シンママの私と、元地味眼鏡くん

吉野葉月

文字の大きさ
31 / 36

三十話※

 唇に何かが触れる感覚に、イヴァンはゆっくりと目を開けた。

「え……あれ? ローズ?」

「おはよう、イヴァン」

「ライアンは?」

「いないわ。ずっと私よ」

 彼はみるみるうちに頬を赤く染めた。

「僕、ずっと君と喋ってたの? 恥ずかしい過去も全部? うわー、引いたよね。ごめんねー!」

「謝らないで。イヴァンの内側が知れて嬉しかった」

 彼を上目遣いで見上げた。イヴァンは抱いたままのリュシアンをそっと引きはがし、背中をトントンしながらベビーベッドへと置いた。
 体温の高い乳児とくっついて寝ていたせいで額や背中は汗ばんでおり、イヴァンの胸元にも汗が滲んでいる。

「かっこい悪いとこ見せちゃったね」

「かっこ悪くなんかないわ」

「……あ、いや、そもそも僕にかっこいい時代なんて……」

「……」

 サラサラの銀の髪に、珍しい金色の瞳。外見ならそこらの男性より何倍も優れているし、外見だけで人は選ばない。

「あなたの言う、かっこいいって何? まさかツンツン頭で砕けた言葉を話す、ちょっと悪そうな人に憧れてるなんて言わないわよね?」

「誰のこと? もしかしてア……」

「たまたまよ」

 イヴァンは苦笑いして深く息を吐いた。

「言わないよ。僕は義父さんや君みたいな、自分の意思を持って、困ってる人に手を差し伸べられる人になりたいんだ」

 イヴァンの言葉に偽りはないことは、今までの付き合いが物語っている。

「良かった。そういうと思った。あなたがそういう価値観を持っているから、私は安心して心の内をさらけ出すことができるの」

 私はもう一度彼の唇にキスをした。

「あなたと出会えて良かった」

 私と出会えていなければ、別の人格だったとイヴァンは言っていた。私も同じだ。彼の他に、子どもの相手にふさわしい人なんかいない。

「ローズ……」

「なぁに」

「僕に価値を見出してくれてありがとう」

 イヴァンは瞳を潤ませた。

「君はずっと、僕の目標であり支えだった」

「ええ」

「でも、君が僕を受け入れてくれるなら、これからはパートナーと呼んでもいい?」

「……イヴァンなら、いいわよ」

 なんて、上からだったかしら。
 口から出た言葉に少し後悔をしていたが、イヴァンが両腕で私を抱き寄せた。身体を彼の温もりが包みこんだ。

「君の、結婚したくないという気持ちは分かっているつもりだ。だけど、一日だけ君のぬくもりを感じたい。僕は口下手で手紙もあまり得意じゃなくて、君への想いを伝えるすべを多くは持っていない」

 私は頷く。

「キスしてもいいかな」

「……」

 私は再び、首を縦に振る。
 結婚願望が無い理由は、男女の営みが嫌いだからではないということを、彼は知っている。
 だから少々、強気に出られるのかも知れない。
 イヴァンは私の頬に触れ、ゆっくりと顔を近づけた。

「ローズは、ローズの好きに生きて欲しい。それが僕の幸せ。君が笑って暮らせることが、生きる希望をもらった僕からの恩返しだよ」

 唇に舌が触れ、促されるまま口を開く。
 熱を持った厚い舌が、私の口内を確かめるように動く。

「ふ……」

 彼の舌は執拗に私のものを追いかけ、執拗に絡みついた。クチュクチュといやらしい水音が、静かな室内でよく聞こえる。

「はぁ、は……っ」

「息していいよ」

 こんなことは学生の頃のあの日以来だ。勝手が分からず、舌の動きを確かめるので精一杯だ。

「で、でも……」

 唇を離せば、彼との間が銀糸で繋がる。

「こういうときは息していいって言ったのは君だよ。ほら、口開けて」

 いつになく積極的なイヴァンにドキドキする。
 おずおずと従えば、待ち構えていたかのように再び貪り食われてしまう。
 私はイヴァンとの口づけを知っているはずだったが、私の記憶の中の彼とは違う。
 唇に僅かに舌先が触れるだけで、私の身体はその先を期待してうずうずしてくる。

「僕の部屋に行ってもいい?」

「……うん」

 私は静かに返事をした。
 なんだか、昔と逆みたい。
 

 夕陽が差し込む執務室には、たくさんの書類がきちんと整頓されて置いてあった。現侯爵が現役だった頃から使っているのだろう、椅子や机は年季が入っていて趣がある。棚には子供の頃の彼と侯爵が描かれた絵が飾られていて、思わず目を細めた。
 今となっては懐かしい、黒髪姿のイヴァンだ。リュシアンと似ているし、侯爵が彼に愛情を持って接しているのが伝わってくる。

「ローズ、僕はこっちだよ」

 イヴァンは私の頭をぐいっと自分の方へ向かせた。
 振り返る間もなく、そのまま後ろのベッドへと押し倒される。

「ん……」
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」