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本編
私はバネッサ
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「バネッサ!どういう事…?」
暫く経ったある日、スティーブンが教室までやって来た。
(今日は私のところに来たのね…)
「スティーブン、どうしたの…?」
「家から手紙が届いたんだよ。僕達の婚約が破棄されたって。しかも、僕の不貞が原因だって。勘当するって書いてあったんだ!どういう事か知ってる…?」
聞き耳を立てていたクラスメイトがざわついた。
(こんな人前で言わなくてもいいのに…馬鹿な人…)
「そのままの意味よ?この婚約は、あなたの不貞で、破棄されたの」
「毎日のように一緒にいたじゃないか!みんなだって知ってる!僕に不貞できる時間すらない事を、君自身が知ってるじゃないか!」
スティーブンが大きな声で叫んだ。
「それは本当に私なの…?」
「え…?何を言ってるの?当たり前じゃないか。君以外に誰がいるって言うんだよ…?」
(スティーブン、あなたは知ってるはずだわ。ケリーを見て、よく見ないと間違うって言っていたもの)
「いえ、止めましょう。私達の婚約は既に破棄されているの。話す事もないわ。授業が始まるから、教室に戻って」
「……授業が終わったら来るから」
昼食の時間になってもスティーブンは来なかった。
(ケリーのバネッサにでも会ってるんでしょうね。クラスメイトならまだしも、何年も一緒にいるスティーブンがわからないなんて…。傷付くわよね…)
翌日の朝、またスティーブンが教室に来た。
「バネッサ、どういう事?君は昨日の朝、婚約は破棄されたと冷たく言ったよね。でも、昼食の時間は今まで通りの可愛い君だった。僕は混乱してるよ…」
「そうね…今日の昼食は何処で食べるのかしら?そこで証明するわ」
「昨日約束しただろう?中庭のベンチだよ」
「わかったわ。では、その時に」
そして昼食の時間が始まって少ししてから、私は中庭に向かった。
そこには仲良く昼食を食べるスティーブンとバネッサ…いえ、ケリーの姿があった。
私は近くまで歩いて行き、声をかけた。
「スティーブン…」
「え…?うゎ!なんで…?なんでバネッサが二人…?」
私の声で顔を見上げたスティーブンが、驚いて飛び上がった。
「そういう事よ。その子はケリー。ねぇ、そうでしょう?」
ケリーは何も答えなかった。
「スティーブン、あなたが今年に入ってからずっとご飯を一緒に食べていたのはその子。放課後に会っていたのもその子」
固まったまま動かないスティーブンを一瞥して、私は続けた。
「去年に楽しく話していたのもその子。口づけをしたのもその子。私じゃないの。ねぇ、これでも不貞してないって言える…?」
「そんな!僕はこの女に騙されただけじゃないか!気付いたのなら、教えてくれれば良かっただろう?それなのに僕だけを責められても、納得がいかないよ!」
スティーブンは私に反論した。
「そうよね…私も最初は気付かなかったの。ただ、私の知らない話をしてるなって違和感があっただけ。でもね、スティーブン。あなたのお父様は気付いてくれたわ」
「どういう事…?」
「不貞の証拠がないもの。私のお父様が、あなたのお父様と一緒に学園を覗きに来たのよ。あなたのお父様は、私とケリーの違いに気付いてくれたし、どちらが私かも気付いてくれたの。あなたの方が私と一緒にいた時間が長いのにね…」
「そんな…」「でも…」と、言葉を探しているスティーブンに私は言った。
「そんな事はどうでもいいの。私はね、あなたがケリーと私を間違えても、許せたの。でもね、あなたがケリーと一緒にいる方が楽しいって言った事が悲しくて、あなたが私にケリーを求めた事が許せなかったの。それならケリーと婚約すれば良いじゃないって、そう思ってしまったのよ」
「待ってくれ!僕はこんな女よりもバネッサが好きなんだ!」
スティーブンの言葉に、今まで黙っていたケリーが反論した。
「ちょっと!どういう事よ!いつものバネッサよりも私の方が良いって、何回も言ってたじゃない!私の事可愛いねって言って、キスしてくれたじゃない!」
「あれは君がバネッサだと思ったからだよ。君に言ったわけじゃない」
「信じられない!私の初めてだってあげたのに!」
(!!!)
