来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全

文字の大きさ
17 / 53
第1章

第17話:蒸留酒の完成

 転生1年目の夏

 夏は酒造りに適した季節ではないのだが、俺のギフトなら関係なしだ。
 集められるだけ集めた果物と穀物を全部使って、毎日新酒を造っている。
 ただ、巨樹の根から作った酒樽に入れたままだと樹の成分が入ってしまう。

 そこで、人間の国で買い集めたカメに入れて保存している。
 集まってくれた妖精とエンシェントドワーフの数だけ新酒が飲まれる。
 だが造る新酒の方がはるかに多いので、カメの数が足らないくらいだ。

 世界中のカメ焼き職人が大忙しで作っている。
 その費用は結構な金額になっているが、それ以上に入って来る金が多い。
 大魔境産のアサとメンがとんでもない金額で買われるからだ。

 全ての人間の国にいる大貴族と大商人が、見栄を張るために大金を積んで買う。
 その金のごく一部を使うだけで、世界中のカメを買い集められる。

 普通だと少し遠いだけでも大きくて重くて運べないのだが、妖精にかかれば大きさも重さも距離も関係なくなる。

 俺が普通の人間の寿命しかないのを自覚した、エンシェントドワーフのヴァルタルと妖精たちは、これまで以上に酒造りをがんばった。

 ヴァルタルは、6人のエンシェントドワーフを呼び集めて蒸留器を完成させた。
 とはいえ、普通は俺の知識だけで大企業の蒸留所を再現できるわけがない。

 俺ができたのは、家庭用蒸留器の形と役割を口で伝えるだけだ。
 小説を書く時に調べた単式蒸留器や連続式蒸留機、昔見学させてもらった大山崎工場の連続式蒸留機の話ができるだけだ。

 それなのに、ヴァルタルを含めた7人のエンシェントドワーフは、簡単に大型単式蒸留器を再現してくれた。

「美味い、こんな美味くなるのか?!」
「うぉ、凄い、とんでもなく酒精が強くなっている!」
「本当だ、強烈な酒精で舌がしびれるぞ!」
「喉もだ、喉も焼かれるくらい酒精が強い!」
「だが美味い、とんでもなく美味い!」
「ああ、美味い、元になっているブドウワインの美味しさが残っている」
「……イチロウの言葉に嘘はないのだな……」

 試作の小さな単式蒸留器で造った、ワインが元になった蒸留酒は、アルコール度数が40度程度になっている。

 それでも永遠に生きられるエンシェントドワーフたちを驚かせられた。
 これが70度や80度の酒になったらどれだけ驚くか。

 ただ、エンシェントドワーフたちの話を聞いていると、アルコール度数が高ければ好いと言う訳ではないようだ。

 どれほどアルコール度数が高くても、まずい酒は認めないようだ。
 これくらいこだわりがあるなら、酒造りを全て任せられる。
 
「ヴァルタル、これを蒸留酒と言う。
 蒸留酒の研究と製造はエンシェントドワーフたちに任せる。
 酒精をどれだけ強くするのか、風味付けをどうするのか、研究してくれ。
 元になる酒はできる限り多くの種類を用意する」

「そうか、任せてくれるか、ありがたい。
 これほど面白い事は初めてだ!
 エンシェントドワーフは、これと思った事に集中する性格なのだ。
 酒造りがこれほど面白いと分かったら、道具作りも面白くなる」

 そう言ってからのヴァルタルは、蒸留器を造っているか酒を飲んでいるかのどちらかだった。

 もうこれまで造っていた武具を造る事は無くなった。
 一心不乱に酒造りに必要な道具を作っている。
 鉄製が主だが、必要なら金銀銅製もステンレス製も作っている。
 
 俺も彼らのがんばりに応えて、醸造酒造りをがんばった。
 これまで作っていた各種ワインに加えて、新しい酒も造った。
 その多くが巨樹に負担をかけない穀物酒だった。

 粟を原料にした濁酒とトノト
 黍を原料にした濁酒とトノト
 稗を原料にした濁酒とアイヌの神酒、カムイ・トノト
 トウモロコシを原料としたチチャ
 ライ麦を原料にしたクワス
 小麦を原料にしたビールとボザ
 大麦を原料にしたビールとバーレーワイン
 米を原料にした濁酒、清酒、サト、紹興酒、マッコリ
 リュウゼツランを原料にしたプルケ
 ヤシの樹液を原料にしたヤシ酒

 その全てのお酒の9割が蒸留酒の原料にされた。
 残る1割は俺たちの生活を豊かにしてくれた。

 造る醸造酒の量が飲む量をはるかに上回っている。
 それに、俺たちが飲む醸造酒だけが蒸留酒にされている訳ではない。
 他にも、醸造酒として飲まれる事なく直接蒸留酒にされる物もある。

 サツマイモ、ジャガイモ、ソバ、モロコシ、酒粕などを原料にした醸造酒だ。
 それから造られる代表的な蒸留酒がイモ焼酎やソバ焼酎、粕取焼酎だ。
 モロコシは中国発祥の白酒になる。

「ヴァルタル、ブドウのワインから蒸留した酒を、樹の樽に入れて5年ほど熟成させた酒をブランデーと呼ぶ、造ってみてくれ」

「分かった、イチロウがわざわざ言うのだ、とんでもなく美味しいのだろう?」

「いや、単なる思い出、感傷だ。
 来訪神様に大魔境に連れて来てもらう前は、全く酒が飲めなかった。
 その時に飲めなかった酒を、ここで再現してもらって飲みたいだけだ」

「酒が飲めなかっただと?!
 そんな不幸な事はない、分かった、何が何でも再現してやる。
 他に再現して欲しい酒は無いか?」

「そう言ってくれるのなら、コニャック、アルマニャック、モルト・ウイスキー、バーボン・ウイスキーを再現してもらいたい」

「分かった、できるだけくわしく教えてくれ」

 俺は転生前に調べて覚えていた造り方をヴァルタルに伝えた。
 小説を書くためにできるだけ詳しく正確に覚えていたから伝えられた。

 酒が飲めないから、人生の半分は損していると友達にからかわれていた。
 それを取り返せる機会が訪れるとは思ってもいなかった。
 妖精たちとヴァルタルが酒の気配に釣られて来てくれたのは幸運だった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~

黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。 待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金! チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。 「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない! 輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる! 元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。