逆行悪役令嬢は改心して聖女になる。

克全

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第二章

王太子ウィリアム視点

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 まだグレイスへの想いは断ち難いモノがある。
 だが、王太子である以上、個人の感情は押し殺さねばならない。
 だから一応ディランの献策を父王陛下と母上様に伝えた。
 御二人ともすでに内々に献策を受けていたようだ。
 即座に重臣に諮られた。

 シーモア公爵派の重臣には根回しが済んでいたのだろう。
 即座に賛成でまとまった。
 だがラトランド侯爵派と中立派が疑念を呈してきた。
 特にシーモア公爵家に養女に入るという点と、サマンサの実家が男爵家であるという点が問題視された。

「だが、オーウェン卿は宮廷魔導士長として宮中伯に叙せられている。
 男爵ではなく伯爵ではないか!」

 ラトランド侯爵派の非難に対して、シーモア公爵派が反論する。
 全ては想定通りの問答でしかない。
 グレイスの婚約辞退は、ラトランド侯爵派にも青天の霹靂だったのだろう。
 誰だって手に入れた権力を手放すとは考えない。
 まずはグレイスを引き摺り下ろす事だけを考えていたのだろう。

 それがあっさりと婚約を辞退したモノだから、次の候補者の選定が遅れていた。
 家柄だけを考えれば、幾らでも数は揃えられるだろう。
 だが、サマンサに匹敵するほど優秀な者は、高位貴族令嬢の中には一人もいない。
 下位貴族の中には、多少マシな成績の令嬢もいるが、それではサマンサに対抗できない。

「まあ、待ちなさい。
 確かにサマンサ嬢は優秀だ。
 グレイス嬢が婚約を辞退された以上、サマンサ嬢が筆頭候補だと言っていい。
 だがこのような決め方で本当にいいのか?
 王国の将来を考えれば、もっと広く候補者を求めるべきではないのか?」

 ラトランド侯爵が急に演説を始めた。
 少々演技臭さはあるが、重臣と呼ばれる貴族達の耳目集めている。
 さすがに王国を二分する派閥の領袖だ。
 シーモア公爵には及ばないものの、反シーモア公爵の貴族を纏めて、大きく劣るとはいえ、何とか対抗派閥を維持しているだけはある。

「ラトランド侯爵。
 広く候補者を求めるというのはどういう事だ?」

 父王陛下まで興味を惹かれたようだ。
 まあ、魅力を感じる気持ちも分かる。
 今迄の王国政治は、主流となるシーモア公爵家と、それに対抗しようとする貴族家の対立が前提だった。
 広く人材を求め、王国政治に新風を入れる事は間違いではない。

 だが、何事もほどほどが大切だし、シーモア公爵家が王家の藩屏を務めてくれていたので、王家が打倒されたり、国王が弑逆されたりしなかった厳然たる事実がある。
 その前提を崩せば、王家が打倒される事態もあり得るのだ。
 同じ献策をシーモア公爵家が出していたのなら、安心して取り上げる事ができただろう。
 だがラトランド侯爵家が提案してきたなら、大きな警戒が必要になる!
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