お母さん、私のなまえ覚えてる?

LIN

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本編

本当の友達

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「ちょっとあんた!早く退きなさい!みんなを待たせて迷惑なのよ!」

またお母さんの怒鳴り声がした。私の腕を無理矢理引っ張って立たせた。

(もう何回目なんだろう…?痛い思いをしなくて良かった)

私はいつもより冷静でいられた。


瀬川さんとまた会いたかった私は、前回と同じ様にして過ごしていた。

二回目の入学式、私はまた新しい制服を着て、アイメイクをして部屋を出た。

「お母さん…」

私は勇気を振り絞ってお母さんに声をかけた。

「まったく…なんであんな所を選んだの?交通費だって馬鹿にならないのよ?嫌になるわ」

(お母さんが好きにすれば良いって言ってたのに…お母さんが嫌なら、前の時も今も、違うところに行ってたよ…)

「お母さん…」

「さっきからなんなの?あんたは早く学校に行きなさいよ!」

お母さんに怒鳴られて、私は家を出た。

(お母さん…私の名前、ちゃんと覚えてる…?)

私は聞けなかった。聞くのが怖かったんだ。


私は悲しい気持ちを隠すように、瀬川さんがいる高校に向かった。

(大丈夫。あそこには瀬川さんがいる。私は一人ぼっちじゃない)


今回は私から瀬川さんに話し掛けることにした。

「あ、あの!よろしくね!」

「よろしくね。ねぇねぇ、杉下さんってアイメイクしてるよね?」

私は前回と同じ様に瀬川さんと友達になって、一緒にお姉さんのお店に行って、同じ様に製菓倶楽部に入った。瀬川さんはやっぱりいい人だった。


ある日、私は前回と同じ様に小山君に呼び出された。

「杉下さん、俺と付き合ってください!」

私は断った。

「私みたいなブスは止めたほうがいいよ」

そう言うと、小山君は驚いた様に言ったんだ。

「杉下さんはブスじゃないよ!誰がそんな酷いこと言ったの?」

(前回の小山君が言ったんだよ…ブスなんかお断りって、そう言ったんだよ…)

「ごめんなさい」

私はそう言って自分の教室に戻った。


「あ、お帰り!小山君何だって?もしかして、告白だった?」

瀬川さんが私を教室で待っていてくれた。

「うん…でも断っちゃった。瀬川さんと一緒にいる方が楽しいから…」

「私も杉下さんと友達になれて楽しいよ!」

苦笑いする私に、瀬川さんがそう言ってくれた。

「あ、じゃあさ、これからは麗華ちゃんって呼んでもいい?」

「麗華で良いよ!私もカナって呼んでも良い?」


そうして私達は下の名前で呼び合うようになった。

おばあちゃんが居なくなってから、初めて私の本当の名前を呼んでくれる人に出会えた。私は凄く嬉しかったんだ。


告白は断ったのに、あれから小山君は私に話し掛けて来るようになった。

(迷惑って言ってたのに、なんで…?)

私は訳が分からなかった。放っておいてほしい。そう思っていた。

「小山君って麗華の事を諦められないんじゃないかな…?」

「そんな事ないよ…」

(小山君は私に付き纏われて迷惑って言ってたの…私みたいなブスはお断りだって言ってたんだよ…)

前回の出来事なんて、カナに言えるはずもなかった。

「そっかぁ…あ、今度の週末さ、家に泊まりに来ない?」

カナが誘ってくれて、私は土日にカナの家に泊まりに行くことになった。


「いらっしゃい。あなたが麗華ちゃんね?楽しみにしてたの」

カナのお母さんは優しく私を出迎えてくれた。

「お、お邪魔します」

「麗華、私の部屋はこっちだよ!」

私はカナの後ろを付いて行った。

「カナ、今日はビーフシチューだから、あまりお菓子を食べすぎないでね?」

「本当に?やった!お母さんのビーフシチューはすごく美味しいんだよ!」

カナは嬉しそうに私に教えてくれた。


「麗華のお母さんは料理上手?」

カナの部屋に入ったら、カナが私に聞いてきた。

「どうなんだろう…?よくわからないや…」

私はお母さんの手料理を食べた記憶がなくて、そう答えた。

「麗華みたいに優しいの?」

「どうなんだろう…?よくわからないや…」

カナに本当の事は言えなかった。

「そっかぁ…あ、見て見て!これこの間買ったんだ!」

暗くなってしまった私に、カナは明るい話題に切り替えてくれたんだ。


それから二人で色んな話をして、あっという間に夜ご飯の時間になった。カナのお母さんが作ったビーフシチューは、すごく美味しかった。

「お母さんが作るビーフシチューって、その辺のお店より美味しいと思うんだよね!」

誇らしげに語るカナが、とても羨ましいと思った。


その日の夜はずっと二人で話していて、気が付いたら明け方になっていた。

「今日は買い物に行こうと思ってたのにね!」

時間に気付かないでずっと喋っていた私達は、そんな風に笑っていた。

「高校生にもなって、仕方のない子達ね」

カナのお母さんは目の下に隈のできた私達を見て、優しく笑っていた。

「明日は学校もあるし、今日は早めに寝よう」

そう言って私達はカナのお母さんが作った朝昼兼用のご飯を食べて、私は家に帰った。


昼過ぎに家に帰ると、お父さんもお母さんも家に居て、リビングでテレビを観ていた。

「ただいま」

私が帰って来ても、二人共テレビから視線を外さなかった。

「あ、あの…お母さん?」

「なに…?」

「昨日食べたカナのお母さんのビーフシチューがすごく美味しくてね?私も食べたいなって思ったんだけど…」

「食べたいならあんたが自分で作れば良いでしょ?お金置いておくから勝手にしなさい!」

お母さんはそう言って、テレビの音量を上げた。

(お母さん…ビーフシチューが食べたいんじゃなくて、お母さんが作ったご飯が食べたいんだよ…)

私は何も言えなくて、そのまま自分の部屋に戻った。カナの家族を見た後だったから、余計に悲しくなってしまった。


次の日から、お母さんはリビングのテーブルの上にお金を置くようになった。朝と昼のパンも、夜のお弁当も、用意してくれなくなった。


いつもコンビニで買ったご飯を食べている私に同情してくれたのか、ある日カナがお弁当を二つ持って来た。

「お母さんが作りすぎちゃったんだって!良かったら食べてくれる?」

「ありがとう。カナのお母さんのお弁当、凄く嬉しい」

カナのお母さんの手作り弁当は、可愛くて、優しい味がした。
食べながら涙が溢れてきた。カナは何も言わなかった。

「ねぇ、カナのお母さんに料理を習いたい。私も自分のお弁当を作れるようになりたいの。良いかな…?」

「もちろん!一緒にお母さんに教えて貰おう!あ、お揃いのお弁当箱も買おうよ!」

私達は放課後に色違いのお弁当箱を買って、週末にカナのお母さんに料理を教えて貰うようになった。


カナも私も製菓倶楽部に入っていたから、簡単な料理ならすぐに覚える事ができた。お母さんがお金を毎日置いていたから、買い物に困ることもなかった。


私は毎日お弁当を作って学校に持っていった。

朝も夜も、自分で作るようになった。

偶にお母さん達にと思ってお皿に乗せて冷蔵庫に入れたけど、料理はそのまま残っていた。
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