癒しの聖女を追放した王国は、守護神に愛想をつかされたそうです。

克全

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第15話追放44日目の出来事。

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「誰かいないの!
 なぜ起こさなかったの!
 このままでは夜会に間に合わないではありませんか!
 何をしているの!
 直ぐに来なさい!」

 グストン公爵家令嬢ネヴィアは寝坊をして慌てていた。
 もう太陽が西に傾いている。
 どれほど急いでも、もうまともな姿で夜会に参加できない。
 この怒りは、時間通りに起こさなかった侍女を鞭打たねばおさまらない。
 だから死ぬ直前まで鞭打ってやろうと心に誓い、大声で呼び出していた。

 いや、呼び出すために大声を出しているつもりなだけだった。
 全く声など出ていなかった。
 かすれてほとんど聞き取れない声が出されているだけだった。
 それでも、厳しく躾けられ、主の言葉、いや、仕草一つで思いを汲み取り、主人の想いをかなえるのが一流の侍女であり侍従だった。

 三大公爵家の一つ、グストン公爵家に仕える侍女侍従ならば、それくらいの技を会得した者が仕えているのが普通だった。
 だが、誰一人こたえる者はいなかった。
 屋敷に誰一人いないわけではなかった。
 士族位を持つような、譜代の上級家臣は残っていた。
 だが彼らには、ネヴィア嬢を相手にする余裕などなかった。

 グストン公爵イーライ卿から、遂にこの国の命運が尽きたことを知らされていた。
 家を保ち生き残るために出来る事をすべく、逃げた家臣や使用人の穴を埋めるべく、誰もが数人分の役目をこなして忙しくしていた。
 明らかに守護神に忌み嫌われたと分かるネヴィア嬢の相手をすれば、自分達まで守護神に嫌われかねない事なのだ。

 だからこそ、最近のネヴィア嬢には下級使用人しかつけられていなかった。
 ネヴィア嬢を溺愛していたグストン公爵も公爵夫人も、涙を呑んで切り捨て、エリオット王太子を通じで王国の実権を握る事を諦めていた。
 グストン公爵も馬鹿ではないので、守護神に見捨てられ滅びる国の実権を握っても、何の意味もない事くらいは分かるのだ。

 叫んでいる途中で苦しくなり、何度も激しい咳を繰り返し、それでも侍女を呼び出すのを止めなかったネヴィア嬢は、ついに鮮血を吐いて倒れた。
 老化で弱っている身体に毎夜の放蕩、特に昨夜の深酒で下部食道括約筋の圧力を緩めるてしまい、食道と胃の接合部付近の粘膜が破れ出血してしまっていた。

 いや、それだけではなかった。
 激しい腹痛に襲われ、その場でのたうち回ることになった。
 老化と不摂生で腸に便が溜まり詰まってしまい、腐りだしていたのだ。
 普通の老人なら、肺炎を起こし、緩やかな熱に冒され、眠るように死ぬ。
 特にこの国では、善良な民は苦しまずに死ぬことができた。
 だがネヴィア嬢は、内臓が徐々に腐っていく激痛に苛まれ、でも誰も助けに来てくれない状況になっていた。
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