にも分からなかったが、それでも悪い気はしないので、報告にやってきた郡方の役人の顔と名前を憶えてから下がらせた。
 立て続けに起こった噴火によって、大凶作になると言う非常事態を乗り切った幕府は、俵物の輸出と米の輸入が順調な事もあって、長期計画を立てることになった。
 特に蝦夷地に住むアイヌの待遇を変えたことで、余力が産まれたアイヌが俵物の増産をしてくれた上に、余力で幕府が輸入した米を買ってくれるので、幕府は商人を頼らずに安定して二重に利益を得ることが出来るようになった。
 柳の下の泥鰌ではないが、幕府は二つ目の長期安定した財源を確保すべく、屯田兵地だけに専売を許したウィスキー・白酒・ウォッカの売り先を探していた。
 そんな矢先に、印旛沼開拓地が大洪水で損害を受けたと言う報告だったので、流石の田沼意次も気を落としていたのだが、思っていたより損害が少なかったので、気を取り直して立て直す方策を考えていた。
 大量の火山灰の影響で、稲作が難しくなってしまった可能性が有り、雑穀だけしか収穫できない場合は、屯田兵地と同じように酒造を許す事を思案した。
 だがその為には、高価で大量に酒を買ってくれる相手を探さなければならない。
 今輸出出来る相手は、オランダ・清・朝鮮・オロシャの四カ国しかないので、実現可能か役人に調べさせることにした。
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