拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ

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番外編:花の女神と祝福の庭

11.ぼくらの憧れ

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「すみません。なんだかぼくらの揉め事に、巻き込んでしまって」
「いえ」

 ユーイン君は私から少し離れたところに後ろ手を組むようにして立った。眼鏡の向こうの目は盤上に向けられている。

 どうやらクリスが白で先手らしい。私はチェスに詳しくないからそれぐらいしか分からなかった。

「クリスは、勝てるでしょうか?」
「さあ、まだ序盤ですからね」

 しばらく二人の打ち合いを見守っていたら、ユーイン君が言った。

「ぼくが言うのも変な話ですけど、グレッグは本気で……あなたをばかにしたかったわけではないと思います」
「ええ」

 それは何となく、分かる。

 多分彼はクリスに何かしら思うところがあって、それをぶつける建前として私が選ばれただけのことなのだと。

「この中で僕とクリスだけ一つ年下なんですけど、入学した時に一番小柄だったのは早生まれのクリスでした。だから、グレッグはクリスをばかにして、チビって意味でkitキットって呼んでました」

 それを聞いて、私ははっとした。

 学校に入ったばかりのクリスは私より背が低かった。そんな風に言われるのも無理がないぐらいに。

 だから、ユーイン君はクリスのことを“キット”とは呼ばないのだ。

 けれど文通をしていたあの時、私の憧れのおじ様を演じながら、クリスは自分をばかにする名前を名乗っていた。それは一体、どんな気分だったのだろう。想像もつかなかった。

「随分前ですけど、クリスにイニシャルの刺繍の入ったハンカチを作ってあげたこと、ありましたか?」
「あ、はい。私が、作りました」

 そのことならよく覚えている。お守りだと言ってクリスに渡した。私が頷くと、ユーイン君は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、あなたがやっぱり“キャロライン”なんだ」

 それは、一体どういうことだろう。

「ぼくらの憧れ、だったんです」

 ユーイン君は晴れた空を仰ぐようにする。通り過ぎる雲に己を重ねているように、その目を細めてみせる。

「『僕のためにハンカチに刺繍してくれる女の人がいるんだ』ってクリスはひどく自慢げでした」

 だから、「本当にいたんだ」だったのか。

「ハンカチを最初に見つけてクリスから取り上げたのはグレッグでした。ぼくらはみんな子供で、そんな特別な人いなくて。グレッグもぼくもみんな、羨ましくて仕方なかった」

 それに、驚いた。私のハンカチにそこまでの力があったなんて。きっとすぐに捨ててしまったと思っていたのに。

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