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第三章「ハイラント王国の危機」
第二十七話:王都決戦
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魔王アンデッドゾーラによる王都襲来を前にして、金持ちや上流階級が続々とコネを頼って王城に集まってきている。
王都にいては危険であり、王の周りだけが安全だという噂が流れていた。
高台に立っている大きな王城は、騎士団が守りを固めており避難を求める一般市民の立ち入りは禁止されていた。
「頼む、入れてくれ! 小さい子供がいるんだ!」
「ダメだ! 王国関係者以外の立ち入りは許されん!」
より詳しく魔王の対処法があると知らされている神殿やギルドの上層部は、ガイアス王の近くこそ一番安全だと家族まで連れて王城の最上階、謁見の間に集結している。
ガイアス王の周りには閣僚も全員が揃い、ハイラント王国の首脳会議の様相を呈していた。
玉座に座っているガイアス王のもとには、官僚から様々な報告が上がってきていた。
その中に一つ、妙な連絡がある。
「ガンプ? 誰だ」
王の側近である国務大臣が、「あの勇者パーティーのメンバーだった」と耳打ちする。
「ああ、思い出した。あの卑怯者のクズか」
どうしようもない男だったと、ガイアス王の記憶の片隅にかろうじて残っていた。
その利用価値すらないクズがどうしたのか。
「自分に任せてくれるなら、魔王を封じ込めて王都の民を救えると申しております」
「ふざけるな! 無能の勇者パーティーから追放されたゴミふぜいが、ふざけるのもいい加減にせよ! そうかあの卑怯者めは、余を騙すつもりか!」
今は、いちいち雑魚に関わってる暇はないが、不届き者は成敗せねばならぬ。
「いかがいたしましょう」
「不愉快だ。事が終わった後に、処刑するリストに入れておけ!」
「承知いたしました。ゴミの始末は綺麗にいたします」
処刑せよと命じておいて、ガンプのことなどもうガイアス王は忘れている。
エリザベート姫と勇者パーティーですら切り捨てようとしている時に、それに追われていた元メンバーなどガイアス王が相手にするはずもなかった。
後から見ればガンプに謝罪し、助力を乞うのがガイアス王が救われる唯一の道だったのだが……。
その可能性は、閉ざされた。
そして、王位継承者となったマクスウェル王太子が悠々とマントを翻してやってくる。
「おお、来たかマクスウェル」
「父上、魔王を迎え撃つ準備が整いました。おい、筆頭王宮魔術師ベーコン。父上に説明せよ」
筆頭王宮魔術師ベーコンは、ガイアス王を謁見の間の前にあるバルコニーへと誘う。
「これをご覧ください」
「おお、見事なものだな」
見晴らしのいい王城のバルコニーからは、複雑な魔法陣が描かれた中庭が見える。
そこでは、神殿の神官団や導師級以上の魔術師が三百人も集められており、全員が一つの術式を完成させるために呪文を唱え続けている。
導師級以上と言っても、魔術師ギルドから冷遇されている呪術師のマッド爺さんなどは参加していない。
あくまで、この超大魔法を手動する筆頭王宮魔術師ベーコンのように、ハイラント王国が認める正統派のエリート魔術師のみによる儀式であった。
「魔王を倒すために使うのは、古代魔法文明により禁呪とされていた超大魔法隕石落としです」
「ほう、それはどの程度の威力なのだ」
筆頭王宮魔術師ベーコンは、古文書を示しながら言う。
「天空からの流星の落下により、半径百メートルのものは跡形もなく消滅いたします」
「それはまことか、そんなものをこの王都で使ってこの王城は大丈夫なのか」
ガイアス王の心配に、ベーコンはニヤリと笑う。
「同時に強大な防御魔法を展開しますので、万が一にも王都に隕石の破片などは飛んできません」
「なるほど、当然の対処だな」
ベーコンに代わり、マクスウェル王太子が確認するように言う。
「作戦では、王都そのものを囮として魔王をおびき寄せます。王都の被害は甚大なものとなりますが、よろしいですか」
「もちろんだ。王都の街は、同盟諸国からせしめる援助物資で建て直せば良い。草民などは、いくらでも生えてくるしな」
そこに、騎士団長アインがまた割って入る。
「陛下! お待ち下さい!」
「またお前か」
「王都でそのような恐ろしい破壊魔法を使うなどありえません! せめて、無人の荒野で使ってください!」
