逆行悪役令嬢は改心して聖女になる。

克全

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第一章

32話

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 直ぐに驚くべき事が分かりました。
 ムクには、銀狼たちが見るモノ聞くモノが分かるようなのです。
 そして私にも、なんとなくムクが感じたモノが感じられるようなのです。
 もし私に軍師のような才能があれば、銀狼達を手足のように駆使できたでしょう。
 ですが残念ながら、私にそのような才能はありません。

 しかし幸いな事に、四十頭全ての五感を感じられるムクは、野生の狩人です。
 三十頭を上手く勢子役に散開させて獲物を追い込み、五頭二班で止めを刺します。
 次々と鹿や猪を殺し、次の獲物に向かうのです。
 ムクは冒険者としての経験があります。
 魔獣だけでなく、コックスの為の狩猟経験も豊富なのです。

 ムクの指揮を受けた銀狼達は、自分達が褒美に貰う内臓分と、人間に渡す精肉分を考えて狩り続けました。
 銀狼四十頭と人間百人が、数日間飢える事のない肉を得るために獣を狩るのです。
 目先の食欲だけではなく、計画的に狩りを続けました。
 ムクに出会う前の、群れを維持できるかどうかの厳しい状況が嘘のようです。

 ただ少しだけ問題があったのです。
 肉の腐敗です。
 森の中での狩りです。
 まだ私達人間は、領主の許可が出るまでは、街道を離れて森の中に入れません。
 私がそのようなことを考えたら、直ぐにムクに伝わったようです。

 直後にムクから銀狼達に指令が飛びました。
 新たな獲物を追うのを止めて、今までに狩った獣を分けて食べろと。
 飢えていた銀狼達は、直ぐに序列に従って食べ始めました。
 普通は雌雄のボス夫婦から、二番ボス三番ボスと食べるのです。
 ですが今回は、狩って放置していた獣が大小十数頭いるのです。

 脂が乗っていて美味しく、食べ応えのある猪を一番ボス夫婦が食べます。
 銀狼達基準で、次に美味しい猪や鹿が、序列に従って食べられます。
 ただ、美味しい基準もあるのでしょうが、先に食べる基準が優先のようです。
 確かに満足に狩りができない時は、序列の低い狼には獲物が回ってこないそうです。

 今回は十数頭いますから、程々の序列の銀狼は、小さい獣に喰らいついています。
 人間基準で美味しいというだけなら、序列八番が食べている穴熊が一番でしょう。
 ですが銀狼達には、人間には淡白な鹿の方が量的に食べ応えがあるようです。
 ムクを通じてそのような感覚が私に伝わってきます。
 序列二十番以下の銀狼達が、上位がある程度満足したのを感じて、大型獣の背中や脚に喰らいつきます。

 内臓の柔らかさはなく、血の滴る美味しさもなく、脂の乗った腹肉でもありませんが、骨や骨髄だけではありません。
 肉の部分が食べられるのです。
 これで危険を犯して群れを割って縄張りから出なくて済みます。
 そんな序列下位の銀狼の想いが伝わってきました。
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