結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。

克全

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第二章

第84話:地道・レイラ第三皇女

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 フィフス王家の家臣達に、形だけの人質婚約者と思われていても、婚約者であることに変わりありません。
 リカルド王太子からは、情勢が変われば婚約を解消して自由にしてもいいと言われても、そんな気は全くありません。
 愛されてはいなくても、リカルド王太子ほどの結婚相手は他にいません。

「配下を総動員してウェルズリー領の調査をしなさい。
 リカルド王太子殿下は領地の細やかな調査をする余裕がないようです。
 それを補うのが婚約者である私の役目です。
 特に砂漠地域を調査して、灌漑計画を策定しなさい。
 フランシス子爵には私から説明しておきます」

「「「「「は」」」」」

 リカルド王太子は魔術で莫大な量の食糧を生産できるようです。
 どれほど多くの難民を受け入れようと、リカルド王太子が無事である限りは飢えさせないですみます。
 ですがそれはリカルド王太子一代の事です。
 代替わりしても同じことが続けられるとは思えません。

 そんな事はリカルド王太子も分かっておられるでしょう。
 本来ならば難民を広く各地に住ませて、自給自足ができるようにすべきです。
 ですが魔王軍から護るためには、狭い範囲に集めるしかありません。
 しかしそれでは食糧の自給自足が不可能になります。
 リカルド王太子に万が一の事があれば、フィフス王国は食糧難となります。
 
 リカルド王太子に頼らずに自給自足ができる形で、できるだけ狭い範囲に難民を集めなければいけないのなら、ウェルズリー領に難民を受け入れることになります。
 幸いと言うべきか、ウェルズリー領には広大な砂漠があります。
 前王家では利用できなかった砂漠ですが、リカルド王太子なら灌漑できる可能性があります。

 リカルド王太子ならその程度の事は理解されているでしょう。
 時間と人手に余裕があるのなら、家臣を総動員して事前調査をしていたはずです。
 ですが魔王軍との戦いでそんな余裕がないのでしょう。
 だったらそれに備えるの正室になる私の役目です。
 リカルド王太子が信用する将兵は最前線で戦っていますが、信用できない皇国軍将兵はウェルズリー城で暇を持て余しています。

 最初は下劣な貴族の領軍将兵でしたが、当主以下の貴族一族や指揮官クラスが戦死した事で、私の私兵にされました。
 今生き残っている将兵の中には、領主軍時代に悪事を働いた者もいるでしょう。
 ですが今は、リカルド王太子やフィフス王国軍将兵を恐れて大人しいモノです。

 皇国貴族すら恐れず、戦争犯罪者として断罪するフィフス王国軍の将兵です。
 士族や平民で編制された元領主軍将兵など、罪を犯せばその場で処刑されます。
 元領主軍将兵に逆らう気力も悪事を働く度胸もありません。
 彼らを使って砂漠を測量しておけば、河から用水路を引くときに役に立ちます。
 リカルド王太子の役に立つところを証明するのです。
 座して待っていてはリカルド王太子の正室の座は手に入りません。
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