不思議な国の妖怪少女〜君と僕たちの物語

かな

文字の大きさ
2 / 2

1話

しおりを挟む
ふと目を開くと、そこは大きく広がる真っ白な天井。俺は慌てて立ち上がり、周りを確認するが、壁が白いせいか、とても部屋が広く見える。距離がどれほどかは測れないが、少し離れたところにソファーがあることは理解できる。少し気になって足を前に踏み出した。

コンッコンッコンッ

自分の足音に違和感を覚えて、自分の足元を見たその瞬間。

「……!」

透明だ。そして、靴を履くときのように、もう一度軽く地面を蹴ってみる。

コンッコンッコンッ

やはりだ。この音はガラスの音だ。状況を改めて整理してみよう。真っ白な天井と壁に、俺の足元には透明なガラス。そしてその下には何も見えない。見えるものがあるとしたら、前を向いた時に見えるソファーだけ。……いったい、ここはどんな場所なのだろう。

「もう少し歩いてみよう。」

そう思い足を進めようとしたその瞬間。俺の足元が一気に崩れた。何があったのか理解できず、その場で自分の足元を見る。そこで見えたのは先ほどとは違った真っ黒な地面。その地面は沼のように俺の足を飲み込んだ。そして足が動かないことを理解した俺は、むやみに動くよりも、じっとしていたほうが良いと思い、何の抵抗もなしに沼に飲み込まれ、あとはもう頭が埋まるだけ、そんな状況の俺にある声がした。

「あら?抵抗しないのね」

その声は、あの少女に似ているような、そんな気がしたが、どこか大人びている。そんなようにも聞こえた。その声が聞こえた途端、沼が少し水っぽくなった気がした。相変わらず視界は真っ黒だが、耳は聞こえる。すべての感覚を耳に集中させ、音の響く方を探る。

「へぇ……面白い。少しキミと話がしたいな。よし、キミを闇に沈めるのはやめだ。」

そう聞こえた瞬間、体を覆っていたヌメヌメとしたものが一気に冷たい水に変わり、真っ黒だった視界には、この沼に落ちる前の真っ白な世界が飛び込んだ。

そして、水へと変わった沼だったものも、重力の力によって、どこかへ流れていった。そして、俺の目の前には長い髪をした女性が、足を組んで宙に浮いていた。そして、彼女が手を一振りすると、綺麗な椅子が出てきた。俺がその椅子に手を添えると、彼女はにっこりと笑った。きっと座っても良いよ、という意味だろう。その椅子に座ると不思議と体が軽くなった感覚になり、気づけば彼女と同じ目線の位置にまで浮いていた。

「やぁ、キミの名前はなんだい?キミ、この世界の人間ではないのだろう?」
「俺の名前は、稲葉イナバ光希ミツキ。なぁ、この世界の人間ではないっていうのは一体?」
「ほぅ。イナバか……。分かった。説明してあげよう。この世界はキミのいた世界とは違う。キミのいた世界での常識が必要のない世界さ。この世界で必要なのは、何が起こっても全てを受け止められるほどの、広い心。そして強い覚悟さ。さっきキミが沼から助かったのは私が目をつけたからでもあるが、私が目をつけるに理由となったのは、キミが死ぬかもしれないことを覚悟し、受け止めたからだ。私はキミの持つに惹かれたんだ。」

彼女は、他にもこの世界で生きていく上で必要な知識を教えてくれた。まず第一に、ここは俺が元いた世界ではないこと。次に、この世界の常識は、あの世界とはまるで違うということ。そして、最後に。この世界からはもう出られない。出るには、逃げ出す自殺か、この世界の神様を殺すしかないらしい。まだ話で聞いただけだから、あまり想像はできないが、この世界では、とんでもないことが起こるのだと想像できる。

