ブレイブブレード!~俺は一振りの木刀で世界を変える!もふケモ娘と挑む異世界革命~

狐月 耀藍

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第二部 異世界剣士と屍蝕の魔女

第64話:屍の森に棲む毒遣いの魔女

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 真新しい土饅頭の上に、石をのせる。
 他に何もないのだ。幼い兄妹が立派な墓を建てるなんてことも不可能。
 今できる精一杯が、これだった。

 リィダさんが、まるでお坊さんだか牧師さんだかのように、あの世での夫婦の平穏を祈る言葉をかけていた。デュクスも、エル、イーディの兄妹も、何も言わずに首を垂れている。これが、この世界での死者との訣別けつべつなのだろう。

 実は隣にもう一つ土饅頭があるのは、隣の家の遺体も持ってきたからだ。酷い有様だったけど、二体、折り重なるように倒れていたことがわかった。

 仰向けになるようにして下になっていたのは、着ていた服から隣の家に住んでいた男性だと分かった。
 そして、その男性にすがりつくようにしてうつぶせになっていたもう一つの遺体は、服も着ていなかったけれど、髪の色と長さから、奥さんだと分かった。彼女は下着を口に押し込まれ、腕を後ろ手に縛られた状態で亡くなっていた。

 どちらが先に殺されたのかは分からない。だがいずれにせよ、二人がひどい辱めを受けたことだけは分かる。とても痛ましい姿だった。

 特に奥さんは、動物に食い破られてはいたけれど、お腹から赤ちゃんと思しき遺体も出てきて、余計に胸が締め付けられた。隣同士の夫婦揃って、生まれてくる命を楽しみにしていたに違いないのに。

 土饅頭に石。こんなことくらいしかできないけれど、これが俺たちにできる、精一杯だった。

「ご主人さま、みんな、女神さまのところにいけたとおもう?」

 シェリィが、俺を見上げてくる。

「……そうだな。きっと、いけたよ」
「ボク、がんばっておいのり、したよ? 女神さま、聞いてくれたかな?」
「そうか。……偉いな、シェリィは。きっと届いたよ、その思い」

 頭をぽんぽんとなでると、うれしそうにシェリィは微笑んだ。

 シェリィの言う通り、それぞれの夫婦が今度こそ、幸せな世界で生きることができたら──宗教とか特に信じている訳じゃなかったけど、今だけは、リィダさんの言葉が本当になったらと思う。

「……じゃあ、これから二人とも、どうするのかしらぁ?」

 リィダさんの言葉に、エルはキッパリと、「あの畑を、耕します。父さんと母さんが頑張って拓いた畑だから」と答えた。

「お隣さんはどうする? 別の入植者を募った方が、お前さんたち二人だけよりも心強いだろう」

 デュクスの問いに、エルは毅然と胸を張った。

「ありがとうございます。ただ、とりあえず、僕と妹で頑張ってみます」
「……そうか。ただ、後で村のおさの家に送るからな。今はまだ、お前さんたちだけじゃ、難しいことも多いだろう。色々整えて、それから戻ってこればいい」
「……はい。分かりました。とりあえず、荷物を片付けてきます」

 二人はデュクスに深々と頭を下げ、戻っていく。

「じゃあねぇ」

 リィダさんが二人に手を振った時だった。

「あの……」

 エルが振り返った。

「……プトゥリィダースさま、ですよね?」

 リィダさんの表情が、少し、こわばる。

「わたしは、リィダよぉ?」

 リィダさんは妖艶な笑みを浮かべてみせたけれど、エルは笑顔で続けた。

「父が、母のことで大変お世話になったって。村のヒトはみんな、かばねの森に棲む恐ろしい魔女だって言ってるみたいですけど、僕、父の言葉を信じます。プトゥリィダースさまは、強くて優しい魔女さまだって」

 改めて二人は手を挙げて手のひらをこちらにみせると、大きく頭を下げ、そして森の中に消えていった。

「……さて」

 デュクスが、腰の剣に手をかけながら、リィダさんに向き直る。
 俺は慌てて「デュクス、何してるんだ!」と間に入ったが、デュクスはリィダさんに鋭い眼を向けたままだった。

「どういうつもりだ?」
「あらぁ、ぶっそうねぇ。お話を聞こうという気もないのかしらぁ?」
「いいね、聞かせてもらおうか? 冒涜ぼうとく姦婦かんぷ屍蝕ししょくの魔女──プトゥリィダースさんよ」
「ふふ……可愛い弟子を淫らな魔女に篭絡ろうらくされて、焦っているのかしらぁ?」

 二人が笑みを浮かべながら、けれどどちらも譲らないような様子に、俺は改めてリィダさんの前に立った。

「デュクス、落ち着いてくれよ! リィダさんが何かしたか? むしろ手助けしてくれたじゃないか!」
「カズマ、その女狐はな、べつにオレたちを助けに来たわけじゃない。見ただろう、あのバカでかい『レディアント銀』の結晶を」

 言われて首をかしげて、そしてやっと思い至った。そうだ、あの淡い青色に輝く水晶のようなものは、レディアント銀と呼ばれる不思議な金属の結晶だった。金属が透き通る結晶というのも奇妙に感じるけど、サファイアやルビーは酸化アルミニウムの結晶だし、硫酸銅だって青く透き通る綺麗な結晶だ。そういうものなんだろう。

「それがどうしたってんだ!」
「分からねえのか? あの死体が動きを止めたのは、そいつが何か特別なことをしたからじゃねえ! ただ単に、ヤツを操るように滞留していた魔素マナ錬素オドを、レディアント銀に吸着させただけだ!」

 デュクスがそう言って剣を抜く。シェリィが小さな悲鳴を上げ、けれど俺の左腕にしがみつくようにしながら、デュクスに向き直った。小さな味方を得た気持ちで、俺も木刀を抜く。

「デュクス、それってつまり、あの父親の動きを鎮める、最適解を持ってたってことじゃないか! 俺たちだと、バラバラにして燃やすしか思い浮かばなかっただろ! あの子たちが父親との別れの言葉をかわす時間を作れただけでも、リィダさんの方がずっといい方法を選んだってことになる!」
「カズマ! てめえ、その放蕩ほうとう女にたぶらかされたか!」
「リィダさんはいい人だよ! 俺のことを助けてくれたし、森で静かに暮らしてるだけで、悪い人じゃない!」

 ちら、と背後を見る。
 リィダさんの「研究室」を思い出す。カビとキノコに埋もれた、あの部屋を。
 幸せそうにカビやキノコを眺め、粘菌の動きに心を奪われていた、あの姿を。

「……ちょっとだけ、趣味は変わってるけど!」
「変わってる……だと?」

 デュクスが、髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。

「バカ野郎! そいつは死者を切り刻んで腐らせて弄んだうえ、そこから毒を作り出す、二重の意味の毒婦・・だ! てめえがあの男から喰らった毒も、もともとはおそらくそいつが作ったものだ! でなきゃ、解毒できるはずがない!」

 ベノンといっていたか、あの男が持っていたナイフに塗られていたのが、リィダさんが作った毒だって⁉

 思わず振り返る。
 リィダさんは、何も言わずに微笑を浮かべているだけだった。
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