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「よう、セルジュ」
「よろしくお願いします」

 仕事場について、いつものように親方に挨拶する。親方の腕は僕の倍ぐらいはある。他の作業員も概ねそんな感じだ。つまり、僕のようなもやしっ子は本来この仕事にはお呼びでない。

 ただ親方も、僕を無下に出来ない事情もあるわけで。

「お前がいるとなんでだか、落盤が起きないんだよなぁ、セルジュ」

 それはおそらくミネットの守護石のおかげなのだけれど。それがバレて石だけ取り上げられてしまったら、僕は仕事ができなくなる。なので、とりあえず曖昧に笑っておいた。

 魔石掘りははじめてしまえば、孤独な単純作業だ。役割分担は明確。一人に一つ坑道が宛がわれて、延々と魔石を掘っていく。ある程度溜まったら手押し車に載せて外に出す。重さを計測して、それに応じてその日の日当が支払われる。以上、いたってシンプルな仕組みだ。

 掘り出された魔石は、例えば街を守る結界とか、そういう風に大掛かりな魔法を定着させるのに使われている。値段も高価だから、あまり一般人の手に入るものではない。

 確かに危ない仕事ではあるけれど、僕はこの仕事がそこまで嫌いではなかった。
 かつんかつんと響く鶴嘴つるはしの音を聞いていたら、無心に近い気分になる。頭の中が空っぽになって、余計なことを考えずに済むからだ。

 父は魔術師だった。どれぐらい立派な人だったのかはわからない。
 母は僕と同じ、普通の人間だった。何の因果か父と出会って結婚して、僕を生んで、そしてそのまま亡くなったらしい。

 僕が八歳の時に、父が連れてきたのがミネットだ。多分、父が他の女に生ませた子だったんだろう。
 ゆるやかに波打つ金髪に、ぱっちりとした青色のきれいな目。その頃からもう、彼女は、お人形か天使のようだった。

「いいか、今日からお前はこいつの“兄貴”だ。ちゃんと面倒見てやれよ」

 そう言った父も、もういない。ある日突然蒸発してしまった。

 魔術師の魔力はその血に宿るという。だから、血の繋がりがあればどことなく、魔力で居場所が分かったりするらしいのだけれど、僕には魔力がないからそれもできない。

 ミネットにはちゃんとした魔力がある。魔術師学校の授業料は決して安いとは言えないけれど、きちんと卒業させてあげたかった。

 あと、一月足らずで、彼女は学校を卒業する。
 石を穿ちながら考える。

 なんでも、魔石と魔術師の相性は悪いのだという。魔法で取り出そうとしても、魔石の力と拮抗して上手くいかないらしい。だから、魔石掘りの仕事は人間にしかできない。

 魔石を掘っていたら、それに紛れてなんの変哲もない屑石が出てくる。
 これがきっと、僕だろう。

 ミネットが学校を卒業したら、兄としての役目も御免だ。
 あんな美少女が僕みたいなのの傍にいるべきじゃない。

 かつん、かつん。

 見ないふりをしていること。それでも時々、考えてしまうこと。
 それを忘れるために、僕は力の限り鶴嘴を振り下ろした。
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