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第三部:物語のその先
1.まってるから
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母が、私の手を引いてくれている。まるで霞がかかっているかのように、視界の全てがどこかぼんやりとしている。
ゆったりとした服を着たエステル様が椅子に腰かけている。私と母の姿を認めると、彼女はぱっと満面の笑みを浮かべた。
『久しぶり、アリシア、キャロ!』
そう言うのは間違いなくエステル様に違いないのに、なんだがひどく若々しい。
いや、エステル様は今も少女のようではあるけれど。
『調子はどう、エステル』
『すこぶる元気よ! ずっと蹴られてるわ。これは絶対男の子ね!!』
『そっか。ならよかった』
母は安心したように笑い、向かいの席に座る。その隣に私も座らせてもらって、二人が話をするのを聞いていた。
『生まれるのはいつ頃?』
『うーん、予定通りなら三月の終わり頃かな。キャロとはちょうど、四歳差になるわね』
視界の端で、宙に浮いた自分の足がぶらぶらとしている。どうやらちょっと退屈らしい。
椅子からぴょんと飛び降りたかと思うと、私はエステル様の元へとぱたぱたと寄っていく。
ぺたりと、小さな手がエステル様のお腹に触れた。そのまま、私は不思議そうに首を傾げる。
『なにがはいっているの?』
そう言った声の幼さに驚く。
ああ、そうか。これは昔の記憶だ。だからなんだか見える世界の目線が低いし、母もエステル様も若いのだ。
『ここにはね、私の宝物が入っているの』
にこりと微笑んだエステル様が言った。
『たからもの』
確かめるように、小さな私が返す。
『そう、宝物。キャロも昔そうだったんだよ』
『そうなんだ』
そう応えてはみたものの、まだ意味がよく分かっていないのだろう。
『いっしょにあそべないの、つまらない』
幼い私はぷいっと、そっぽを向いた。
『大丈夫。もう少しすれば一緒に遊べるようになるわ』
『ほんとう?』
『本当よ。そのうち、キャロより大きくなるかもしれないわ』
なんだか含みのある笑顔でエステル様は終始にこにことしていた。思えばもうこの頃から、クリスと会わせる計画を立てていたのかもしれない。
『だったら、いますぐでてきてくれればいいのに』
『キャロライン!』
叱責にも似た母の声が飛ぶ。事が事だけに、この言い方はあまりよくないだろう。早産を願うだなんて、縁起でもない。
動揺した母を、静かに首を振るだけでエステル様は制した。
『そうね。わたしも早く会いたいってずっと思ってるわ』
慈しむように、エステル様は膨らんだお腹を撫でた。そして、少し身を屈めて小さな私と目を合わせた。
『でも、色々と準備が必要らしいの。キャロも頑張っている時に急かされると困るでしょう?』
『うん、やだ』
『だから、もう少し待ってあげて。遅くなって悪いって、きっとこの子も思ってるから』
『わかった』
小さな私は頷いて、もう一度エステル様のお腹に手を伸ばした。
『いそいで、ゆっくりきてね』
さっきのエステル様の真似をして、ゆっくりとお腹を撫でる。
『わたし、まってるから』
いくらかぎこちない手つきで、何度も何度も、私はそうしていた。
ゆったりとした服を着たエステル様が椅子に腰かけている。私と母の姿を認めると、彼女はぱっと満面の笑みを浮かべた。
『久しぶり、アリシア、キャロ!』
そう言うのは間違いなくエステル様に違いないのに、なんだがひどく若々しい。
いや、エステル様は今も少女のようではあるけれど。
『調子はどう、エステル』
『すこぶる元気よ! ずっと蹴られてるわ。これは絶対男の子ね!!』
『そっか。ならよかった』
母は安心したように笑い、向かいの席に座る。その隣に私も座らせてもらって、二人が話をするのを聞いていた。
『生まれるのはいつ頃?』
『うーん、予定通りなら三月の終わり頃かな。キャロとはちょうど、四歳差になるわね』
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椅子からぴょんと飛び降りたかと思うと、私はエステル様の元へとぱたぱたと寄っていく。
ぺたりと、小さな手がエステル様のお腹に触れた。そのまま、私は不思議そうに首を傾げる。
『なにがはいっているの?』
そう言った声の幼さに驚く。
ああ、そうか。これは昔の記憶だ。だからなんだか見える世界の目線が低いし、母もエステル様も若いのだ。
『ここにはね、私の宝物が入っているの』
にこりと微笑んだエステル様が言った。
『たからもの』
確かめるように、小さな私が返す。
『そう、宝物。キャロも昔そうだったんだよ』
『そうなんだ』
そう応えてはみたものの、まだ意味がよく分かっていないのだろう。
『いっしょにあそべないの、つまらない』
幼い私はぷいっと、そっぽを向いた。
『大丈夫。もう少しすれば一緒に遊べるようになるわ』
『ほんとう?』
『本当よ。そのうち、キャロより大きくなるかもしれないわ』
なんだか含みのある笑顔でエステル様は終始にこにことしていた。思えばもうこの頃から、クリスと会わせる計画を立てていたのかもしれない。
『だったら、いますぐでてきてくれればいいのに』
『キャロライン!』
叱責にも似た母の声が飛ぶ。事が事だけに、この言い方はあまりよくないだろう。早産を願うだなんて、縁起でもない。
動揺した母を、静かに首を振るだけでエステル様は制した。
『そうね。わたしも早く会いたいってずっと思ってるわ』
慈しむように、エステル様は膨らんだお腹を撫でた。そして、少し身を屈めて小さな私と目を合わせた。
『でも、色々と準備が必要らしいの。キャロも頑張っている時に急かされると困るでしょう?』
『うん、やだ』
『だから、もう少し待ってあげて。遅くなって悪いって、きっとこの子も思ってるから』
『わかった』
小さな私は頷いて、もう一度エステル様のお腹に手を伸ばした。
『いそいで、ゆっくりきてね』
さっきのエステル様の真似をして、ゆっくりとお腹を撫でる。
『わたし、まってるから』
いくらかぎこちない手つきで、何度も何度も、私はそうしていた。
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