それに、マクスウェル王太子が言う。
「アイン、時間切れだ。見てみろ、もう魔王がそこまで来ている」
高台に立つ城からは、魔王アンデッドゾーラの巨体がやってくるのがよく見えた。
「今そのメテオなんとかを使えば、王都の民を救えるのではないか。なぜあえて犠牲の増える道を選ぼうとする!」
わかってないなと、マクスウェル王太子は言う。
「これだけの数の神官や魔術師がマナを集めて、一度しか使えぬ超大魔法なのだ」
失敗は許されない。
だから、王都の中央に魔王を引き付けて確実に潰すのだ。
逃げ惑う王都の民は、魔王を引き付ける良い囮となってくれるだろう。
「陛下、この王城にも助けを求める市民が集まってきてます。どうか、せめて避難誘導だけでもさせてください」
ガイアス王は、思いついたようにぽんと手を叩いて言う。
「アイン。避難誘導を許す」
「本当ですか! では今すぐ、騎士団の手勢で逃げ遅れた市民を街の外へと逃します! 失礼いたします、急がなくては!」
一人でも多くの民を避難させるために。
アインは、慌てた様子で謁見の間を出ていった。
マクスウェル王太子は、ガイアス王に尋ねる。
「よろしいのですか。今更、王都に行っても死ぬだけでは?」
「騎士団長アインの娘は、たしか勇者パーティーの女騎士だったと思い出してな。あれが王国騎士を束ねている現状はよろしくないであろう」
「なるほど」
今のうちに、邪魔になりそうなアインを排除しておくという配慮か。
「やはり、策謀においても私はまだまだ父上にはおよびません」
「何を言うか。古代魔法文明の禁呪を使うなど、よく思いついたものだ」
「それも、父上が研究予算を割いてくださったからです」
ガイアス王は、打倒魔王を名目に同盟諸国から確保した援助金を半分ずつ長女のエリザベートと、長男のマクスウェルにわけたのだ。
エリザベートは、近衛騎士団や勇者パーティーの育成にその予算を使って失敗した。
マクスウェルは、その金を研究費として筆頭王宮魔術師ベーコンに授けたのだ。
そして魔術師ギルドを牛耳るベーコンは、エリート魔術師や神殿上層部の神官団などと協力して、その金で古代魔法文明の禁呪の再現に成功したのだ。
勇者などというものを信じず、次の手を考えておいたのは正解だったなとガイアス王はほくそ笑む。
勇者パーティーどころか、自分の王位を継ぐ子供ですら、ガイアス王にとっては権勢を振るうための道具でしかない。
道具が使い物にならなくなったら、捨てるだけだ。
「しかし、超大魔法隕石落としか。これほどの威力の魔法があるなら、魔王との戦いだけに使うのは惜しい」
もし上手く使えば、世界征服すら可能ではないかとガイアス王は考えてしまう。
それに、筆頭王宮魔術師ベーコンが口を挟む。
「陛下、差し出がましいようですが・、古代魔法文明は、この隕石落としの応酬によって都市が軒並み破壊されて滅びたと伝わっています」
「なるほど、他国に渡れば危険な力なのだな。それゆえに禁呪か」
封印されていたのも、うなずける。
こんな魔法技術が他国に渡ったら終わりだ。
そこに、マクスウェル王太子が提案する。
「魔王や上位魔族の討伐のみに使用して良いという条約を結べばどうでしょうか。魔王と戦っている主要な国家は、このハイラント王国のみです」
「なるほど、みなまで言わずと良い。この魔法は我が国が独占する。そして、魔王を超える力を見せつけるだけで、同盟諸国を支配できるというのだな」
外交によって同盟諸国を服従させれば、実質世界を制したと同じことだ。
「見せしめは必要でしょう。我が国の意向に逆らう小国あたりを、魔王に与するものとして成敗するのはいかがでしょう」
「フッフッフ、考えておこう。マクスウェル、筆頭魔術師ベーコン。我らが野望の第一歩だ、まずはあの魔王アンデッドゾーラを見事討ち取ってみせい」
「ハハッ!」「必ずや!」
筆頭魔術師ベーコンは、マクスウェル王太子とともにガイアス王にひれ伏しながら、これで自分の将来は安泰だなと考えていた。
ベーコンの教え子でもあるエリザベート姫には悪いことをしたが……。
「姫様、自身も魔術師でありながら偉大なる私に研究費をよこさず、あんな愚にもつかぬ騎士団や勇者パーティーなどに金を使うから悪いのですよ」
その点、ベーコンが頼ったマクスウェル王太子は話のわかるお方だった。
勇者の伝承などという迷信に問わられず、物理的な破壊能力を極限まで高めた超大魔法にこそ未来があると唱えるベーコンの説を信じてくださった。
