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72.傲慢
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誰が誰を誘惑したというのか。
憤慨しながら、アネットはカウチの上で体を起こした。ちらりと、シャルルの目が向けられる。彼はアネットの乱れたドレスが他の者からは見えないように、さっと上着を直した。
「アンヌ=マリー様、この者はこのように言っていますが」
シャルルが静かに、いつになく丁重な口調で訊ねてくる。彼の後ろにも、何人かの衛兵がいる。エミリアンがこの追及から逃れる方法は、ない。
「わたしはこの者を拒みました」
打たれた右頬がよく見えるように、アネットは左を向いた。シャルルの目は一瞬揺らいだ気がしたけれど、すぐに元の平然とした色に戻る。
「なるほど。誘惑してきておいて打たれる、ということは確かに考えにくいですね」
アンヌ=マリーは四大公爵家の娘である。この状況ではどう考えても、エミリアンは黒だ。
「公爵令嬢に手を出せばどういったことになるか、お分かりならないわけではないでしょう」
そう告げる彼の目はどこか悲しんでいるようにも見えた。
「……僕はずっと、僕が殴られればそれでいいと思っていました。それであなたの気が済むのならと。けれど、それがあなたに対して一番ひどかったのかもしれないと、彼女の言葉を聞いて思いました」
淡々とシャルルは話す。全ての責任を自分に向けてしまうのは、実は一番簡単なことなのかもしれない。
与えられた者と与えられなかった者。その差はほんの些細なことでしかないけれど、よく似た彼らは一度も己の影に目を向けはしなかった。
「僕がきちんと向き合えていたら、こんなことにはならなかったのかなとも思います。申し訳ありませんでした」
帽子を取って静かに頭を下げる。金髪が流れてシャルルがどんな顔をしているのか見えなくなる。
「お前はどこまでも、傲慢だな」
エミリアンはただシャルルに一瞥くれただけだった。
「連れて行ってくれ」
シャルルが顎をしゃくって後ろの本物の衛兵たちに示す。一礼すると、彼らはエミリアンを両側から掴んだかと思うとそのまま連れて行った。
残されたのは、アネットとシャルルの二人だけである。
「その、お久しぶりです……」
あんなに会いたかったというのに、口をついてきたのはそんな当たり障りのない言葉だった。
窺うような視線が、アネットの顔に注がれる。そんなに見苦しい顔をしていただろうか。
「痛かったか」
衛兵に揃いの白い手袋をはめた手が頬に触れる。労わるように、その手はそっと撫でていく。
「大したことじゃないです」
「冷やした方がいい。あいつ、叩くなら僕の顔にしておけばよかったのに」
きれいな顔を痛々し気に歪めてそんなことを言う。アネットは首を横に振る。もうこれ以上、彼が叩かれるのは見たくなかった。だから、これでいいのだ。
「にしても、どうしてそんな恰好を?」
「ああ、これか」
憤慨しながら、アネットはカウチの上で体を起こした。ちらりと、シャルルの目が向けられる。彼はアネットの乱れたドレスが他の者からは見えないように、さっと上着を直した。
「アンヌ=マリー様、この者はこのように言っていますが」
シャルルが静かに、いつになく丁重な口調で訊ねてくる。彼の後ろにも、何人かの衛兵がいる。エミリアンがこの追及から逃れる方法は、ない。
「わたしはこの者を拒みました」
打たれた右頬がよく見えるように、アネットは左を向いた。シャルルの目は一瞬揺らいだ気がしたけれど、すぐに元の平然とした色に戻る。
「なるほど。誘惑してきておいて打たれる、ということは確かに考えにくいですね」
アンヌ=マリーは四大公爵家の娘である。この状況ではどう考えても、エミリアンは黒だ。
「公爵令嬢に手を出せばどういったことになるか、お分かりならないわけではないでしょう」
そう告げる彼の目はどこか悲しんでいるようにも見えた。
「……僕はずっと、僕が殴られればそれでいいと思っていました。それであなたの気が済むのならと。けれど、それがあなたに対して一番ひどかったのかもしれないと、彼女の言葉を聞いて思いました」
淡々とシャルルは話す。全ての責任を自分に向けてしまうのは、実は一番簡単なことなのかもしれない。
与えられた者と与えられなかった者。その差はほんの些細なことでしかないけれど、よく似た彼らは一度も己の影に目を向けはしなかった。
「僕がきちんと向き合えていたら、こんなことにはならなかったのかなとも思います。申し訳ありませんでした」
帽子を取って静かに頭を下げる。金髪が流れてシャルルがどんな顔をしているのか見えなくなる。
「お前はどこまでも、傲慢だな」
エミリアンはただシャルルに一瞥くれただけだった。
「連れて行ってくれ」
シャルルが顎をしゃくって後ろの本物の衛兵たちに示す。一礼すると、彼らはエミリアンを両側から掴んだかと思うとそのまま連れて行った。
残されたのは、アネットとシャルルの二人だけである。
「その、お久しぶりです……」
あんなに会いたかったというのに、口をついてきたのはそんな当たり障りのない言葉だった。
窺うような視線が、アネットの顔に注がれる。そんなに見苦しい顔をしていただろうか。
「痛かったか」
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「大したことじゃないです」
「冷やした方がいい。あいつ、叩くなら僕の顔にしておけばよかったのに」
きれいな顔を痛々し気に歪めてそんなことを言う。アネットは首を横に振る。もうこれ以上、彼が叩かれるのは見たくなかった。だから、これでいいのだ。
「にしても、どうしてそんな恰好を?」
「ああ、これか」
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