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70.俺のものに
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大広間を抜けた先に、確かにいくつか部屋が並んでいた。そのうちの一つにエミリアンはアネットを案内した。部屋の中は薄暗くて、エミリアンが持っていた蝋燭の灯りだけが頼りだった。
けれど、どこにもシャルルは見当たらない。
「あの、シャルル殿はどこに」
振り返った時、がちゃりと鍵がかかる音がした。
にやりと口角を上げて、男が笑う。その金の目は全く笑っていない。冷たい色で、アネットを睥睨するだけだ。
「公爵令嬢だってね」
金色の髪が蝋燭に揺らめく。
「オリアンヌ=プランタンはひどく近寄りがたい人物で有名だったけれど、あいつはそれも誑し込んだんだな」
違う。シャルルは誑し込んでなどいない。そう言おうとしたのに、髪に手が伸びてきて、喉元がきゅっとなった。舌が張り付いたようになって声が出ない。
エミリアンは巻き上げた一房にするりと指を絡めて、口づけてみせる。
「大きな声を出したりしても無駄だよ。ここはそういうことの為の部屋だ」
ああ、まただ。
「ねえ、アネット」
逃れようとしても逞しい腕がアネットを離さない。そこでやっと、自分の考えなしの行動を恥じた。
軽々と抱き上げられて、カウチの上に下ろされる。痛いほどに肩を掴まれて、押し倒された。
頬を撫で上げていく手が熱い。ぬるい吐息が耳元にかかって、思わず鳥肌が立った。
「君を抱いたと知ったら、シャルルはどんな顔をするだろうね」
金色の目と見つめ合う。粘りつくような視線は全身を這うけれど、その実のアネットのことなど見えてはいないのだろう。
「全部あいつのせいだ」
荒い息を吐きながら、エミリアンはドレスを半ば引き裂くように脱がせていく。その感触をどこか遠くの出来事のように感じている自分がいた。
「あいつのせいで、誰も俺のことを見ない」
コルセットにエミリアンの手がかかる。これを脱がされてしまえば、アネットと彼を隔てるものは何もなくなる。けれど、恐ろしいよりも、怒りの方が先に来た。
この人はまるで、幼い子供のようだ。
「あなたは何か、努力をしたんですか?」
シャルルよりもずっと、エミリアンの方が恵まれて育っただろう。彼は、生まれた時から貴族で正真正銘に傅かれて育ったのだから。
「口の減らない子だな」
金色の目が不愉快だとばかりに鋭くなる。手首を掴んでいる手に、ぐっと力をかけられる。
「大人しくしろよ。君は俺のものになるべきなんだ」
「あなたが与えられなかったのは、シャルルがいるからじゃない」
エミリアンは、ずっと己が与えられなかったものを、ただ嘆いている。誰かの手にある宝石を羨んで妬んで、それだけだ。そこから進もうとしない。
けれど、どこにもシャルルは見当たらない。
「あの、シャルル殿はどこに」
振り返った時、がちゃりと鍵がかかる音がした。
にやりと口角を上げて、男が笑う。その金の目は全く笑っていない。冷たい色で、アネットを睥睨するだけだ。
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金色の髪が蝋燭に揺らめく。
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違う。シャルルは誑し込んでなどいない。そう言おうとしたのに、髪に手が伸びてきて、喉元がきゅっとなった。舌が張り付いたようになって声が出ない。
エミリアンは巻き上げた一房にするりと指を絡めて、口づけてみせる。
「大きな声を出したりしても無駄だよ。ここはそういうことの為の部屋だ」
ああ、まただ。
「ねえ、アネット」
逃れようとしても逞しい腕がアネットを離さない。そこでやっと、自分の考えなしの行動を恥じた。
軽々と抱き上げられて、カウチの上に下ろされる。痛いほどに肩を掴まれて、押し倒された。
頬を撫で上げていく手が熱い。ぬるい吐息が耳元にかかって、思わず鳥肌が立った。
「君を抱いたと知ったら、シャルルはどんな顔をするだろうね」
金色の目と見つめ合う。粘りつくような視線は全身を這うけれど、その実のアネットのことなど見えてはいないのだろう。
「全部あいつのせいだ」
荒い息を吐きながら、エミリアンはドレスを半ば引き裂くように脱がせていく。その感触をどこか遠くの出来事のように感じている自分がいた。
「あいつのせいで、誰も俺のことを見ない」
コルセットにエミリアンの手がかかる。これを脱がされてしまえば、アネットと彼を隔てるものは何もなくなる。けれど、恐ろしいよりも、怒りの方が先に来た。
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「あなたが与えられなかったのは、シャルルがいるからじゃない」
エミリアンは、ずっと己が与えられなかったものを、ただ嘆いている。誰かの手にある宝石を羨んで妬んで、それだけだ。そこから進もうとしない。
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