「そうか……。なぁ、ところであんたは何者なんだ?」
「私かい?そうだねぇ……。かもしれないわね」
「なるほど。じゃあ、あんたを説得すれば元の世界に帰れると。」
「ま、待ちたまえ。私はまだ神様じゃないんだ。それに、もし私が神様でも、説得だけでは元の世界には戻れない。殺さないと。そう……私は、殺されないとキミを元の世界に返してあげられないんだよ!」

冗談で言ったつもりが、彼女にとっては、俺の冗談はあまりいい意味ではなかったようだ。それと、彼女は俺を元の世界に返したがっている。という様にも聞こえたが、気にしないでおこう。それに、彼女が神様でないのなら彼女が何者かに殺されるなんてことはないだろう。

「す、すまない……少し取り乱してしまったよ」
「いや、いいんだ。今のは俺が悪かったかもしれない……。しかし、俺はすぐにこの世界を離れるつもりはないよ。こんな不思議な世界。少しくらい楽しまなきゃいけないだろう?なんといったって、この世界で必要なものはなんだった?」
「『何が起こっても動じない、強い覚悟』か……。ははっ!やはりキミは面白いよ。イナバ!覚悟したよ。もしも私が神様になってしまったらキミに殺されてでも、この世界から逃げ出させてあげる」
「いや、そんなこと必要ないさ。俺はこの世界で生きていく。もしこの俺が、この世界から逃げたくなった時は、神様ってやつを殺さずに出られる方法を見つけてやるさ」
「ははっ!やれるものならやってみろ。私は楽しみにして待っているとするよ!」

ここまで楽しく会話したのはいつぶりだろうか……。馴染みの友達とも多少はこういう事はあるが、ここまでワクワクした会話は久しぶりだ。
……そういえば、俺がこの世界に来る理由となったあの少女。彼女は今はどこにいるのだろうか。まずはあの子との約束を果たさなければならない。ただ、どこにいるのかはわからない。なんなら聞いてみるとしよう。

「なぁ、俺がこの世界に来るきっかけとなった少女を知らないか?」
「少女?あぁ。彼女ならさっきからずっと、外からキミに話しかけているよ?ほら耳をよく済ましてごらん。きっと聞こえてくるはずだ。」

「……さん!お……い…ん!お兄さん!起きて!」

「あぁ聞こえてきたよ。この声に誘われて俺はこの世界に来たんだな。よし。それに、やっと気づいたよ。今俺は夢を見ているんだな。」
「自分でそれに気付く奴はそういないんだが、それに気づいてしまうのが、イナバという事か。キミのいう通り、ここは夢の世界さ。少し目を閉じて、外から聞こえる声を頼りに目をさますといいよ。」
「そうか。何から何までありがとう。それじゃあ俺は目覚めるとするよ。また会おうな。」
「そうだ。君に1つプレゼントをあげよう。どんなプレゼントかは夢から目覚めてからのお楽しみだ。」
「そうか……まぁ楽しみにしておくよ。じゃあな。またいつか、カミサマ。」
「あぁ。じゃあまた。イナバ」

俺はそう言って瞳を閉じて、少女の声を頼りに目を覚ます。またいつか。この言葉は初対面の相手に言うべき言葉ではないのだろう。しかし、なぜか彼女とは初対面だった気がしなくもない。だからこそ、その言葉が出たのだろう。

「イナバ。か……。やはりキミは、不思議な国のパーティーに誘われたうさぎなんだな……。となると彼女か。まだ幼いあの子に。そんな大役ができるのだろうか……」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

聖女じゃない私の奇跡

あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。 だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。 「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

乙女ゲームは始まらない

まる
ファンタジー
きっとターゲットが王族、高位貴族なら物語ははじまらないのではないのかなと。 基本的にヒロインの子が心の中の独り言を垂れ流してるかんじで言葉使いは乱れていますのでご注意ください。 世界観もなにもふんわりふわふわですのである程度はそういうものとして軽く流しながら読んでいただければ良いなと。 ちょっとだめだなと感じたらそっと閉じてくださいませm(_ _)m

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

処理中です...