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1-15 異世界の書物の知識

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俺たちが部屋にいた時に、無意識の間に発動した魔法。1度消えたはずの光が再び出てきた時に見えた桜や紅葉。それは見て俺は何かをすぐに理解した。話で聞いたくらいしか知らないはずなのに、何故か理解出来たんだ。
魔法は俺たちにはまだ知らない事がたくさんある。俺たちの元の世界でも起きている神隠し。それとこの世界で起きている魔王の侵攻。俺たちがここで魔王の侵攻を止めなければ、元いた世界も危ない。俺は…どうしたらいい……

「やぁ君たちがダインの言っていた2人かい?」

ふと前を見るとダインさんにそっくりな男がでてきた。恐らく この人がダインさんの弟で、この武具屋の主だろう。

「はい。私はクレハと言います。旅に出るために武器や防具を揃えたくて、ここへ来ました 。」
「うん。四季王から聞いているよ。君たちが、今1番勇者としての素質がある2人だともね。僕の名前はルイン。ダインの弟だ」

どうやら四季王からある程度のことを聞いているらしい。勇者としての素質がある、なんて言い方をするのも、恐らく四季王の計らいのおかげだろう。この様子だと四季王とも面識があるようだ。

「兄を読んでくるよ。ダインは実は寂しがり屋でね。僕が鍛冶を磨くためにこの国に来ると言い出した時にも、俺も行く。なんて言って本当にこうしてついてきてしまった。この年になってもまだ心配してくれるのは、本当にありがたいことだよ。あぁそうだ。先に店の方に行っておいてくれ、僕もすぐに行くよ」

ダインさんは弟想いのいい兄で、ルインさんもダインさんのことをしっかりと理解しているようだ。ダインさんの言う通り、確かに兄弟仲はとても良いらしい。俺とクレハも周りから見たらそう見えるのだろうか。もしそう見えているのなら、少し嬉しい気もするな。

「ほら~レイ行くよ~」

なんて、ぼ~っとしてたらクレハにさっさと置いていかれそうだ。俺もクレハの後を追って、店の方へと向かう。
当然裏側から入ってきたのだから、出てくる場所はレジ…だろうと思っていたが、ここは魔法のある国なのを忘れていた。つまり、レジはなく会計はどうやら出口付近で行うらしい。俺たちが出てきたのは本来の出入口がちょうど左側に見えるような位置だった。
その位置から見えたのは、あらゆる大きさの鉄鎧や長さの違う剣。魔法を扱うであろう杖も、長いものから短いものまで。さらにその横には手に装着して戦う爪や、身を守る大きな盾。また小さな盾も見つけられた。他にもいろいろと歩き回って探してみると、服の上から羽織るタイプのローブもあった。クレハもそれらを見て当然興奮している様子で、実際に長めの剣を持って感動しているようだ

「どうだい?うちの品揃えは。まぁ、1日店を開いたあとだから、いくつか品切れのもんもあるけどな。自分の気にいりそうな武器は見つかったかい?」

ダインさんを連れながらルインさんも戻ってきた。改めて2人が並んでいるのを見ると、自然と仲の良い兄弟だということが伝わってくる。

「えぇまぁ…。でも、異世界から来た俺たちではどの武器や防具の組み合わせをしたらいいのか全くわからず… 」
「異世界から来た…か。四季王が言うことは本当のようだね。ある程度魔法が使えるというのは聞いているけど、四季王でも知らないような魔法ばかりみたいだし、武器や防具を選ぶ際にも、自分の属性というのはかなり重要になる。だから、君たちの魔法を是非見せてもらいたいんだけど…。まぁ街の中だと私有地や家の中であっても、生活魔法以外の魔法を使ってはいけないという決まりなんだ。というわけで、ライセンスを見せてもらってもいいかい?」

生活魔法というのは恐らく、恐らく食事を作る時に火を使ったり、洗濯する時に水を使ったりする様な魔法のことだろうな。
ルインさんの言う自分の属性が防具を選ぶ時に重要になるというのも、なんとなく理解ができる気がする。簡単に人に見せていいものかは分からないが、ここはプロに任せてライセンスを預けよう。と思うとクレハは既にルインさんにライセンスを渡しているようだった。

