【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ

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第二部

4.本物がここにいるんだから

「そのお祖母さまとやらに君の呪いのことは聞いたの? 解いてもらわなかったの?」
 聞けるものなら聞いてみたかった。何度そうできたらよかったと思ったか分からない。
「無理よ。わたしの呪いが分かる前に亡くなったもの」
 わたしがそう返すと、彼は驚いたように目を見開いて、やっとその可能性に思い至ったのか申し訳なさそうな顔をした。

「ごめん。そりゃそうだよな。その人がいたら君がおれに頼む必要もないか」
 なんでもお見通しのような彼にしては珍しいことだった。三百年も長生きしたら【死】という概念も他人事のように遥か遠くに流れていくのかもしれない。

 また稲光が走る。わたしはきゅっと目を瞑った。
「そんなに怖いなら、雷、止めてこようか?」
 おれには未来は視えないけど、とさも簡単なことのように彼は言った。まるで隣町まで買い出しに行くような口ぶりだった。

「できるの? そんなこと」
「やろうと思えば」

 冗談かと思って尋ねたけれど、窓の外の見遣る青い瞳は本気だ。雨はまだ激しく降り続いている。
「雨を操るのはあんまり得意じゃないんだよな……。師匠は雨を止めたりできたけど、おれがやると全部蒸発させる感じになる」
 偉大な彼の逸話の中に、干ばつに喘ぐ国の王様の祈りを受けて、両手で天を示して雨を降らせたというのがあったけれど、じゃあそれは本当のことはないのかもしれない。

 雨が止められないなら、彼はまたこの雨の中雷を止めに行くのだろうか。また、ぐっしょりと濡れてしまうのかしら。
 それもさることながら、わたしはこの闇の中にまた独りにされることの方が嫌だった。雷は確かに恐ろしいけれど、彼が居てくれれば随分と心強い。

「いい。このまま、ここにいて」
「分かった」
 彼はわたしを抱きあげると、寝台まで向かった。

 炎の魔法を使うからだろうか。彼はとてもあたたかい。自分のものよりも高い体温に包まれていると、心細さもするすると溶けていくような気がする。

「魔力っていくらでも使えるの?」
「まさか、その人の『器』にある分だけだよ。使い切ったら空っぽになる」
「使い切ったことはあるの?」
「随分昔に何度かね。最近はないけど」

 寝台に横たえられる。ブランケットを見つけると、彼はわたしをそれでぐるぐる巻きにするように包んだ。そして珍しく彼も同じように寝台に横になって、ブランケットの上から抱きしめられた。

「そういう時はどうするの?」
「おれは大体一晩ぐらい寝たらある程度戻るけど。欲求に忠実になる魔術師が多いって聞くよ。ほかには、好きなものを好きなだけ食べたり飲んだりとか、」
 彼の腕の中で、青い炎が照らす銀の睫毛の陰影まではっきりと見える。

「あとは、しこたま女に手を出すとかね」
 ハーディはわたしの額をこつんと小突いた。

 端正な顔が目の前でそんなことを言うので、息が止まりそうになった。
 そんなわたしを見て、ふふっと彼が笑った。

「おれはこの程度で空になったりしないから、そんな見境ないことはしないよ」
 わたしはどんな顔をしていたのだろう。浅ましく期待するような顔をしてはいなかっただろうか。といっても、呪いのある身ではそんなことはできないのだけど。

 真っ赤になった顔を見られないようにするために、彼の胸に顔を埋めた。雨と、いつもの彼の匂いがした。
 とくとくと彼の心臓の音がする。規則的で穏やかな鼓動がローブの下で脈打っている。雨音よりも大きく、その音が聞こえた。ほかのことなんてどうでもいいぐらい、彼のことしか考えられなくなってしまう。

 次第に頭がぼんやりしてくる。あったかくて安心して、眠くなってきてしまった。せっかく彼が傍に居てくれるのに、眠ってしまうのはもったいない。
「どうせなら、あなたの夢が見れたらいいのに」
 淫夢ではなくて、彼の夢。夢の中でも彼に会えたらきっと幸せだろうと思った。

「本物がここにいるんだから、夢を見ることもないよ」
 ぎゅっと彼が抱きしめてくれる。眠りに落ちるまで彼が傍に居てくることは少ない。

 そう思うと、恐ろしい雷に少しだけ、ほんの少しだけ、感謝したいような気もしてくるのだ。
感想 4

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