真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN

文字の大きさ
86 / 100
第三章

井の中のトード

しおりを挟む
ある男が野望を持ってケナード領に訪れていた。

「ここが噂のケナード領か。俺は街で一番人気の彫金師だったんだ。ここでだって一番に決まってる。自他ともに認める王国一番になってやる!」

男の名前はトード。

クラレンス王国の何処かにある街で人気を博していたが、人伝にケナード領が一番だと聞いた。自分の技術が一番だと信じて疑わないトードは、それを証明するためにケナード領に足を踏み入れたのだった。


そんなトードだったが、自慢の装飾品を店の主人に見せると、皆揃って首を振るのだった。

「何故この繊細な技術の良さがわからないんだ!」

「ここの人間は見る目がない!」

「そこに並んでいる品と、俺の品の何が違うと言うんだ!俺の品の方が遥かに良いじゃないか!」

悪態をついて店を出て行くトードに、街の人達は遂に入店拒否をするようになってしまったのだった。


(何故だ…?店頭に並ぶことさえできれば、皆わかってくれるはずだ。その目で見れば、皆買いたくなるはずなのに…)

トードは公園のベンチに座って途方に暮れていた。


その時、目の前を歩く若い二人を見つけた。

「そこの君達、装飾品に興味はないか?恋人同士贈り合う事もできるよ」

トードが声を掛けたのは、二人で歩くマーガレットとギルバートだった。


「まぁ、装飾品?」

マーガレットは目新しい物への期待に胸を膨らませ、ギルバートは浮かれていた。

(恋人同士に見えるのか。悪くないな)


「俺の作った自慢の品だよ」

そう言ってトードは地面に布を敷き、作品を並べ始めたのだった。


「どうだ?そこらの店とは比べ物にならないほどに良い品だろう?」

トードは自信満々にマーガレット達に見せた。

「とても綺麗な細工が施されているのね」

マーガレットの言葉に気を良くしたトードは、声高々に言った。

「そうだろう?お嬢さんは見る目があるね。この街の連中は誰もわかってくれないんだ」

(ほら見ろ。こうして客の前に見せればすぐにわかるものを。店の奴らを見返してやる)

並んだ商品を眺めるマーガレット達を見ながら、トードはそんなことを思っていた。


「でも、この作品には妖精さん達はいないのね…」

「は…?」

(妖精だ?この女は何を言ってるんだ?)

トードはおかしなことを言ったマーガレットを訝しげに見た。


「あなたは何を思ってこの細工を施したのかしら?」

「何をって…そりゃあ売れるようにだよ。こっちだって商売なんだ。売れないと意味がないだろう?ま、お嬢さんにはわからないだろうよ」

「そうなのね…」

マーガレットは悲しげな表情をしていた。


「マーガレット嬢、もう行こう。すまないが、私達は君の作品を購入する事は出来ないよ」

ギルバートがマーガレットの肩を抱いてその場を離れようとしたのだが、トードがそれを呼び止めた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、ください!あ、あなた様がマーガレット様だったんですね。これは失礼しました。私の作品を是非お父様に勧めてはくれないでしょうか?」

先程の高慢な態度とは打って変わった下手な態度になったトードのことを、ギルバートは苦い顔で見た。


「ごめんなさいね。私にはできないわ」

マーガレットが申し訳無さそうに謝ったのだが、トードは激昂した。

「何故ですか!綺麗な細工だと言ってくれたじゃないですか!」


ギルバートはマーガレットを後ろに庇い、トードに言ったのだ。

「君は客のことを考えた事はあるのか?いつ着けるのか、誰に贈るのか。少なくとも私は、君の作品をマーガレット嬢に贈ろうとは思えなかったよ」

「え…?何を言ってるんだ…?」

トードは困惑していた。

「本当に素敵な細工だと思うわ。でも、私の好みでは無かったの。ごめんなさいね」

「その腕輪と何が違うって言うんだよ…」

マーガレットの腕輪を見ながらトードが呟いた。


「これはギルが贈ってくれたのよ。素敵でしょう?」

「これはマーガレット嬢に贈って貰ったカフスリンクスだ」

二人は自分の腕を差し出し、トードに見せた。


「これは…」

「素敵でしょう?どんな洋服にも合うから、いつも付けてしまうの。ギル、ありがとう」

「いや、喜んで貰えて嬉しいよ。私も毎日付けているよ」

トードは二人の会話など耳に入らず、ただ装飾品を見つめていた。


(そう言うことだったのか…俺の作品は主張し過ぎていたんだ。流行りの物を詰め込んだだけで、付ける人の気持ちなんて一切考えていなかった…)

並んだ二人の装飾品は、まるで対の様に見えて、自然と二人に馴染んでいたのだ。

「どんな服に合うとか、いつ付けるのかなんて考えた事も無かったよ…俺はまだ未熟だったんだな…」


「勉強になったよ。お幸せに」

そう言ってトードはケナード領を後にした。

「どういう意味かしら…?不幸そうに見えてしまったのかしら…?」

マーガレットはこんなにも幸せに生きているのにと、不思議に思った。

「彼は絶対に良い彫金師になるだろう」

ギルバートは嫌なやつだと思っていたトードを好きになった。



自分の家に帰ったトードは、街の女性達や若者達に聞き込みをした。

どんな時に付けるのか、どんな物を付けたいと思うのか、そしてどんな物を贈りたいのか。

人々の意見を取り入れたトードの作品は、街だけでなく、他の街でも人気の品となった。

「ケナード領には及ばない」と嫌味を言われても、トードは笑って受け流せる様になっていた。

「あそこの商品には妖精がいるからな。俺はこの街で気に入ってくれる人が居ればそれでいいんだよ」


程なくして、ケナード家に一通の手紙が届いた。

それは、マーガレットとギルバートに宛てたトードからの贈り物だった。

封筒の中には一枚の手紙と二つの指輪、チェーンが二本入っていた。


「まぁ、素敵な指輪ね!ギルとお揃いで贈ってくれたのかしら?」

「きっとあの彫金師だろう。この細工には見覚えがある」

(妖精さんも嬉しそうに飛んでいるわ。きっとあの方の所にも居るのでしょうね)

マーガレット達は早速指輪をチェーンに通し、首元に付けた。


「メグ、新しいネックレスを買ったんだね。よく似合っているよ」

マーガレットを褒めたビクトールは、ギルバートのシャツの中に同じネックレスがあることを知らない。


― 末永くお幸せに ―

手紙には一言だけ書いてあった。

トードの勘違いではあるが、ギルバートはその手紙を大事に懐に仕舞ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。 けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。 「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。 ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。 そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。 学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。 けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。 暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。 ※10万文字超えそうなので長編に変更します。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...