偉大なる王太子と、自らの栄達のために。
ベーコンは、長年研究してきた超大魔法隕石落としの発射準備に入るのだった。
王都にいては危険であり、王の周りだけが安全だという噂が流れていた。
高台に立っている大きな王城は、騎士団が守りを固めており避難を求める一般市民の立ち入りは禁止されていた。
「頼む、入れてくれ! 小さい子供がいるんだ!」
「ダメだ! 王国関係者以外の立ち入りは許されん!」
より詳しく魔王の対処法があると知らされている神殿やギルドの上層部は、ガイアス王の近くこそ一番安全だと家族まで連れて王城の最上階、謁見の間に集結している。
ガイアス王の周りには閣僚も全員が揃い、ハイラント王国の首脳会議の様相を呈していた。
玉座に座っているガイアス王のもとには、官僚から様々な報告が上がってきていた。
その中に一つ、妙な連絡がある。
「ガンプ? 誰だ」
王の側近である国務大臣が、「あの勇者パーティーのメンバーだった」と耳打ちする。
「ああ、思い出した。あの卑怯者のクズか」
どうしようもない男だったと、ガイアス王の記憶の片隅にかろうじて残っていた。
その利用価値すらないクズがどうしたのか。
「自分に任せてくれるなら、魔王を封じ込めて王都の民を救えると申しております」
「ふざけるな! 無能の勇者パーティーから追放されたゴミふぜいが、ふざけるのもいい加減にせよ! そうかあの卑怯者めは、余を騙すつもりか!」
今は、いちいち雑魚に関わってる暇はないが、不届き者は成敗せねばならぬ。
「いかがいたしましょう」
「不愉快だ。事が終わった後に、処刑するリストに入れておけ!」
「承知いたしました。ゴミの始末は綺麗にいたします」
処刑せよと命じておいて、ガンプのことなどもうガイアス王は忘れている。
エリザベート姫と勇者パーティーですら切り捨てようとしている時に、それに追われていた元メンバーなどガイアス王が相手にするはずもなかった。
後から見ればガンプに謝罪し、助力を乞うのがガイアス王が救われる唯一の道だったのだが……。
その可能性は、閉ざされた。
そして、王位継承者となったマクスウェル王太子が悠々とマントを翻してやってくる。
「おお、来たかマクスウェル」
「父上、魔王を迎え撃つ準備が整いました。おい、筆頭王宮魔術師ベーコン。父上に説明せよ」
筆頭王宮魔術師ベーコンは、ガイアス王を謁見の間の前にあるバルコニーへと誘う。
「これをご覧ください」
「おお、見事なものだな」
見晴らしのいい王城のバルコニーからは、複雑な魔法陣が描かれた中庭が見える。
そこでは、神殿の神官団や導師級以上の魔術師が三百人も集められており、全員が一つの術式を完成させるために呪文を唱え続けている。
導師級以上と言っても、魔術師ギルドから冷遇されている呪術師のマッド爺さんなどは参加していない。
あくまで、この超大魔法を手動する筆頭王宮魔術師ベーコンのように、ハイラント王国が認める正統派のエリート魔術師のみによる儀式であった。
「魔王を倒すために使うのは、古代魔法文明により禁呪とされていた超大魔法隕石落としです」
「ほう、それはどの程度の威力なのだ」
筆頭王宮魔術師ベーコンは、古文書を示しながら言う。
「天空からの流星の落下により、半径百メートルのものは跡形もなく消滅いたします」
「それはまことか、そんなものをこの王都で使ってこの王城は大丈夫なのか」
ガイアス王の心配に、ベーコンはニヤリと笑う。
「同時に強大な防御魔法を展開しますので、万が一にも王都に隕石の破片などは飛んできません」
「なるほど、当然の対処だな」
ベーコンに代わり、マクスウェル王太子が確認するように言う。
「作戦では、王都そのものを囮として魔王をおびき寄せます。王都の被害は甚大なものとなりますが、よろしいですか」
「もちろんだ。王都の街は、同盟諸国からせしめる援助物資で建て直せば良い。草民などは、いくらでも生えてくるしな」
そこに、騎士団長アインがまた割って入る。
「陛下! お待ち下さい!」
「またお前か」
「王都でそのような恐ろしい破壊魔法を使うなどありえません! せめて、無人の荒野で使ってください!」
それに、マクスウェル王太子が言う。
「アイン、時間切れだ。見てみろ、もう魔王がそこまで来ている」
高台に立つ城からは、魔王アンデッドゾーラの巨体がやってくるのがよく見えた。
「今そのメテオなんとかを使えば、王都の民を救えるのではないか。なぜあえて犠牲の増える道を選ぼうとする!」
