逆行悪役令嬢は改心して聖女になる。

克全

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第一章

6話

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 私がベッドを離れて椅子に座れるようになった事を、王太子殿下は兄上から御聞きになったようで、毎日見舞いの品を贈ってくださるようになりました。
 多くは花なのですが、時には食べ易い菓子などもございます。
 涙が出るほどうれしかったです。
 前世で嫌われてしまっただけに、今生でこそ愛されたいという思いもあります。

 ですが、その想いのままに振る舞う訳には参りません。
 前世と同じ過ちを繰り返す訳にはいかないのです。
 今生では殿下に長生きして頂くのです。
 父上と母上にまた哀しい思いをさせる訳には参りません。
 兄上を死に追いやる訳にはいかないのです。

「リリアン。
 悪いけれど、また代筆を御願い出来るかしら」

「御任せ下さい、御嬢様」

 情けない話ですけれど、ペンを持つとまだ少し指が震えてしまいます。
 署名だけは自分でしますが、文章はリリアンに代筆してもらっています。
 殿下に対する御礼状を代筆してもらうなど、不敬だと御叱りを受ける事なのですが、書けないモノは仕方ありません。
 その事を最初に謝り、心からの喜びを御伝えしたいのです。

 殿下の正妃になることは出来ませんが、それは殿下を嫌っての事ではなく、病弱で仕方がないのだという事を、分かって頂きたいのです。
 未練だとは分かっています。
 次の婚約者に失礼だとも分かっています。
 分かってはいても、嫌われて別れるのは嫌なのです。

 殿下の心に美しい思い出として残りたいのです。
 それが、殿下の正妃になる方に憎まれる行為だとは分かっています。
 それが、シーモア公爵家に不利益になる可能性も分かっているのです。
 父上と母上、兄上に幸せになって欲しいという思いと、相反する思いだというのも重々承知しています。

 それでも、それでもこの想いを伝えずにはいられないのです。
 何と業が深いのでしょうか。
 女の想いとは、これほど重く暗いものなのでしょうか。
 私の殿下への愛情が、もっと軽やかで美しい愛情であればよかったのに。
 日々刻々と、私の想いは千々に乱れ変化します。

「御嬢様。
 以前命じられていた、新しい王太子殿下の婚約者候補の事でございますが」

 思わずドキリとしていまします。
 自分でリリアンに頼んでおきながら、見つかったと聞くと胸が痛みます。
 私の心は、何と身勝手で汚いのでしょう。

「いい人が見つかったの?
 どこの何方なの?」

「いえ、そうではないのです。
 御嬢様が病に臥せっていらっしゃるのをいい事に、王太子殿下に近づく不埒者がいるのでございます!」
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