【完結】わたしが愛されるはずがなかったのに~冷酷無比な男爵は高額買取した奴隷姫を逃さない~

藤原ライラ

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71.その器

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 悪魔のように涼やかな顔をして、シャルルはずっとあの地位にいるだけの努力をしてきた。あの知識も立ち振る舞いも、彼が自分で掴み取ったものだ。

 それをただ、僻んで恨んでいるだけのあなたとは、違う。

「あなたにその器がないだけよ。わたしがロドルフ様でも、あなたを後継者には選ばない」

 ぱんっ。 

 言い放つや否や、高い音が耳の近くで鳴った。遅れて、じんじんとした痛みと熱が頬に訪れる。

 そこでやっと、顔を打たれたのだと気が付いた。いつもエミリアンはシャルルのことは見えないところを叩くようにしていたというから、この言葉は余程気に障ったらしい。

 けれど、こんなもの、あの人が受けた痛みに比べたら。

「自分が今どういう立場なのか分かっているかな、アネット。いや、アンヌ=マリー様と呼ぶべきか」

「何をされても、わたしはあなたのものにはならないわ」

 だって、わたしの心はわたしだけのものだから。
 そう教えてくれた人が、いたから。

「殴られても抱かれても、決して、あなたのものにはならない」

 体の自由を奪うことはできても、この心までは奪えない。
 心は誰にも売れないし、買えないのだ。

「それでもそうしたいなら、すればいいわ」

 どんな力にも屈しない。そう思って、痛む頬をもろともせずに、アネットは笑ってみせた。

「いい加減にしろよっ!!」

 再びその手が大きく振り上げられて、アネットはもう一度身に降りかかる痛みにぎゅっと目を瞑った。
 けれど、その二度目は来なかった。

「よく言った、アネット」

 ずっと聞きたかった声が、己の名を呼んだ。

 恐る恐る目を開ける。
 今にもアネットを打たんとするエミリアンの手は、シャルルに押さえつけられていた。

 目が合うと、紫水晶は輝きを増して応える。ばさりと、彼が着ていた上着がアネットの上に落とされる。

「お前、ここにどうやって」

「私は何せ生まれに色々あるもので、少々手癖・・が悪いんですよ」

 含みのある言い方をしたと思えば、シャルルは右手を示す。悪魔の手の中にあったのは、金属の小さな棒だった。大方それで扉の鍵をこじ開けたというところか。

 そんなシャルルは、今は王宮の衛兵の制服を着ている。制帽を被ってしまえば金髪はあまり目立たない。もしかして、この恰好でずっとあの舞踏会の場にいたのだろうか。

「エミリアン様」

 紫色の瞳が、エミリアンに向けられる。

 咄嗟に、エミリアンはアネットの手を放すとカウチから立ち上がった。弁明するように両手を広げて肩を竦める。

「……俺は、違う! この女が誘惑してきて、仕方なく!!」
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