わかってないなと、マクスウェル王太子は言う。
「これだけの数の神官や魔術師がマナを集めて、一度しか使えぬ超大魔法なのだ」
失敗は許されない。
だから、王都の中央に魔王を引き付けて確実に潰すのだ。
逃げ惑う王都の民は、魔王を引き付ける良い囮となってくれるだろう。
「陛下、この王城にも助けを求める市民が集まってきてます。どうか、せめて避難誘導だけでもさせてください」
ガイアス王は、思いついたようにぽんと手を叩いて言う。
「アイン。避難誘導を許す」
「本当ですか! では今すぐ、騎士団の手勢で逃げ遅れた市民を街の外へと逃します! 失礼いたします、急がなくては!」
一人でも多くの民を避難させるために。
アインは、慌てた様子で謁見の間を出ていった。
マクスウェル王太子は、ガイアス王に尋ねる。
「よろしいのですか。今更、王都に行っても死ぬだけでは?」
「騎士団長アインの娘は、たしか勇者パーティーの女騎士だったと思い出してな。あれが王国騎士を束ねている現状はよろしくないであろう」
「なるほど」
今のうちに、邪魔になりそうなアインを排除しておくという配慮か。
「やはり、策謀においても私はまだまだ父上にはおよびません」
「何を言うか。古代魔法文明の禁呪を使うなど、よく思いついたものだ」
「それも、父上が研究予算を割いてくださったからです」
ガイアス王は、打倒魔王を名目に同盟諸国から確保した援助金を半分ずつ長女のエリザベートと、長男のマクスウェルにわけたのだ。
エリザベートは、近衛騎士団や勇者パーティーの育成にその予算を使って失敗した。
マクスウェルは、その金を研究費として筆頭王宮魔術師ベーコンに授けたのだ。
そして魔術師ギルドを牛耳るベーコンは、エリート魔術師や神殿上層部の神官団などと協力して、その金で古代魔法文明の禁呪の再現に成功したのだ。
勇者などというものを信じず、次の手を考えておいたのは正解だったなとガイアス王はほくそ笑む。
勇者パーティーどころか、自分の王位を継ぐ子供ですら、ガイアス王にとっては権勢を振るうための道具でしかない。
道具が使い物にならなくなったら、捨てるだけだ。
「しかし、超大魔法隕石落としか。これほどの威力の魔法があるなら、魔王との戦いだけに使うのは惜しい」
もし上手く使えば、世界征服すら可能ではないかとガイアス王は考えてしまう。
それに、筆頭王宮魔術師ベーコンが口を挟む。
「陛下、差し出がましいようですが・、古代魔法文明は、この隕石落としの応酬によって都市が軒並み破壊されて滅びたと伝わっています」
「なるほど、他国に渡れば危険な力なのだな。それゆえに禁呪か」
封印されていたのも、うなずける。
こんな魔法技術が他国に渡ったら終わりだ。
そこに、マクスウェル王太子が提案する。
「魔王や上位魔族の討伐のみに使用して良いという条約を結べばどうでしょうか。魔王と戦っている主要な国家は、このハイラント王国のみです」
「なるほど、みなまで言わずと良い。この魔法は我が国が独占する。そして、魔王を超える力を見せつけるだけで、同盟諸国を支配できるというのだな」
外交によって同盟諸国を服従させれば、実質世界を制したと同じことだ。
「見せしめは必要でしょう。我が国の意向に逆らう小国あたりを、魔王に与するものとして成敗するのはいかがでしょう」
「フッフッフ、考えておこう。マクスウェル、筆頭魔術師ベーコン。我らが野望の第一歩だ、まずはあの魔王アンデッドゾーラを見事討ち取ってみせい」
「ハハッ!」「必ずや!」
筆頭魔術師ベーコンは、マクスウェル王太子とともにガイアス王にひれ伏しながら、これで自分の将来は安泰だなと考えていた。
ベーコンの教え子でもあるエリザベート姫には悪いことをしたが……。
「姫様、自身も魔術師でありながら偉大なる私に研究費をよこさず、あんな愚にもつかぬ騎士団や勇者パーティーなどに金を使うから悪いのですよ」
その点、ベーコンが頼ったマクスウェル王太子は話のわかるお方だった。
勇者の伝承などという迷信に問わられず、物理的な破壊能力を極限まで高めた超大魔法にこそ未来があると唱えるベーコンの説を信じてくださった。
偉大なる王太子と、自らの栄達のために。
ベーコンは、長年研究してきた超大魔法隕石落としの発射準備に入るのだった。
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