75 / 83
第二章
第70話:幕間12
しおりを挟む
「なあ、一朗、もう俺達なんていらないんじゃねえか」
槍の勇者本多勇星がうんざりしたような口調で話しかける。
その気持ちは剣の勇者真田一朗も同じだった。
いや、残る2人の勇者も同じ気持ちだった。
召喚直後は無理矢理異世界に呼び出されて腹が立ったが、実際にこの国の苦境を知れば、勇者として戦わない訳にはいかなかった。
覚悟を決めて戦いだせば、幼い頃から鍛錬させられてきた古武術が実戦でとても役に立つし、人助けをして感謝されるという遣り甲斐もあった。
実際目に見えて強くなる実感もあり、張りのある日々だったのだが、今では竜が魔物を狩った後の雑魚を相手にするだけだ。
遣り甲斐もなければ民から感謝される事も極端に減っている。
王家や護衛隊の者達は、今までと同じように感謝して最上級のもてなしを続けてくれるが、無用の長物になっているのは明白だった。
「そうだな、竜がいてくれれば俺達がこの世界にいる必要はない。
元の世界に戻してくれるように強く頼んでみよう」
「いや、こちらから頭を下げて頼む必要なんてねえよ。
向こうが無理矢理こっちに連れてきたんだから、謝ってから帰すのは当然だろ」
「そうね、みなみも当然だと思うわ」
「私もそう思うは、一朗君。
何も一朗君だけに交渉しろなんて言わないわ。
私達4人揃って帰すように強く言えばいいのよ」
「待ってくれ、みんな。
帰る方法を早く探せと言うのはいいよ。
俺も早く帰りたいから同じ思いだよ。
だけど俺達4人だけというのは賛成できないな。
猫屋敷さんも一緒じゃないと帰れないよ」
「ああ、そうだったな、猫屋敷さんだけ残して帰るわけにはいかないな」
本多勇星が猫屋敷を忘れていた事に、ばつの悪そうな表情をして答える。
「みなみもそう思う」
霧隠みなみは平然とした表情で答える。
「そうね、忘れていたのは失礼ね。
猫屋敷さんには食べ物の件でたくさんお世話になったものね」
多少冷淡な所のある矢沢ゆりも心から反省していた。
反省するくらい彼らは食事の面で苦しんでいたのだ。
猫屋敷が贈って来てくれる食材とレシピにどれだけ助けられたことか。
白米だけは再現できなかったが、パンや麺は再現してくれた。
色んな味を楽しめる香草塩と香草味噌を開発してくれた。
各種のパンと麺、香草塩と香草味噌を組み合わせる事で、料理の幅が無限に広がったのだ。
ラーメンも塩と味噌を食べる事ができるようになった。
贅沢にはなるが、味噌作りの時にできる少量の醤を集めれば、醤油ラーメンも再現できるのだが、少な過ぎて焼魚に全部使っていた。
白飯は食べられないままだが、麦だけの麦飯は食べられるようになっていた。
パンや麺だけではどうしても我慢できずに、白飯に比べればやや固めで粘りけも少なく独特の麦臭はあるものの、クジラのサエズリや魚によったら白飯よりも美味しく食べられる事もあった。
魚介鍋の後に麦飯を入れて雑炊にしたらとても美味しかった。
「じゃあ今から4人で直談判に行くぞ」
槍の勇者本多勇星がうんざりしたような口調で話しかける。
その気持ちは剣の勇者真田一朗も同じだった。
いや、残る2人の勇者も同じ気持ちだった。
召喚直後は無理矢理異世界に呼び出されて腹が立ったが、実際にこの国の苦境を知れば、勇者として戦わない訳にはいかなかった。
覚悟を決めて戦いだせば、幼い頃から鍛錬させられてきた古武術が実戦でとても役に立つし、人助けをして感謝されるという遣り甲斐もあった。
実際目に見えて強くなる実感もあり、張りのある日々だったのだが、今では竜が魔物を狩った後の雑魚を相手にするだけだ。
遣り甲斐もなければ民から感謝される事も極端に減っている。
王家や護衛隊の者達は、今までと同じように感謝して最上級のもてなしを続けてくれるが、無用の長物になっているのは明白だった。
「そうだな、竜がいてくれれば俺達がこの世界にいる必要はない。
元の世界に戻してくれるように強く頼んでみよう」
「いや、こちらから頭を下げて頼む必要なんてねえよ。
向こうが無理矢理こっちに連れてきたんだから、謝ってから帰すのは当然だろ」
「そうね、みなみも当然だと思うわ」
「私もそう思うは、一朗君。
何も一朗君だけに交渉しろなんて言わないわ。
私達4人揃って帰すように強く言えばいいのよ」
「待ってくれ、みんな。
帰る方法を早く探せと言うのはいいよ。
俺も早く帰りたいから同じ思いだよ。
だけど俺達4人だけというのは賛成できないな。
猫屋敷さんも一緒じゃないと帰れないよ」
「ああ、そうだったな、猫屋敷さんだけ残して帰るわけにはいかないな」
本多勇星が猫屋敷を忘れていた事に、ばつの悪そうな表情をして答える。
「みなみもそう思う」
霧隠みなみは平然とした表情で答える。
「そうね、忘れていたのは失礼ね。
猫屋敷さんには食べ物の件でたくさんお世話になったものね」
多少冷淡な所のある矢沢ゆりも心から反省していた。
反省するくらい彼らは食事の面で苦しんでいたのだ。
猫屋敷が贈って来てくれる食材とレシピにどれだけ助けられたことか。
白米だけは再現できなかったが、パンや麺は再現してくれた。
色んな味を楽しめる香草塩と香草味噌を開発してくれた。
各種のパンと麺、香草塩と香草味噌を組み合わせる事で、料理の幅が無限に広がったのだ。
ラーメンも塩と味噌を食べる事ができるようになった。
贅沢にはなるが、味噌作りの時にできる少量の醤を集めれば、醤油ラーメンも再現できるのだが、少な過ぎて焼魚に全部使っていた。
白飯は食べられないままだが、麦だけの麦飯は食べられるようになっていた。
パンや麺だけではどうしても我慢できずに、白飯に比べればやや固めで粘りけも少なく独特の麦臭はあるものの、クジラのサエズリや魚によったら白飯よりも美味しく食べられる事もあった。
魚介鍋の後に麦飯を入れて雑炊にしたらとても美味しかった。
「じゃあ今から4人で直談判に行くぞ」
2
あなたにおすすめの小説
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始!
2024/2/21小説本編完結!
旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です
※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。
※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。
生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ!
・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持
・12/28 ハイファンランキング 3位
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる