ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
685 / 785
第六部 異世界建築士とよろこびのうた

第650話:贈られた色にちなんで

しおりを挟む
「ありがとう、フェルミ。愛している」

 元気に泣く娘は、赤い体に白くぬるりとしたものをまとうようにしている。
 基本的には、マイセルが産んだ「ヒト」の赤ん坊と大差ない。

 けれど、厳密には違う。
 紺のメッシュのようなものが入った青の髪に、三角の耳。おしりには、先端が白くてあとは青と紺と黒が交じり合ったマーブル状の毛に包まれた、しなやかなしっぽ。
 フェルミの髪の色が青だから不思議な混じり方をしているけれど、俺の黒い髪の要素が混じった結果なのかもしれない。

 色を除けば、まさに猫を思わせるパーツ。確かに娘は、獣人族ベスティリングだった。

「……ムラタさん。耳。ほら、耳が……。しっぽも……」
「ああ。こんなに小さいけど、猫属人カーツェリングの耳としっぽがある。可愛いな」

 俺がうなずきながらなでると、ぴくりと耳が動いた。うん、可愛い。

「ムラタさん、この子の耳……三角の耳です。ちゃんとしっぽもある……。よかった、本当によかった……!」

 ぼろぼろと涙をこぼし始めたフェルミに驚いたが、彼女の言葉で、すぐに納得できた。

「私、こんなだから……。ずっと、ずっと、怖かったんです。もしも、しっぽがなかったら……耳の欠けた子が生まれてきたらって……!」

 少女の頃、生まれ故郷が国境紛争に巻き込まれ、その際、性器が裂けるほど苛烈な辱めを受けたフェルミ。それだけでなく、しっぽを切り落とされ耳をひどい形に刻まれ、乳首を削がれた。女として、獣人娘としての魅力の全てを破壊された彼女は、ずっと女であることを隠し、ヒトの男として生きてきた。

 彼女はきっと、口にしないだけで、ずっと恐れてきたんだ。自分がそんな姿だから、赤ん坊に悪い影響がないかと。
 二十一世紀の日本から来た俺にしてみれば、彼女の耳もしっぽも、先天性異常でなく外傷によるものなのだから、生まれてくる子供に影響などあるはずがないと分かる。でもフェルミには、そんな知識はないだろうから、ずっとずっと、不安を抱えてきたんだろう。

 こういったものは、理屈では割り切れないものなのかもしれない。二十一世紀の日本だって、色々な迷信や陰謀論があって、それに振り回される人々がいっぱいいたのだし、俺だって受験の頃には神頼みをしていた。

「俺とお前の子なんだ、当たり前だろ?」

 あえて、そう笑ってやる。俺とほぼ同じ歳のフェルミにとって、これが最初で最後の子かもしれない。だからこそ、俺は笑顔で二人を抱きしめた。

 ……と、三人の世界に浸っていたときだった。
 後ろから襟首をつかまれて引っ張られた。

「お産が済んで頭の中身がお花畑なのはわかるんだけどね? こっちはとっくに産湯の準備ができてるんだよ。ほら、こっちにお寄こし」

 ヒョウ柄オバチャンの声がして振り向くと、オバチャンが「邪魔だ早くしろ」と言わんばかりに両手を差し出していた。

「あ、ああ、すまない……」
「すまないじゃないよ、この唐変木」

 オバチャンは面倒くさそうに俺を押しのけると、コロッと笑顔になってフェルミから赤ん坊を受け取った。

「いい泣き声だね。奥さん、よく頑張ったじゃないか」

 そう言うと、湯を張ったたらいに娘を入れて洗い始めた。さすがオバチャン、慣れた手つきが頼もしい。

「ほーら、気持ちいいねえ」

 相変わらず元気に泣き続ける娘を洗いながら、ヒョウ柄オバチャンは俺に向かって笑いかけた。

「あんた、この湯を沸かすカラクリを作ったんだって? なかなかいいあんばいだよ、こりゃ。アタシのうちにも作ってくれないかねえ?」
「予算と規模にもよりますが、ご依頼いただければ、いつでも伺いますよ?」
「なんだい、タダじゃないのかい」

 オバチャンは笑いながら娘を湯から上げ、大きな布でくるむと、フェルミのそばに置いてあった藤籠の中に、そっと入れてくれた。

「んじゃ、女房の出産を見届けた変わり者さん。もうアンタにゃ言うことはないよ、末永く幸せにしてやんな」

 ヒョウ柄オバチャンは、そう言って部屋を出て行った。



 生まれたばかりの赤ん坊を囲んで、みんなはわいわいと興奮気味だった。
 やはり話題に上るのは、その髪の色と、耳と、しっぽ。マイセルのときには無かったこの特徴には、やはりみんな、興味津々といった様子だ。

「ちっちゃい耳だよなー! こんなんで聞こえるのかな?」

 ヒッグスが耳をつつくと、ニューもしっぽをつつく。

「ねえねえ、兄ちゃん。見てみなよ。しっぽ、不思議な色してるなー! フェルミ姉ちゃんの髪の色に似てるけど、姉ちゃんの髪と違って、濃かったり薄かったりしててなんかキレイだ」

 フェルミの青い毛色と俺の黒い髪の色が入り混じっているのだろうか。なんとも不思議な色合いに、チビたちは興味津々だった。

「だんなさま、ボクとだんなさまで赤ちゃんできたら、この子みたいに色が混じるのかな?」

 そうかもしれないが、リノ。そーいう爆弾発言を唐突にしないでもらえるとありがたいのですが。
 ほら、リトリィがものすごい勢いでこっちに振り向いたよ。ステイ。リトリィ、ステイです落ち着いて。俺は誓って潔白です、リノも清い体ですとも。
 


 名前には、これまた難渋した。
 やっぱり名前はみんなの意見を取り入れたい、という俺の提案は、まさに「船頭多くして船、山に上る」状態だった。

 ただ、これだけは入れたい、というフェルミの願いは尊重することにした。
 それが、スィー。緑、という意味だが、ある宝石の名前でもあるらしい。その宝石は神秘的な緑色で、持ち主を災難から守り、幸運を授けてくれるのだという。

 生まれた二日後の朝、俺たちが朝食の準備をしていたとき、気が付いたらじーっとこっちを見ていたんだ。マイセルの子シシィは一週間ほどで目を開けたから、もう目を開けるようになったのかと驚いたんだけど、その瞳の色が、目も覚めるような、綺麗な淡い緑色だったんだ。

「私も緑なんスよ?」

 フェルミはそう言って笑うが、フェルミの方は青みの強い緑だから、この淡い緑色には、また違った魅力を感じた。しかも、赤ん坊の瞳ってものすごく綺麗なんだよ。フェルミが、宝石の名前を入れたい、というのも分かる気がした。

「私とご主人さまの色とが、交じり合ったんでしょうか。不思議な柄ですけど、この子がきっと、欲しがった色なんでしょうね」

 そう言ってもらえると、なんだかくすぐったい。不思議なマーブル状の柄は、つまり俺とフェルミがこの子に贈った、最初の宝物なのかもしれない。

 だから、色々なアイデアが出そろい、取捨選択したあと、スィーに「気高い・気品のある」の意味を持つ「ヒ」をつけて、名前が決定した。
 「高貴なヒ・翠珠のスィー・幸運とクゥー・慈悲をエイ・得る者ルゥ」──ヒスイクエイルゥ。それが、フェルミとの子の名となった。

 愛称はほぼ満場一致でエイルゥになるところだったけど、俺が強引に「ヒスイ」とした。翡翠ヒスイだ。その淡い緑の瞳、フェルミが付けたかった「スィー」、そして偶然だけど日本語と重なる発音と分かったから、そっちに寄せたかったんだ。

 「なんか言いにくい」などとヒッグスをはじめチビたちは不満げだったし、母親たるフェルミもちょっとひきつった顔をしていた。けれど本来、子供の命名権はそもそも父親にしかないというのがこの地方の風習なのだから、命名に家族全員を関わらせているだけでもずいぶんと民主的なんだぞ!
 というわけで、俺の二人目の娘はヒスイクエイルゥ、愛称「ヒスイ」ちゃんとなった。

「ヒスイーっ! 改めましておとーさんだよーっ!」

 名を呼びながら藤籠から抱き上げたら、むっちゃくちゃ泣かれて、フェルミに取り上げられてしまった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界カフェ食堂で皿洗いをしますと思ったら日本料理を創造する力が与えられていた!(もふもふ聖獣猫のモフにゃーと楽しく日本料理を創造します)

なかじまあゆこ
ファンタジー
可愛いもふもふ達とアリナは異世界でスローライフをします。 異世界召喚された安莉奈は幼女の姿になっていた。神様に与えられた能力を使い眷属聖獣猫モフにゃーや魔獣のライオン魔獣鳥に魔獣の日焼けとお料理を創造します! 熊元安莉奈(くまもとありな)は黄色のバスに乗せられ異世界召喚された。 そして、なぜだか幼女の姿になっていた。しかも、日本の地球人だったことを忘れていたのだ。 優しいモリーナ夫妻に養子として引き取れた安莉奈はアリナになった。 モリーナ夫妻はカフェ食堂を経営していたが繁盛しておらず貧乏だった。料理が出来ないアリナはお皿洗いなどのお手伝いを小さな体ながらしていたのだけど。 神様から日本料理を創造する力が与えられていた! その力を使うと。 地球では辛い生活を送っていた安莉奈が異世界ではアリナとしてお父さんに激愛され幸せに生きている。 エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...