みんな聞き耳を立てていたのだろう。一瞬ざわついたが、すぐに静かになり、誰もが次の発言を待っていた。
「はぁ…スティーブン、あなたがその子を選んだの。あなたも言っていたでしょう?性格が違うって…違う人なんだもの、同じはずないじゃない。でも、あなたがケリーを選んだのよ。私にもケリーのようになれって、そう求めたの…」
顔を青くして崩れ落ちたスティーブンにそう言って、私は教室に戻った。
それからスティーブンとケリーは学院を辞めた。
スティーブンは勘当はされなかったけれど、学院中の噂になってしまったので学院を去った。
日雇いの仕事をしているとか、リード家で下働きをしているとか、色々な噂があるけど、本当のところはわからない。
ケリーは現実世界では生きていけない人達が入る施設へと送られた。二度と出てくる事は無い。
退学して暫くはブラウン家にいたのだけれど、ミラー家に忍び込んで、私の両親を「お父様!お母様!」と呼んで、ミラー家でも私になろうとしたらしい。
「ケリーが楽しそうにしていたから、注意できなかったんだ。すまなかった…」
そう言って謝罪をするブラウン男爵にお父様が激怒して、不貞の慰謝料請求に加えて、保護責任能力を追求する賠償金を請求した。
そしてブラウン家は隣町に帰っていった。
お父様が代理で治めるこの街に居辛く、また、男爵家の財産も使い切ってしまったんだろう。
ケリーは、私の真似をしているつもりはないと思っていた。
「ブレスレットは自分で選んだ」
そう言ったケリーの目は嘘をついているようには見えなかった。
だけど、学園では私に成り切っていた。ケリーは自分をバネッサと呼ばれて、どう思ったのだろう。何がしたかったのだろう。
幼い頃から、私を姉のように慕ってくれていたケリー。
もしかしたら、私に憧れてくれて、私になりたかったのかもしれない。
考えたって、もう終わった事。
バネッサは私しかいない。
私は私を求めてくれる人と夫婦になりたい。
誰からも私ではない私を求められたくない。
他の誰でもない私でいたい。
私はバネッサなんだから…
暫く経ったある日、スティーブンが教室までやって来た。
(今日は私のところに来たのね…)
「スティーブン、どうしたの…?」
「家から手紙が届いたんだよ。僕達の婚約が破棄されたって。しかも、僕の不貞が原因だって。勘当するって書いてあったんだ!どういう事か知ってる…?」
聞き耳を立てていたクラスメイトがざわついた。
(こんな人前で言わなくてもいいのに…馬鹿な人…)
「そのままの意味よ?この婚約は、あなたの不貞で、破棄されたの」
「毎日のように一緒にいたじゃないか!みんなだって知ってる!僕に不貞できる時間すらない事を、君自身が知ってるじゃないか!」
スティーブンが大きな声で叫んだ。
「それは本当に私なの…?」
「え…?何を言ってるの?当たり前じゃないか。君以外に誰がいるって言うんだよ…?」
(スティーブン、あなたは知ってるはずだわ。ケリーを見て、よく見ないと間違うって言っていたもの)
「いえ、止めましょう。私達の婚約は既に破棄されているの。話す事もないわ。授業が始まるから、教室に戻って」
「……授業が終わったら来るから」
昼食の時間になってもスティーブンは来なかった。
(ケリーのバネッサにでも会ってるんでしょうね。クラスメイトならまだしも、何年も一緒にいるスティーブンがわからないなんて…。傷付くわよね…)
翌日の朝、またスティーブンが教室に来た。
「バネッサ、どういう事?君は昨日の朝、婚約は破棄されたと冷たく言ったよね。でも、昼食の時間は今まで通りの可愛い君だった。僕は混乱してるよ…」
「そうね…今日の昼食は何処で食べるのかしら?そこで証明するわ」
「昨日約束しただろう?中庭のベンチだよ」
「わかったわ。では、その時に」
そして昼食の時間が始まって少ししてから、私は中庭に向かった。
そこには仲良く昼食を食べるスティーブンとバネッサ…いえ、ケリーの姿があった。
私は近くまで歩いて行き、声をかけた。
「スティーブン…」
「え…?うゎ!なんで…?なんでバネッサが二人…?」
私の声で顔を見上げたスティーブンが、驚いて飛び上がった。
