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第19話追放48日目の出来事1

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「テーベ様、教えて欲しい事があります」

 アリスの言葉には意志の強さがこもっていた。
 何があっても揺るがない決意に満ちていた。
 多くの人に裏切られ、老化して気力も体力も失い、憎しみだけに凝り固まっていた心が、若さと健康と取り戻して、幼い頃から持っていた聖女の心を取り戻していた。
 だからといって、恨みと憎しみがなくなったわけではない。

 自分を裏切った者達に報復したい気持ちに変わりはない。
 だからこそ、今の状況に甘え続ける事ができなくなった。
 想像だが、テーベ様が自分に成り代わり、復讐してくださっているのは、簡単に想像できる事だった。
 自分の事は自分でやらないと、テーベ様に愛される資格がないと思ったのだ。

 日に日に気力体力を取り戻し、テーベ様に全てを確認する勇気も湧いてきた。
 テーベ様に愛される人間でありたいと思い始めたのだ。
 このまま甘えるだけの人間では、何時か愛想を尽かされるかもしれないという恐れを抱いた事が、勇気が湧き出るきっかけだったのかもしれない。
 自分の本心の中にある本当の闇は分からないが、テーベ様に愛されるだけの人間でありたいという想いに間違いはなかった。

「なんだい。
 真剣な顔をしているね。
 まだ無理をしてはいけないよ。
 すべて私に任せていいのだよ。
 聖女に戻るのは、もっと元気になってからでいいのだよ」

 テーベ様の優しい言葉に、もう少し甘えたい誘惑にかられる。
 だが、そうはいかないのだ。
 甘えるだけの人間に、月神様の聖女は務まらないのだ。
 月神様は夜の闇の中で人に明かりを恵んでくださる慈悲深い神様だ。
 だが同時に、闇に生きる者達を加護する神様でもある。
 人間だけに優しいわけではなく、全てに等しく慈悲を与えられる。

 だからこそ、月神様の怒りに触れたモノは、全ての神々から見放される可能性があると、アリスは思い至ったのだ。
 もし自分が月神に愛される最後の人間なら、人が月神に愛させる資格のある種だと示さねばならないと思ったのだ。
 いや、それはアリスの心の一部でしかない。
 アリスの心の大半は、テーベ様に愛されるに相応しい女性でありたいという想いでしめられていたのだ。

「テーベ様。
 今人間達はどうなっているのでしょうか?
 テーベ様が天罰をお与えになっているのでしょうか?
 それはこの国の人間だけなのでしょうか?
 まさか他の国々の人間まで、天罰を受けているのではないですか?」

「なぜアリスがそんな事を気にするんだい?
 薄汚い人間どもは、さんざんアリスを利用して襤褸屑のように捨てたんだよ。
 もう人間の事など心配しなくていいのではないかい?」
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