ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

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第六部 異世界建築士とよろこびのうた

第615話:天気力エネルギーじゃけん!

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「リトリィ、こんなものを作れないか? 中に水を通すんだけど」

 俺は、自分が書いた図面を見せた。細長い鉄パイプを櫛の歯のように縦に並べ、その上部と下部は横向きの鉄パイプに繋がっている構造物。
 屋根などのような斜面に設置し、上のほうにはタンクがあるという代物だ。
 最近の日本の家の屋根といえばソーラー発電パネルばかりだけれど、昔はコレがいっぱいあったらしい。

「……この筒って、火であぶったりするんですか?」
「これはそういうものじゃないから安心してくれ」
「では、筒の太さは、どれくらいのものですか? 筒の肉の厚みは? 筒だけ先に作って、あとからそれを接合すればいいんですか?」

 さすがリトリィ。図面の意図を完璧に汲んでくれたようだ。

「筒は細ければ細いほど、薄ければ薄いほどいいんだけど、リトリィの負担がなるべく少なく、かつ量産できる範囲内でいいよ」
「……むずかしいです、けど……。でも、だんなさまが欲しいっておっしゃるなら、がんばります!」



「というわけで、親方。しばらくの間、工房を貸してくれ」
「なにが『というわけで』だ、いきなりやって来て」

 鉄工ギルドの親方は、俺の左隣で深々と頭を下げたリトリィを見ながら、苦笑いしてみせた。

「また何か、変なものを思いついたのか?」
「上手くできるかどうかは分からないが、試してみたいことがあってね。鋼鉄の細長い筒をたくさん作りたいんだけど、いいかな?」
「細長い筒? 鋼鉄の? なんだ、何に使うんだ?」

 親方は首をかしげたが、二つ返事で許可をくれた。

「なぁに、礼なんぞいらん。あんたが以前、うちで奥さんに作らせた『カラビナ』のこともあるからな」

 親方は、聞きもしないのに上機嫌で続けた。

「知ってるか? あのカラビナ、大工ギルドだけでなく、行商人にも結構売れているんだ。それから、騎士団にもな」
「騎士団?」
「ああ。細々とした装備品を、鎧やら馬の鞍やらに引っ掛けておくのに都合がいいらしいぞ? わしらとしても、ナリクァン商会とこれまでとは違った関係を作ることができたし、まったく、あんたもいいモノを開発してくれたものだ」

 付け外しを面倒がってまったく命綱を付けない現場のありさまを見て、カラビナのようなものを作って、簡単に付け外しができるようになれば、命綱を付けるようになるんじゃないか──そんな思いから、日本の現場でも重宝していたカラビナを、リトリィに頼んで作ってもらったんだ。

 もちろん、形状は俺のうろ覚えだし、そとそも耐荷重性能だって比較のしようがないから、それをカラビナと呼んでしまっていいのかどうかは分からない。
 でも、そのおかげで命綱を付けることに多少は抵抗感がなくなったみたいだから、作って良かったとは思う。

 カラビナの仕様については、対価を一切もらわず、すべてをギルドに開示し、改良も認めるとした。その代わり、改良され形が変わっても、基本仕様が類似している限り権利はこちらにあり、耐久性能が下がる改変は認めないことをしつこいくらいに契約に盛り込んだ。

「そのうえ、カラビナの発注はすべてナリクァン商会を通す、あんたはわしらからカネを取らない代わりに、商会から権利金だけを受け取る。なんとうまい商売を考えたじゃないか」
「誰もが欲しがる必需品というわけではないから、大して儲かってるわけじゃないよ。ひと月分のたきぎ代くらいじゃないかな」

 カラビナのロイヤリティ収入自体は多くはない。けれど、この街で非常に大きな力を持つナリクァン商会から収入を得ることができているのは、大きなポイントだ。
 
「でだ。そのあんたが、また何か思いついたって言うんだろう? だったら、わしらとしても協力するのにやぶさかではない。もちろん、あんたの奥さんにも好きなだけ工房を使ってもらって構わん。そうだな、長物ながものを作るのなら、三番炉か四番炉あたりを使ってくれ。その代わり──」
「上手く言った暁には、カラビナの時のように」
「あんた、よく分かってるじゃないか!」

