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第二部
9.どこでもないところ
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光が消えると、どこでもないところにいた。
時間や空間を超える魔法があると、お祖母さまから聞いたことはある。けれど、わたしは魔術師でもなんでもないので、実際に試してみたのはこれが初めて。仮にも魔術師の孫なのだから、もう少しぐらい魔法について勉強しておけばよかった。兄妹の中でも、魔法を使える人はいない。
夕闇のような不思議な光の中、右も左も分からない。少し歩いてみたけれど、進んでいる気がしない。歩を進める度に足がふわふわと沈んでいく気がする。ここはどこなのだろう。このまま当てもなく歩いて、果たしてハーディのところに辿り着けるのかしら。自分の思い通りにならないのは淫夢の中にいる時と少し似ている。
《なにをさがしているの? あなたはだあれ?》
子供のようにも、大人のようにも聞こえる声に呼ばれた。振り返ってみても、何もいない。ただただ空間が広がっているばかり。
《わたしはだあれ?》
女のようにも、男のようにも聞こえる。掴みどころのない声だった。
「わたしは、ハーディを探しているの」
《はーでぃ》
そう、わたしはハーディに会いたいと願った。
《はーでぃはだあれ?》
記憶は取り戻したけれど、わたしはハーディについて何も知らないことに気が付いた。本当の名前も、どこからきてどこへ帰るのかも。
握っている手がかすかに透けていた。何かがおかしい。逃れようと走る度に、ずぶずぶと沼に溶けていくような気がする。太陽もないのに、目の前に影が現れる。
《どこにいるの?》
それが分からないから、こうして歩いているのに。
「わたしは会いに行くって、決めたの」
《どうしてあいたいの?》
《あってどうするの》
《あいたくないかもしれないよ》
返す言葉もなかった。ハーディはわたしから記憶を奪って、もう二度と会う気はなかったのだとしたら。会いたくないと言われたら、今度こそ本当にわたしはどこへ行けばいい。
《なにをしっているの?》
右手を開く。あんなに輝いていた青い石は砕けて、手の中で粉々になっていた。鱗粉のような青い粉が不思議な空間に舞って消えていった。
わたしから、「彼」が零れていく。
時間や空間を超える魔法があると、お祖母さまから聞いたことはある。けれど、わたしは魔術師でもなんでもないので、実際に試してみたのはこれが初めて。仮にも魔術師の孫なのだから、もう少しぐらい魔法について勉強しておけばよかった。兄妹の中でも、魔法を使える人はいない。
夕闇のような不思議な光の中、右も左も分からない。少し歩いてみたけれど、進んでいる気がしない。歩を進める度に足がふわふわと沈んでいく気がする。ここはどこなのだろう。このまま当てもなく歩いて、果たしてハーディのところに辿り着けるのかしら。自分の思い通りにならないのは淫夢の中にいる時と少し似ている。
《なにをさがしているの? あなたはだあれ?》
子供のようにも、大人のようにも聞こえる声に呼ばれた。振り返ってみても、何もいない。ただただ空間が広がっているばかり。
《わたしはだあれ?》
女のようにも、男のようにも聞こえる。掴みどころのない声だった。
「わたしは、ハーディを探しているの」
《はーでぃ》
そう、わたしはハーディに会いたいと願った。
《はーでぃはだあれ?》
記憶は取り戻したけれど、わたしはハーディについて何も知らないことに気が付いた。本当の名前も、どこからきてどこへ帰るのかも。
握っている手がかすかに透けていた。何かがおかしい。逃れようと走る度に、ずぶずぶと沼に溶けていくような気がする。太陽もないのに、目の前に影が現れる。
《どこにいるの?》
それが分からないから、こうして歩いているのに。
「わたしは会いに行くって、決めたの」
《どうしてあいたいの?》
《あってどうするの》
《あいたくないかもしれないよ》
返す言葉もなかった。ハーディはわたしから記憶を奪って、もう二度と会う気はなかったのだとしたら。会いたくないと言われたら、今度こそ本当にわたしはどこへ行けばいい。
《なにをしっているの?》
右手を開く。あんなに輝いていた青い石は砕けて、手の中で粉々になっていた。鱗粉のような青い粉が不思議な空間に舞って消えていった。
わたしから、「彼」が零れていく。
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