「そういう事よ。その子はケリー。ねぇ、そうでしょう?」
ケリーは何も答えなかった。
「スティーブン、あなたが今年に入ってからずっとご飯を一緒に食べていたのはその子。放課後に会っていたのもその子」
固まったまま動かないスティーブンを一瞥して、私は続けた。
「去年に楽しく話していたのもその子。口づけをしたのもその子。私じゃないの。ねぇ、これでも不貞してないって言える…?」
「そんな!僕はこの女に騙されただけじゃないか!気付いたのなら、教えてくれれば良かっただろう?それなのに僕だけを責められても、納得がいかないよ!」
スティーブンは私に反論した。
「そうよね…私も最初は気付かなかったの。ただ、私の知らない話をしてるなって違和感があっただけ。でもね、スティーブン。あなたのお父様は気付いてくれたわ」
「どういう事…?」
「不貞の証拠がないもの。私のお父様が、あなたのお父様と一緒に学園を覗きに来たのよ。あなたのお父様は、私とケリーの違いに気付いてくれたし、どちらが私かも気付いてくれたの。あなたの方が私と一緒にいた時間が長いのにね…」
「そんな…」「でも…」と、言葉を探しているスティーブンに私は言った。
「そんな事はどうでもいいの。私はね、あなたがケリーと私を間違えても、許せたの。でもね、あなたがケリーと一緒にいる方が楽しいって言った事が悲しくて、あなたが私にケリーを求めた事が許せなかったの。それならケリーと婚約すれば良いじゃないって、そう思ってしまったのよ」
「待ってくれ!僕はこんな女よりもバネッサが好きなんだ!」
スティーブンの言葉に、今まで黙っていたケリーが反論した。
「ちょっと!どういう事よ!いつものバネッサよりも私の方が良いって、何回も言ってたじゃない!私の事可愛いねって言って、キスしてくれたじゃない!」
「あれは君がバネッサだと思ったからだよ。君に言ったわけじゃない」
「信じられない!私の初めてだってあげたのに!」
(!!!)
みんな聞き耳を立てていたのだろう。一瞬ざわついたが、すぐに静かになり、誰もが次の発言を待っていた。
「はぁ…スティーブン、あなたがその子を選んだの。あなたも言っていたでしょう?性格が違うって…違う人なんだもの、同じはずないじゃない。でも、あなたがケリーを選んだのよ。私にもケリーのようになれって、そう求めたの…」
顔を青くして崩れ落ちたスティーブンにそう言って、私は教室に戻った。
それからスティーブンとケリーは学院を辞めた。
スティーブンは勘当はされなかったけれど、学院中の噂になってしまったので学院を去った。
日雇いの仕事をしているとか、リード家で下働きをしているとか、色々な噂があるけど、本当のところはわからない。
ケリーは現実世界では生きていけない人達が入る施設へと送られた。二度と出てくる事は無い。
退学して暫くはブラウン家にいたのだけれど、ミラー家に忍び込んで、私の両親を「お父様!お母様!」と呼んで、ミラー家でも私になろうとしたらしい。
「ケリーが楽しそうにしていたから、注意できなかったんだ。すまなかった…」
そう言って謝罪をするブラウン男爵にお父様が激怒して、不貞の慰謝料請求に加えて、保護責任能力を追求する賠償金を請求した。
そしてブラウン家は隣町に帰っていった。
お父様が代理で治めるこの街に居辛く、また、男爵家の財産も使い切ってしまったんだろう。
ケリーは、私の真似をしているつもりはないと思っていた。
「ブレスレットは自分で選んだ」
そう言ったケリーの目は嘘をついているようには見えなかった。
だけど、学園では私に成り切っていた。ケリーは自分をバネッサと呼ばれて、どう思ったのだろう。何がしたかったのだろう。
幼い頃から、私を姉のように慕ってくれていたケリー。
もしかしたら、私に憧れてくれて、私になりたかったのかもしれない。
考えたって、もう終わった事。
バネッサは私しかいない。
私は私を求めてくれる人と夫婦になりたい。
誰からも私ではない私を求められたくない。
他の誰でもない私でいたい。
私はバネッサなんだから…
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