 親方は上機嫌でうなずいた。
 冗談めかして本当に『というわけで』から言い出したのに、とんとん拍子に話が進んでしまった。やはり、相手に利益をもたらす実績というものは、人を動かすチカラがある。

 以前は、工房の隅っこを借りるようにしてやっと使わせてもらえていたというのに。それも、「ジルンディールの弟子」という肩書しか認められず、鉄工ギルド所属の「職人」になることも認めてもらえずに。



「だんなさま、ありがとうございます」

 鉄工ギルドの工房からの帰り道の橋の上で、リトリィが頭を下げた。

「おかげさまで、堂々と工房を使わせてもらえそうです。三番、四番の炉のお部屋って、けっこう大きくて、設備も整っていますから、だんなさまへの信頼がどれほど厚いかが分かりました」

 その透き通るような青紫の瞳がきらきらと輝き、彼女の背後ではふっかふかの長いしっぽがばっさばっさと振られている。

「違う違う。俺の背後にいるナリクァン夫人の威光に決まってるだろう?」
「そんなことありません!」

 リトリィはまっすぐ俺を見て言った。

「だんなさまのお考えはきっといいものだって、クロム親方が認めてくださっているってことですよ。リトリィはそんなだんなさまに見初めていただけて、妻として、いち職人として幸せです!」

 ……いや、うれしいよ? 君にそこまで言ってもらえることは。
 でも、ここ、橋の上で、けっこう人の往来があるんだけど。
 そして橋の上ってことで、路地の裏に入るとかそーいう逃げ道がないんだけど。
 だから、うれしいけど、周りの通行人がこちらを遠巻きに見ながら歩いてるのを見ると、なんともうれしはずかしといった気分!

「でも、お日さまの力で本当にお湯がわくんでしょうか?」
「ああ、それは間違いない。天気てんきりょくエネルギーの、ソーラーパワーってやつさ」

 リトリィの問いに、俺は自信満々に答える。リトリィは笑顔のまま首をかしげていたけれど。
 実は、太陽熱で熱くなった鉄骨でリノの可愛らしいおしりがひどい目に遭ったのを見て、思いついたことがあったのだ。
 それは、太陽熱を、水の加熱に使うということ。

 実は、家を建てる時に「ソーラー発電パネルを屋根に乗せたい」という要望ではなく、「太陽熱温水器を載せたいが」という質問を受けたことがあるのだ。

 どうも俺が生まれる前には、ソーラー発電パネルではなく、水を温める温水器ってのが有名だったらしい。「天気てんきりょくエネルギーの〇〇〇ソーラーじゃけん!」とかいうCMがあったそうで、そのお客さん曰く、昔はどこの家もそれを屋根に乗せていたそうだ。

 水の過熱には太陽光線を利用し、水の循環は温度上昇による自然循環。恐るべきことに、その加熱と保温に関して一切電力などを使わないんだそうだ。それを聞いた時は、「エコキュートなんていらないんじゃないか」と真剣に思ったくらいだった。

 なんでそんな便利なものが廃れてしまったのかは知らないが、電気なんてないこの世界には、このシステムが絶対に使えるはずだ。
 なんと言っても、湯を沸かすのにたきぎがいらない! 一度沸いてしまえば、保温材でタンクをしっかり包んでおけば、朝までいつでも温かい湯が使える可能性がある!
 これは絶対に、世の奥様方への強烈なアピールポイントになるはずだ。

 もちろん、屋根に乗せる以上、屋根がタンクの水+温水パイプシステムによる数百キロという重量に耐えるだけの補強が必要になるだろう。その分、家の施工費用は増えるが、湯を沸かすのにたきぎ代が不要だというのは大きい。

「……屋根の上、ですか? お水は、どうやって運ぶんですか?」
「一応考えてはいるけれど、どうしても屋根まで水を汲み上げるのが難しければ、庭にでも置けば済む話だ。要は、太陽の光がよく当たる場所に設置できたらそれでいいんだから」

 時間帯によって影に隠れるような場所では意味がないけれど、幸い我が家には広い庭がある。問題ない。

「だんなさまって、ほんとうにすごいです!」

 飛びつかれて、もう少しで欄干らんかんを乗り越えて川に転落するところだった。

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