逆行悪役令嬢は改心して聖女になる。

克全

文字の大きさ
24 / 111
第一章

王太子ウィリアム視点

しおりを挟む
「不審な点が多過ぎます。
 純然たる貴族でしたら、正室腹と側室腹の家督争いを恐れ、側室腹の出生届を遅れて出す事もありますが、マナーズ男爵はその当時はまだ冒険者です。
 出生を隠す必要などありません」

 確かにオーウェンの言う通りだ。
 男爵位を得てから急に娘が現れるのはおかしい。
 特にグレイスが余との婚約を辞退してから近づいたのが不審過ぎる。

「確かにマナーズ男爵の行いは不審です。
 ですが言い訳ができない訳ではありません」

「どういう言い訳だ、ディラン」

「冒険者の頃は、人を人とも思わず、子供を認知しなかった。
 だが商売が成功し、爵位を得た以上、跡継ぎが欲しくなった。
 仮に今後子供が産まれたとしても、自分の死後に相続でもめる訳にはいかない。
 だから自分が健在なうちに、過去の行状を清算した。
 そういう言い訳でございます」

 確かにディランの言うような事を言われれば、それ以上の追及は難しいだろう。
 貴族家士族家にとって、家督争いによる内紛は悪夢だ。
 それ幸いと、王家王国が介入し、貴族家士族家の力を削いできた歴史がある。
 ましてマナーズ男爵家は王国一番と言われる大富豪だ。
 王家の介入を受けて、その財産を毟り取られるのは防ぎたいだろう。

「殿下。
 父が調べた範囲でも、スカーレット嬢が何処で生まれ、誰が母親か分かりません。
 王国軍の密偵を投入しましたが、未だに何の手掛かりも得られません。
 いつの間にか男爵領に連れてこられたようでございます。
 前後のマナーズ男爵家の行動ですが、商談で色々な国を行き来していた時期です。
 その内のどこかの国で、スカーレット嬢を見つけたと思われます」

「ちょっと宜しいですか?」

 アイザックが頃合を見てボルトンの報告を止めてくれた。
 正確で詳細な報告は欲しいが、これ以上ボルトンに話させると、世間話にまで行きついてしまう。
 事前に話し合っていたアイザックが止めてくれたという事は、ここまでが必要な報告なのだろう。

「ああ、構わん。
 何だ」

「ディランが気にしていた香水ですが、予想通り媚薬の成分が含まれていました」

「何だと!
 矢張り余を惑わそうとしていたのか⁉」

「しかしながら、一つ一つの成分は法に触れるようなモノではございませんでした。
 問題は組み合わせでございます」

「組み合わせが新しく、男を惑わせる力が強いという事か?」

「はい」

 なるほど。
 限りなく黒に近い灰色と言う訳だな。
 法に触れない範囲で、余を誑かして寵愛を得ようという魂胆なのだな。
 余を甘く見おって!
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

ぱんだ
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...