拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ

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第二部:君の知らない物語

14.飲み込んだ石

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『昨日、十六歳になりました。次の夜会ではデビュタントを務めることになります。正直ちょっと怖いです。クリスと一緒に行ければよかったのに、と思いました』

 次の便箋を開く。

『もらった絵を部屋に飾っています。また湖に行きたいです』

 十六歳の彼女の素直な心の内が訥々と綴られていた。どこを見ても、僕のことばかり書かれていた。まるであの鈴が鳴るような声で読み上げられているような気がした。

 沢山の言葉が、光の雨のように、僕の下に振りそそぐ。

「なん、だよ……」

 読めばすぐに分かった。キャロラインが僕のことをどんな風に思っていたのか。

『クリスはすごく背が伸びましたね。どんどんかっこよくなっていって、私のことなんて置いて行ってしまうんでしょうか。いつか私なんかよりもっと可愛い恋人ができるのかもしれません』

「そんなことあるわけないだろ。ばかじゃないのか」

 口にしてから気づく。
 ああ、これはキャロラインが飲み込んだ石だ。

『こんなことばかり考えても何にもならないのに』

 世界でここにしかいない、僕より年下のキャロライン。
 どうして気づいてやれなかったんだろう。

「ばかなのは、おれの方か」

 どうしようもできなくなって、髪を掴んで項垂れた。

 運命は選ぶものだとも、アリシア様は言った。それは多分、正しい。
 けれど、それは選べる環境にある時だ。

 親を失って、なんの後ろ盾もなくなったキャロラインはずっと自分を抑えてきた。色んなものを諦めて、手放して、それでも彼女は笑っていた。

 誰にも見せなかった、あいつが水底に沈めた石。隠れて机の下で泣いている彼女。

「何にもならないだなんて、そんなことがあってたまるか」

 キャロラインを、迎えに行かなければならない。
 オースティン卿にも、キットにもそれはできない。
 これは、クリストファーにしかできないことだ。

 あんたが飲み込んだ石を僕が真珠に変えてみせる。
 閉じた窓をもう一度、開けてみせるから。
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