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「やくさいとしょうじょ」
しおりを挟む森に火が燃え広がる中、ドラゴンは満足げに上空からその光景を眺めていた。
真紅の鱗が陽光を反射し、その瞳には捕食者の優越感が輝いている。
「今日も絶景だな。人間どもはもっと驚け、もっと泣き叫べ!」
そう豪快に笑う彼の前に、突然、一人の少女が姿を現した。
「ちょっと! 何してるの!」
地面に立つ小柄な少女が、ドラゴンに向かって叫んだ。
その声は細いが、どこか腹が据わっている。
ドラゴンは目を細め、巨大な爪であくびをする。
「なんだ、虫ケラが話しかけるとは珍しいな。恐怖で声が出なくなるのが普通だろう?」
少女は少しもひるむことなく、胸を張って言った。
「私はリナ! あんたみたいなヤツに負けないんだから!」
ドラゴンは思わず鼻で笑った。
「おいおい、名乗られても困るんだが? お前なんてひと息で吹き飛ばせるんだからな。」
「やれるもんならやってみなさいよ!」
その挑発にドラゴンは戸惑った。普通ならこの時点で逃げるのが人間だ。だが、目の前の少女は逃げるどころか、一歩踏み出してきた。
「な、なんだこの生き物……」
「いいか、そこのでっかいヤツ。こんな風に火を放って、楽しいわけ?」
少女の瞳は真っ直ぐだった。その目を見た瞬間、ドラゴンの中に不思議な感覚が生まれた。
「あ、ああ、楽しいさ。人間どもが泣き叫ぶのを見るのは最高の娯楽だ……多分……」
「多分?」
リナが首を傾げる。ドラゴンは思わず視線をそらした。
「いや、別に……うるさいな! お前みたいな小さな生き物に俺の楽しみが分かるわけない!」
「ふーん。それなら聞くけど、壊した後に何か楽しいことあるの?」
「えっ?」
ドラゴンは言葉を失った。壊した後のことを考えたことなど一度もなかったのだ。
「……ま、まあ、その……」
ドラゴンは口ごもり、爪で地面をカリカリと掻いた。
リナはため息をつきながらドラゴンを指差した。
「やっぱりね。あんた、ただの大きな子どもなんじゃないの?」
「こっ、子どもだと!? この俺が?」
ドラゴンは目を剥き、真っ赤な顔で怒鳴り返すが、リナはまったく動じない。
「そうよ、どうせ壊すのが楽しいとか言って、後のことなんて何も考えてないんでしょ?」
その言葉にドラゴンは返す言葉が見つからなかった。
「ぐ……ぐぬぬ……!」
「よし、決めた! あんた、私の友達になりなさい!」
「なっ、友達!?」
ドラゴンは思わず声を上げた。そんな提案をされたのは、何百年生きてきた中で初めてだった。
「だ、だいたい、お前みたいな弱い生き物と友達になる理由がない!」
「理由なら簡単よ。壊すだけじゃなくて、もっと楽しいこと教えてあげるから!」
リナの笑顔がまぶしくて、ドラゴンは思わず視線を泳がせた。
「そ、そんなものに興味はない!」
「へえ、そう? でも逃げるの?」
「逃げるわけではない!」
「じゃあ決まりね!」
リナは無邪気な笑顔を浮かべて、ドラゴンの巨大な足にぴょんと飛び乗った。
「さて、まずはこの炎をどうにかしてもらおうかしら?」
「お、お前……! 勝手に触るな!」
ドラゴンは文句を言いつつ、なぜか少女を追い払うことができなかった。
こうして、ドラゴンと少女の奇妙な関係が始まったのである。
ドラゴンは自分の中に芽生えた、この初めての感情を理解することもできず、ただ混乱していた――。
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