拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ

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番外編:花の女神と祝福の庭

9.紳士の振る舞い

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「あ、アラン様」

 目が合うとにこりと微笑むアラン様は、今日も辺りの全てを塗り替えてしまえるだけのオーラがある。

 残念ながらこれはまだ、グレッグ君にも、悲しきかなクリスにもない。年齢を重ねた大人にしかない風格のようなものだ。

「飾られたどんな花も、君の今の輝きに比べれば霞んでしまうようだ」

 そう言って、アラン様は私の前に跪き、恭しく手を取ったかと思うとこの手の甲に口づけを落とした。

「「なっ!!」」

 グレッグ君とクリスの声がユニゾンする。二人とも目がまん丸になっている。私もアラン様はこういう人だと頭では分かってはいるけれど、慣れるということはない。

「何してんだよ、おっさん!」

 慌ててクリスが声を上げる。その全てがまるで威嚇するように、アラン様を見る。

「それはこっちの台詞だよ」
 けれど、アラン様は余裕の態度を少しも崩さない。

「ていうか、なんでこいつがここにいるの」

 それには私が応えた。
「その、アラン様は叔父さんの取引相手だから」

「ああ、そういう」
「つまり私はキャロルの正式な招待客ということだ。せいぜい口の利き方に気を付けたまえよ、少年」

 クリスが小さく舌打ちするのが聞こえたような、気のせいのような。ただ何かを振り切るように頭を振ったかと思うと、

「お久しぶりです、オースティン卿。お会いできて光栄です」

 渋々とばかりにきれいな礼をしてみせる。恐ろしく不機嫌そうではあるけれど、正しい挨拶ではある。

「やあ、クリストファー君。ごきげんよう」
 橄欖色オリーブグリーンの瞳は少しだけ冷ややかになって、クリスを見た。

「にしても妻となる女性を放り出して決闘とは、愚かにもほどがあるんじゃないか。それとも君の一番大切なものは、その小さな意地なのかな?」

 クリスは何も言い返さなかった。ただ、左の手をぐっと握りしめた。

「さて、神聖なる婚約式で殴り合いとは、感心しないな」

 次にアラン様はくるりと体の向きを変える。その目はグレッグ君にも向けられた。

「なんだとっ」
「紳士にはそれにふさわしい振る舞いというものがある」

 拳を作ったグレッグ君にも、アラン様は少しも怯まない。片方だけ口角を上げて、余裕の笑みを作る。

「もっとも、君がぼうや・・・だというなら話は別だがね」

 そこで今度はグレッグ君も何も言えなくなった。ここで殴りかかってしまえば、自分は子供だと大声で囃し立てるようなものだ。

 代わりに二人は険悪な雰囲気のまま睨み合っている。互いにこのままでは引っ込みがつかないんだろう。
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