「私の属性は秋属性みたいです。能力とかは結局分からないままです。」
「なるほど。クレハさんの属性は分かったよ。あとはレイさんの属性によって、戦略や武器が決められるかな。」
「じゃあ、これが俺のライセンスなんだが…。にわかに俺も信じ難いんだよな…これ」
「なんだこれは!」

予想した通りの反応だよな。俺のライセンスには、すべての属性のマークが表記されている。まぁこのライセンスが出てくるまでは、ほぼ白紙のライセンスしか出てこなかったから、このすべての属性が使えるというライセンスが正確だとは、正直に言うと俺は信じていない。

「これは…すこしややこしいな。すべての属性の魔法を使える上に四季王でも見たことのない魔法も使えるんだろう?となれば普通の戦術を組んでも本来の力を発揮することは出来ないだろう…」

ルインさんは、俺のライセンスを見てからかなり深く考え込んでしまったようだ。確かに属性で武器や防具の組み合わせを考えるのであれば、すべてに当てはまってしまう俺はかなりイレギュラーな存在となる。俺のことを考えていても、正直俺自信が何が出来るのか理解出来ていないから、あまり状況は進められないだろう。ということで、クレハのことから済ませてもらうようにしよう。

「あの。俺は一旦置いておいて、先にクレハからでお願いしてもいいですか?」
「あぁ。そうだね。先にクレハさんの方から決めようか。さて、クレハさんは秋属性ですよね。まず、前衛か後衛かどちらがいいですか?」
「そうですね…。旅に出るのは私たち2人だけ。となると、1人が後衛に回ってももう1人が守りきれるとは限らないし、本当はどっちも出来るようになりたいけど…」

クレハもクレハなりに色々と考えていてくれたようだ。クレハの言う通り、片方が前衛、もう片方が後衛になっても、お互いがお互いを守り会えるかは分からない。となれば自然にどちらも前衛に回るのが自然だろうか…。でもクレハの言う通り、お互いがどちらも出来るようになれば、あらゆる戦法を組めるだろうな…。

と、いうか待て待て俺。ここまでの俺やクレハの考え方は完璧にゲームがベースの思考だ。確かにこの世界がゲームで想像するものと近いと言っても、ここでは命の取り合いなんだ。もう少し慎重に考えた方がいいんじゃないのか…

「クレハさんもレイさんも、本当にこの世界に来てまだ日が浅いんですよね?どうにもお2人が最近この世界に来たとは思えないほど、この世界に対応してるように見えます。確かに勇者の素質を完璧備えている」
「い、いえいえ!そんなことはありませんって。私たちの知識のほとんどは、自分の経験によるものではなくて、書物によるものであって」

書物、というのは俺にはわかる。ゲームの攻略本である。最近のファンタジー系のRPGゲームの攻略本には、敵モンスターの説明の欄にちょっとした弱点や戦い方のアドバイスが書かれていることが多い。探してみると新しい発見がある時もある。って違う!

「ルインさん。俺もクレハもお互いに前衛の装備にすることは出来ますか?」
「レイ…?」
「俺たちのパーティは2人だけだ。いくら俺たちがこの世界では認知されていない魔法を使えるとしても、その魔法を使うまでの安全が確保出来なければ意味が無い。それに、前衛2人で切り込んで相手に隙を作らせて、そこで魔法を打ち込むという作戦もアリだ。今の俺にとって1番考えられる最適解はこれだ。どうする?クレハ」
「なるほどね。納得。それに私たちに余裕が出来てから魔法を使えるようにすればいいってことだもんね。」

クレハにもしっかりと伝わってよかった。決して後衛の選択肢を捨てる訳では無い。それに近くで戦えればお互い守り合うことも出来るさ。
もちろんもう1つの可能性を無視する訳では無い。勇者の冒険には付き物の、旅の途中で増える仲間の可能性だ。もしも途中で仲間になってくれるような人がいれば、その人に合わせて自分たちの作戦も変えられるようにしたい。クレハのどっちも出来るようになりたいというのは、これも考えた時の意見なのだ。

「よく分かったよ。じゃあ2人とも前衛ということでいいね。」
「「はい!」」
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