拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ

文字の大きさ
80 / 91
番外編:花の女神と祝福の庭

4.薄幸の美少年

しおりを挟む
 華があることに越したことはない。私はぱっとしない顔立ちだし、新郎が輝いていたら婚約式もさぞ盛り上がることだろう。そう思って、ゴールドを選んだ。

「どう? そろそろ気は済んだ?」

 煌びやかなシャンパンゴールドがきれいだ。さっきとは違って明るいコーディネートだから、全体的に爽やかでクリスの雰囲気とも合っていると思う。

 しかしながら。

「なんだか、騒々しいわね」
「そう、ですね……」

 さすがは母というべきか、エステル様は本当に容赦がない。見事にクリスの眉間に皺が寄った。

「騒々しくて悪かったね」

 これも似合っていないわけではないのだ。サテンの生地も相まって本当に眩いばかりに美しい。でも、なんだかあっちもこっちもきらきらしていて、目にやさしくない。

「そういえば、わたしもこういう色は似合わなかったわ」

 なんというか、人には許容できる輝きには限度があるのだとよく分かった。ただいたずらに華やかにすればいい、ということでもないらしい。おしゃれって難しい。

 ということで、次。

 ここは満を持して、シルバーを着てもらおう。

 と思ったのだけれど。

「そういう色は、好きじゃない」

 俯き加減に銀髪は流れて、整った顔を隠してしまった。青い目はタイル貼りの床を彷徨っている。

「え、なんで? 絶対似合うよ?」
「知ってる」
「じゃあ」

 前髪の間から拗ねたような青い目が覗いた。何かを訴えるように私を見る。
「あんまり明るい色を着ると幼く見えるんだよ」

「そうね。クリスは童顔だから」
「気にしてることをあえて言わないでください、母上」

 そうか、気にしてたんだ。

「そんなことないよ。薄幸の美少年って感じできっとかっこいいよ!」

「それって平たく言えば『不幸なガキ』ってことだろ? やだよ」
 一応フォローしたつもりだったのだけれど、そっぽを向かれてしまった。ご機嫌斜めらしい。

「そうよね。ただでさえ年下なんだもの。大好きなキャロの前では大人っぽく見せたいものね」
「まあ……そういうことです」

 すこぶる不機嫌そうではあったけれど、クリスはそこは否定しなかった。

 別に本人が言うほど子供っぽくはないと思うのだけれど、嫌がるものは着せたくない。こうなると、彼が日頃好んで着ている黒か紺辺りにするしかなくなる。

 悩んだ私は、助けを求めてローランさんを見つめた。
 ひとつ頷いて、ローランさんはゆっくりと口を開く。

「キャロライン様はやはりクリストファー様にシルバー系を着て頂きたいですか?」

「そうですね。きっと似合うと思うので」
 私の純粋な希望だけを言えばそうだ。

 次にローランさんは、クリスに目を向ける。

「クリストファー様は、キャロライン様にどのような色のドレスを着て頂きたいですか?」
「おれは……」

 クリスは顎に手をやってきょろきょろしたり天を仰いだりして、しばしの間考えこんでいた。

「あの、ミントグリーンのとかよかったと思うんですけど」

 さっき三着目に試着したものだ。金のビジューレースが贅沢に使用された華やかなものだけれど、色味が爽やかだから私でも安心して着られる気がする。繊細なチュールが幾重にも重ねられて上品なデザインだった。

「それでしたら」

 ローランさんは一度奥に姿を消したかと思うと、一着のタキシードを持って戻ってきた。

「こちらなどはいかがでしょうか」

「きれいな色ですね」
 光の当たり方によって、シルバーグレーにもグリーンにも見える不思議な色味。生地の光沢はしっとりと落ち着いて見えるのに、それでいて華やかだ。そうそう、こういうのを着て欲しかった。

「ブルーとゴールドの糸を織り合わせて仕立ててあります。こちらでしたら殊更幼く見えるということはないかと」

 ちらりとクリスの表情を窺う。彼は静かに頷いた。

「それでは、お二人ともご試着して頂きましょうか」
「私も、ですか?」

 一度着たというのに、もう一度着る必要があるのだろうか。

「ええ、ここからはお二人で着て頂くことに意味がありますので」
 首を傾げる私に、ローランさんは妖艶に微笑んでみせた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】君を迎えに行く

とっくり
恋愛
 顔だけは完璧、中身はちょっぴり残念な侯爵子息カインと、 ふんわり掴みどころのない伯爵令嬢サナ。  幼い頃に婚約したふたりは、静かに関係を深めていくはずだった。 けれど、すれ違いと策略により、婚約は解消されてしまう。 その別れが、恋に鈍いカインを少しずつ変えていく。 やがて彼は気づく。 あの笑顔の奥に、サナが隠していた“本当の想い”に――。 これは、不器用なふたりが、 遠回りの先で見つけた“本当の気持ち”を迎えに行く物語

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...