柳生友矩と徳川家光

克全

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第二章:出世

第25話:再襲撃

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1626年4月6日:江戸柳生左門家屋敷:柳生左門友矩13歳

「左門様、また屋敷の外に胡乱な連中が集まっております」

 眠っていたら用人に起こされた。

「今度はどうするのだ?」

「今回は呼子を使いません。
 連中に襲撃させて生死を問わず捕らえます。
 生死を問わず馬に縛り付け、武家地寺社地町人地を問わず引き回すそうです」

「その時の反応を見て、どの家が関係しているのか確かめるのか?」

「はい、大殿からの指図でございます」

「そのために、これだけの裏柳生を集めたというのか」

 柳生荘二千石に住む領民は二千人弱。
 三千石に加増されてからの領民は三千人弱。

 幼い者や足腰の立たなくなった老人以外は全員戦えるように鍛錬させている。
 領民一丸となって、隣り合う領地と生存をかけて戦っていた戦国乱世の名残だ。

 特に新陰流が伝わってからは、領民一丸となって領地を守り流派を守る気概が高まったと聞いている。

 隠し田が見つかり、今まで持っていた領地と荘官の権利を失ったのが大きかった。
 大和から伊賀に移住させられそうになったのも、逆に領民との絆を強めた。

 その結果として、外に出て戦える領民が老若男女合わせて千人はいる。
 そのうちの上位百人が今この屋敷にいる。
 裏柳生と言われる忍者と同じ役目ができる連中だ。

「放て!」

 だだだだだーん!

 屋敷の中から雨戸に向けて一斉に鉛玉が放たれる。
 父上と兄上が総力を使って集めた、十匁を放つ士筒が百丁。
 雨戸の厚みなど関係なく、庭に入り込み雨戸を開けようとした襲撃者を殺す。

 だーん!

「徳川家に楯突く謀叛人を皆殺しにしろ!」
「正体を暴いて親兄弟皆殺しにするのだ!」
「連座で本家も分家も叩き潰して一族皆殺しだ!」

 寝込みを襲うつもりだった襲撃者達が驚きのあまり固まっている。
 前回の呼子を知っているからこそ、順調に庭に入り込めたのを拙者達の油断や驕りだと思っていたのだろう。

 まさか御城下で堂々と鉄砲を放つとは思っていなかったのだろう。
 それも、百丁もの鉄砲を一斉に放つなど想像もしていなかったのだろう。
 驚きのあまり、自分達が卑怯な襲撃者だという事も忘れて棒立ちになっている。

 そこを柳生新陰流を修めた猛者たちが斬り込む!
 殺すことなく戦闘力を奪う為に、右手首を切り落とす。
 普通の状態なら指を狙うのだが、今回は虚を突くことができたので手首を落とす。

 最初の突撃で庭に入り込んでいた連中は生きたまま捕らえる事ができた。
 屋敷の外で見張っていた連中は、素早く次の玉を込めた者が士筒で狙い撃った。
 生きて逃げ出した連中もいたが、そんな連中の跡を裏柳生がつけている。

 手首を斬り落とした連中も、同じように逃がして敵の黒幕を暴く事も考えた。
 だがあまりに人数が多いと尾行する者が見つかり殺される可能性がある。

 それに、覚悟の決まった奴だと、黒幕の所に逃げ込まずに切腹してしまう。
 そんな事を考えると、生きたまま捕らえるべきだという結論になった。

 決して自害できないようにしておいて、戦国から伝わる拷問で自白させる。
 町奉行所では決して認められない、地獄の責め苦のような拷問だ。

 上様に取って代わろうという連中は、絶対に許す訳にはいかない。
 それが例え上様の実の母親であろうと弟であろうとだ。
 情け容赦なくぶち殺してくれる!

「左門様、ここは我らにお任せください。
 これほど良い実戦経験の機会はございません。
 腕利きの護衛をつけさせていただきますので、一緒に行かれてください」

 父上が派遣してくれた手練れの門弟が拙者に自由を与えてくれた。
 情けない話だが、拙者はまだ人を斬った事がない。
 まだ小姓とはいえ、上様に仕えする武芸者として情けない話しだ。

「分かった、この好意を無にしたりはしない。
 この機会を生かして必ず人を斬ってくる」

「最初は色々と思う事もございます。
 上手く斬れない者もおります。
 あまり焦る事なく落ち着いてやられたらいいのです」
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